「ふはははは~、お前のその記憶こそがウソなのだー」なんてセリフをヒーローもののテレビやマンガで見たことのある人も多いでしょう。刷り込まれた記憶によって、主人公がピンチに陥るのは、定番の一つだからです。
でも、本当に記憶に刷り込むことが可能だとしたら、ちょっと怖くありませんか?
記憶にまつわる恐ろしい事実を、心理学の実験からご紹介します。
- 「思い出す」ポイントは写真
- 回数が増えれば架空の出来事が「記憶」となる
- 盛りすぎたインスタの写真は大丈夫!?
「思い出す」ポイントは写真
自分がどんな人間なのかは、過去の行動が教えてくれるでしょう。例えば「自分は内気なんだ」という思いは、他人とすぐに仲良くできないといったような記憶が支えてになっているものです。
逆に言えば記憶が実際の体験と違っていたら、自分の見え方も少し変わってしまうかもしれません。
ヴィクトリア大学のスティーブン・リンゼイが行った実験は、記憶の不確かさを明らかにしたものです。この実験で、リンゼイは実験参加者の大学生に小学校時代の出来事について3つ質問しました。そのうち2つが両親から確認したもので、1つは架空の出来事でした。
それは「小学校低学年のときに担任の机にスライムを仕込んだ」というたあいもないイタズラ。
大学生たちは3つの出来事について説明した文章を読まされ、できる限り思い出すように言われ、それぞれの出来事を覚えているのかインタビューを受けました。また、大学生の約半数には当時を思い出す資料として、各出来事の時代に対応する学級写真を添えました。
すると驚いたことに、写真を添えなかったグループの45.5%が架空の出来事を記憶していると答え、写真を添えたグループの78.2%がスライム事件を記憶していると回答したのです。
約80%もの人が偽の記憶を刷り込まれたと考えると、ちょっと怖くないですか?
回数が増えれば架空の出来事が「記憶」となる
さらにウェスタン・ワシントン大学のアイラ・ハイマンとジョエル・ペントランドは、学生65人に幼児期に起きた実際の出来事と架空の出来事を示し、詳細を思い出すように指示したのです。こうしたインタビューを1週間の1日おきに3回行いました。結果、インタビューの回数が増えれば、増えるほど架空の出来事を記憶していると答える人が増えたというのです。
この実験通りに人の記憶が改ざんされるなら、例えば、小学校時代の友人数人が写真を持ちながら架空の記憶を語り合えば、架空の話だと知らない人はかなりの確率で実際にあった出来事だと思ってしまうということになります。
「いやいや、実際の出来事と起こりそうな出来事をまぜて思い出す実験だからでしょう」と思った人は要注意。そんなに自分の記憶を信じないほうがいいかもしれません。
盛りすぎたインスタの写真は大丈夫!?
じつは米国では、記憶の刷り込みが裁判の重要な争点になったことすらあるのです。
1980年代に起きた「マクマーティン事件」では、カリフォルニアにある保育園の保育士が、児童に性的虐待をしたとして告発されました。しかし裁判では心理学者が、調査員によって架空の記憶を刷り込まれたたと主張。この裁判は全米で大きく報じられました。
たび重なる記憶の確認や誘導によって、記憶が少しずつ変わっていく可能性があることは心に留めておくべきでしょう。そもそも他人からの干渉がなくても、自分の都合のよいように記憶を改変していることも少なくないのですから。
インスタグラム、フェイスブックなどに写真とともに“盛った”経験をアップしていたら要注意です。いつの間にかでっち上げた事実を忘れてしまうかもしれません!
ただ、 “盛った”記憶の方が幸せだというのであれば、あえて他人が止める必要はないかもしれませんが……。
参考:『意識的な行動の無意識的な理由』(越智啓太 編 創元社)