「バイトテロ」でも話題になったネットと承認欲求について専門家に聞いてみました!

「バイトテロ」でも注目を浴びたインターネットと承認の関係について、精神科医であり『認められたい』(ヴィレッジブックス)の著者でもある熊代亨氏に話をお聞きしました。

  1. ゲームやSNSしかないことがハイリスク
  2. ネットの承認欲求は過激な言動に結びつく
  3. ネットにはまっても多くの人は健全に生きている

ゲームやSNSしかないことがハイリスク

ネット依存やゲーム障害というと、一括りに 「悪者」という形で問題視されています。しかし、そのネットやゲームを楽しみ、それを欲求充足のよすがとしながらなんとか社会と折り合いをつけている人も多くいます。だから、一概にネットで生きる人たちを否定することはしたくありません。

学生時代、ゲームセンターにあるアーケードゲームで県代表になるほど熱中した我が身を振り返ってみると、1日 10 時間以上ゲームをやりこむ若者の実態はまったく不思議ではありません。実際そうして全国ランク1位を取った知人もいますが、彼はゲーム障害にはなりませんでした。それはゲーム以外にも承認欲求、所属欲求が満たされる楽しみや付き合いがあったからです。インターネット依存やゲーム障害に該当するケースを見るに、ゲーム以外の欲求充足の手段が無い方が大半です。

プレイ時間自体に分水嶺があるのではなく、ゲームやSNSしかないことがハイリスクの兆候と言えるでしょう。

仕事や家族を失い、社会関係をなくして社会との繋がりが途絶え、もう一度社会的欲求を充たすための再構築ができない。そうした状況からさらなる深みにはまってしまう。ここら辺の状況は、アルコール依存症の方たちと似ています。ただ、アルコール依存に比べて、純然たる行動嗜癖であるネット依存やゲーム障害は依存から抜け出す人が比較的多く存在しています。

ネットの承認欲求は過激な言動に結びつく

かつては「◯◯社の誰々です」と言うだけで認めてもらえたり、社員旅行・社内運動会・飲みニケーションで承認欲求と所属欲求を充たしたりしていました。そういうしがらみのなかで充たさなければならなかった、とも言えます。

ただ、欲求充足としがらみはコインの表裏で、しがらみが弱くなり自由に承認欲求や所属欲求の場所を選べるようになった反面、自分で両方を充たさなければならなくなってしまった。会社に入っていれば安心、会社が共同体という認識を社員が持っているかというと、今は終身雇用ではないため、そこまで会社にも心理的に繋がれないし頼ることも難しくなっているんじゃないでしょうか。

インターネットで欲求を充たす場合、一つの投稿によって瞬間湯沸かし器的に有名になって承認されるのは比較的簡単でも、ずっと承認され続けるというのはとても難しい。自分ではセルフコントロールしているつもりでも、見る側はもっと面白いものを、もっと楽しいものを期待します。そうすると周りに引っ張られて結果的に言動や行動がエスカレートしてしまう。そういう方は、ニコニコ動画でもユーチューブでもブログでもツイッターでも後を絶ちません。

認められたい、たくさんの人に読まれたいと承認欲求を充たすために投稿し続けると、どうしても過激な表現になってしまいます。

だから、私も自分のブログにはあまり読まれないであろう記事を定期的に書くようにしていて、それが長く続ける秘訣だと思っています。それでも欲求に飲まれて脱線しそうになることもあります。だから古参のネットユーザーの間では、急激にフォロワーの数が増える状況は危険だと言われています。

ネットにはまっても多くの人は健全に生きている

そもそも、ネットメディア自体がユーザーの「いいね」などの承認欲求、リツイートやシェアなどの所属欲求に意識が向くように作られてしまっているのが現状です。それはやはり今日のネットメディアの問題点であり、注視しておくべきポイントだと思います。

 もちろんインターネット依存、ゲーム障害と して臨床的にケアが必要な人たちがいることは重大な問題ではありますが、他方で今の若者はSNS、ソーシャルゲームという欲求充足が簡単にできる強力なシステムを相手取ってさえ、それなりに健全に生きている人が多い点にも目を向けるべきだと思います。

 そこは私のような臨床だけではなく、ネット文化にも通じている、ある意味での「外野」の立場の者が、臨床の世界とソーシャルゲームの世界は連続的だけれども違っているといった視点を発信していくべきだと思っています。

総論としてはインターネット依存、ゲーム障害が治療されていくということは、良いことだと思っていますが、過剰診断になってしまうような未来は見たくないんです。世の中には、治療を必要とする人だけでなく、思春期のはみ出しとみなすべき人や、それらに助けられて何とか適応している人もたくさんいます。彼らを肯定的に見る視点を、私は臨床の先生方にも知っていただきたいです。障害未満のネットやゲームの世界が知られていくことを、切に願っています。

一般社団法人日本産業カウンセラー協会の会報誌『JAICO-産業カウンセリング-』から一部抜粋しました。会報誌は日本産業カウンセラー協会会員の方に送付されています。

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