よく知っている同僚や部下など、仕事の仲間が突然の不幸に見舞われたら、自分のことのように辛くなると同時に、戸惑いも生まれてしまいますね。愛する人を亡くしたときに人が経験する「悲しみの5段階」を知りましょう。
- 親や兄弟、子どもを急に亡くした人が同じ職場にいたら、どう接するべき?
- キューブラー・ロスの「悲しみの5段階」
- 悲しみの5段階を知っておくと、より客観視ができる――筆者の経験から
- 大切なのは、見守ること
親や兄弟、子どもを急に亡くした人が同じ職場にいたら、どう接するべき?
結論からいえば、接し方に正解はありません。急に肉親を亡くした人のなかには、そっとしておいてほしいという人もいれば、積極的に話を聞いてほしい、そして癒されたいという人もいるでしょう。また、初めはそっとしておいてほしいと願っても、そのうち誰かに話を聞いてほしいという意欲が湧いてくる人もいるかもしれません。
正解がないことを踏まえつつも、愛する人を亡くすとどんな心理状態になるのかを学んでおくことは、接し方のヒントになります。心理学分野で有名な「悲しみの5段階」を知って、精神的なプロセスについて押さえておきましょう。
キューブラー・ロスの「悲しみの5段階」
「悲しみの5段階」とは、ドイツの精神科医であるキューブラー・ロスが確立した精神プロセスです。ロスは200人もの末期がん患者と面会し、死を告知された本人や家族がどんな精神的段階を経ていくのかを明らかにしました。5つの段階について、詳しく解説しましょう。
・否認
まずは、死を否定し、受け入れないという心の動きがあります。具体的には、告知された本人は告知を受け入れられず、家族は亡くなった人の部屋を片付けられない、火葬できないができないなどといった事態が発生します。
・怒り
次に、「どうして自分だけがこんな目に合うのか」「自分がもっと適切な対応をしていれば、死ぬことはなかったのでは」など、他人や自分、運命に対して怒りがこみ上げてきます。実際に怒りを他人にぶつけることも、少なくありません。
・取引
取引とは、「何とか死を免れたい。そのためなら何でもする」などと、神仏にすがる段階です。スピリチュアルに没頭する人もいるようです。
・抑うつ
何をしても死という現実から逃れることはできないのだと感じると、希望をなくし、抑うつ状態に入ります。どんなことをしても楽しいと思えない、何にも集中することができないといった時期が続きます。
・受容
悲しみを感じながらも、最終的には、死を受け入れていきます。そして次第に日常生活ができるようになっていきます。また、家族も思い出とともに愛する人の在りし日の姿を振り返ることができるようになっていきます。
悲しみの5段階を知っておくと、より客観視ができる――筆者の経験から
ロスの研究は「死につつある人とその家族」を対象に行ったものなので、すでに肉親を亡くした人に、すべて当てはまるわけではありません。しかし、参考になるところは多々あるでしょう。筆者は以前、葬儀社で働いていたことがあり、たくさんの遺族と接してきました。そのなかで、「悲しみの5段階を知っておいてよかった」と思った経験は、いくつもあります。
小児がんで2歳の子どもをなくした母親は、火葬をなるべく引き伸ばしたいと言って譲らず、葬儀の翌日に火葬を行いました。このときほど「否認」の状態を強く感じたことはありません。
また、遺族や親族らから理不尽な怒りを向けられることがありましたが、それは決まって突然死を経験したお宅でのことでした。「遺族は『怒り』のプロセスの最中なのだ」と捉えることができると、突然の怒りに触れても動揺せずにすみました。
また、四九日法要が終わる頃、アフターフォローに訪れようとすると、「来なくても結構です」という遺族がちらほらいました。これも、突然死を経験した遺族に多い反応で、まだまだ抑うつ状態にあることが考えられました。
悲しみの5段階を知らなければ、筆者は怒られれば戸惑い、「来なくていい」と言われれば「失礼なことをしたのかも」と落ち込んでいたかもしれません。このように、遺族の心理プロセスを知ることは、接する人のメンタルを安定させるためにも役立つのです。
大切なのは、見守ること
家族を突然亡くした人は、大きな精神的ダメージを負っています。周りの人にとって大切なのは、その人の状態を観察し、見守ることです。今、悲しみの5段階のうちどんなプロセスにいるのかを、見守る中で把握しましょう。
マネージャーの立場にいる人は、さらにその人の仕事状況を注意深くチェックして。失意の中では、集中力が低下します。するといつもならしないミスが発生することも考えられるためです。無理のないよう、仕事の割り振りを考えるのもまた、管理職の役割です。
カウンセリングの基礎である「傾聴」の態度・技法と、支援活動 に興味のある方はこちらをご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『ココロの謎が解ける50の心理実験』清田予紀、王様文庫