「推し」という言葉を知っていますか?NHKの「あさイチ」でも紹介され、最近、にわかに注目が集まっています。じつは心理学的に見ても、「推し」のいる生活は幸福感が強くなるようなのです。
- 老若男女問わず広がる「推し」
- カップルや親子で楽しむアイドルライブ
- 3つの欲求から「推し」の幸福感を考える
老若男女問わず広がる「推し」
「推し」とは、「人にすすめたいほど気に入っている人や物」(デジタル大辞泉)という意味です。もともとはアイドルなどの「一推しのメンバー」が短くなり「推しメン」に。それがさらに短くなって「推し」になったと言われています。
じつはアイドルなどの熱狂的なファンである「オタク」の用語として「推し」が使われていたときは、かなり激しい熱狂を指す言葉だったようです。しかし現在は、もう少しライトな「推し」を多くの人が持つ傾向にあるようです。
NHKの番組「あさイチ」で、「あなたの“推し”を教えて!」というアンケートを実施したところ、番組史上最高4万4,690件もの回答が届いたそうです。「推し」の対象も、アイドル・アーティスト・俳優・芸人・スポーツ選手・アニメやゲームのキャラクターなど多様でした。
カップルや親子で楽しむアイドルライブ
では、どうして「推し」がここまで広まったのでしょうか?
じつは「推し」が生まれたアイドルの世界でも、環境がかなり変わってきたという指摘があります。
もともとアイドルはマスメディアを通してファンになるものでしたが、AKB48が秋葉原に劇場を持ち「『会いにいける』アイドル」として売り出しました。より身近な存在になったのです。さらに近年、インスタグラムやツイッター、SHOWROOMなどでプライベートのアイドルの生活が見られるだけではなく、動画配信などを通してチャットなどでコミュニケーションを取ることができるようになりました。
こうしてアイドルへのアクセスが増える中で、男性だけではなく、女性もアイドルのファンとなり、最近ではカップルでアイドルのライブに一緒に行くといった行動も珍しくなくなったのです。
また、ジャニーズ事務所に代表されるようにアイドルの「寿命」も長くなり、母と娘の二代で同じアイドルのコンサートに行くといった行動も広がっています。
つまり現在は年齢や性別に関係なく「推し」を楽しむ環境が整ったといえそうです。
さらに時代は「モノ消費」から「コト消費へ」へと変わったと言われるように、消費者が経験にお金を支払うようになり、ライブや動画配信などの「投げ銭」、応援としてのグッズ購入などが、より時代のニーズに合ってきたともいえるでしょう。
3つの欲求から「推し」の幸福感を考える
NHK番組「あさイチ」のアンケート調査では、「推しがいてよかったコト ベスト3」は次のようになっています。
1.「推し」に出会って考え方がポジティブになった
2.かけがえのない「推し仲間」に出会えた!
3.家族との関係性がよくなった!
どれも幸せに直結するようなアンケート結果ですね!
このアンケート結果を少し心理学的に分析してみましょう。
じつは人が幸福感を高めるためには、次の3つの要求が満たされればいいことがわかっています。
①関係性欲求:周囲の人との良い関係でありたい
②有能性欲求:有能な人間でありたい
③自律性欲求:自分の行動を自分で決定したい
「あさイチ」のアンケート結果の2・3は、①関係性欲求の関係性欲求に関連することだとわかります。また2の「かけがえのない推し仲間に出会えた!」というのは、自分と共通点のある人に親近感を抱く「類似性の法則」にも合致しており、一般的な出会いよりも親近感が湧きやすい状況が「推し」でつくられたといえそうです。
さらに他人のためにお金を使うときには、上記の①~③すべてが働くとされています。
「推し」を応援するためにグッズを買うことは、「推し」との関係性がよくなるのはもちろん、他人に有能さを示すことにもなるので、自分がほしい商品を買うより幸福感を高める可能性が高いのです。また自分でグッズ購入を決定しているので、③の自律的要求も満たすことができます。
もちろん「推し」に力を入れすぎて、お金を使いすぎたり、家族との関係が微妙になるなどには注意する必要があります。しかし適度な「推し」のいる生活は幸福感を高め、生活を豊かにする効果がありそうです。
心理学の自身の生活をよりよくしたいと思った方は、こちらもご覧ください。
参考:「ファンにみる現代人の心理自分自身を大切にしてあげたいという想い」(松井豊)/「他人のためにお金を使う方が幸せになる」(心理学ミュージアム/日本心理学会)/「アイドル・エンタテイメント概説(3)」(植田康孝)