落ち着きがない、忘れものばかりする、ゲームで夜更かしばかりしている……。子どものそんな行動を、「あなたはいつも、●●ばかり!」と怒ってしまっていませんか。自分が悪いと思うところを指摘してばかりだと、その癖が治るどころか、どんどん強化されてしまうかもしれません。ラベリング効果の理論を正しく使って、自主的に行動ができるように育ててみませんか。
- ラベリング効果とは
- ミラーの実験
- 良い部分を見つけたら、すかさず褒める!
- 悪いところは「あなたはもともとそういう人」という決めつけを避ける
- ラベリング効果を正しく使えば、親も子どもも気持ちが健やかになる!
ラベリング効果とは
ラベリング効果とは、他人から「あなたはこういう人だよね」と言われ続けると、本当にその通りの人間になってしまう現象を指します。日本語では、「レッテル貼りをする」なんて言われることもありますね。
例えば、素行の悪い「不良少年」は自らの性格傾向によって不良になると思われがちです。「あいつは昔から粗暴だった」などと言われてしまいがちですが、実は、不良少年はなるべくして不良になるわけではないのです。不良のレッテルを貼られることで、そのあとも非行を繰り返してしまうようになるのだと、ラベリング理論は警鐘を鳴らしています。
一方で、ラベリング効果はポジティブなレッテル貼りにも使えます。アインシュタインが、幼少期には学校の先生から「知的障害がある」とされていたことをご存知でしょうか。9歳になるまでめったにしゃべることがなく、アルファベットも正確に書けなかったというのです。
しかし数学の才能はずば抜けており、両親は息子の才能を信じて学校の評価から幼いアインシュタインを守り、誉め言葉をシャワーのように浴びせて育てたといいます。彼が「知的障害」のレッテルを貼られたまま育っていたら、20世紀最大の科学者は生まれなかったかもしれません。
ミラーの実験
ノースウェスタン大学の心理学者であるミラーは、ラベリング効果を実証するため、次のような実験を行いました。小学校のあるクラスで、先生が「みんなは、とってもきれい好きだよね」と、繰り返し褒めるようにしたのです。一方、また別のクラスでは、このラベルづけは行われませんでした。
すると、「きれい好き」のラベルを貼られたクラスにおいては、約82%の生徒がゴミを自ら拾うようになりました。一方で、何もラベルづけをしていないクラスでは、約27%の生徒しか、自主的にごみを拾わなかったといいます。この差はとても大きいですね。子育てをするにあたり、ラベリングは非常に有効であることを、この実験は物語っています。
良い部分を見つけたら、すかさず褒める!
せっかくですから、ラベリング効果は良いほうに使いたいものです。とはいえ、散らかしっぱなしで片づけをしない子どもに「あなたはきれい好きだから」と繰り返しても、何も根拠がなければ不自然なままですよね。良いところを見つけたら、すかさず褒めるのが大事です。
「そうはいっても、わが子の悪いところを見つけるのは簡単だけど、良いところを見つけるのは難しい」と嘆く方は、その意識にこそ課題があるといえます。「この子は、こんな問題がある子」というレッテルを、自ら貼っていないでしょうか。
子どもの能力を信じ、良いところを観察する力を持ちましょう。良いところを見つけたらすかさず褒めるようにしていけば、「自分はいい子」という意識が育ち、問題のあるところも正そうと、子ども自身が自然に思えるようになりますよ。
悪いところは「あなたはもともとそういう人」という決めつけを避ける
さらに、ネガティブなラベリングを増やさないことも重要です。「あなたは、本当に●●してばかり」と、問題行動を本来の性格傾向と結びつけて叱ってしまっていませんか。それでは、ネガティブなラベリングが子どもについて回ってしまいます。
子どもがうっかりなにかをしてしまっても、その行為だけを指摘して、「次から気をつけようね」と言うにとどめましょう。「珍しいね、いつもはできるのに」という言葉もいいですね。「あのときもこうだった」などと、過去の失敗をあげつらって「だからあなたはこういう人間」とまとめてしまっていたとしたら、変えていきましょう。根深いネガティブなラベリングは、大人になってもついて回り、仕事や人間関係での失敗に結びついてしまう可能性もあるのです。
ラベリング効果を正しく使えば、親も子どもも気持ちが健やかになる!
ラベリング効果を正しく使えば、子どもは自主的に行動を起こしてくれるようになります。親の側から「こうしなさい」とわざわざ促さなくても済むため、ストレスがありません。子どもの側も、自ら正しい行動ができたことで、自分への信頼が高まり、自信が持てるようになります。
その結果、親も子どもも気持ちが健やかになり、日々の生活に幸せを感じやすくなることでしょう。ラベリング効果は、親子が気持ちよく暮らせるための手段です。「叱ってばかりで生活に笑いがない」「私がああしろ、こうしろと言ってばかり」と感じている人は、ぜひ活用してみてください。
参考:『手にとるように社会心理学がわかる本』内藤誼人、かんき出版