顧客満足度を上げたければ値段を高くしろ? 認知的不協和のメカニズム

突然ですが、あなたがラーメン屋の店長だとしましょう。周囲のお店と味も値段もそう変わらないのに、全く売れ行きが振るわないとしたら、あなたはどうしますか。じつはお客様の満足度を上げるのに一番簡単な方法が、ラーメンの値段を上げることです。それはなぜか? 自分が不快になることを無意識に避ける、認知的不協和のメカニズムが作用しているからです。

  1. 「さすがに値段が高いだけある」は当然?
  2. ワインの味に関する心理実験
  3. 実験からわかる認知的不協和のメカニズム
  4. だまされたと思って、値段を上げてみる?

「さすがに値段が高いだけある」は当然?

値段の高いラーメンが美味しいのは、素材や調理法がいいのではなく、単に値段が高いからだと言われたら、あなたはどう感じますか。もちろん料理人の技術がしっかりしているという要素は外せませんが、値段も美味しさの重要なポイントなのです。

それを証明する心理実験があります。

ワインの味に関する心理実験

2008年、ドイツの心理学者プラスマンは、中身の同じワインに違う値札をつけ、参加者に飲ませる実験を行いました。一方のワインには10ドル、もう一方には90ドルという、かなり極端な差をつけたのです。そして、ワインを飲む参加者の脳活動量を計測しました。

計測したのは、楽しさや幸せを感じたときには活動量が強く、長くなる脳部位です。つまり、状態に満足するほど活発になる場所なのです。飲むワインの中身は同じなのですから、同じ条件であれば、ワインの美味しさは同等のはずです。

ところが、「10ドル」のワインよりも「90ドル」のワインのほうが、参加者たちの脳活動量がはるかにアップするという結果になりました。「高いワインを飲んでいる」という意識が、満足感に多大な影響をもたらしたということになります。

実験からわかる認知的不協和のメカニズム

人が矛盾する2つの意識を抱えたとき、強い不快感を覚えることを、心理用語で「認知的不協和」といいます。この認知的不協和を解消するために、人は無意識に自分の態度を変えるのだとか。ワインの心理実験は、認知的不協和を人がいかに正そうとするかをあらわにしました。

「高いお金を払って買ったワインが、それほどの味でもない」という場合、人は強い不快感を覚えてしまいます。それを避けるため、無意識に「高いなりに美味しい」と納得できるよう、自分で自分をだましたと考えられます。これに対して、安いワインは「それなりの美味しさ」と判断したため、認知的不協和が起こらず、満足度もそれなりだったのです。

自分で自分をだますというのは恐ろしいことのように思えますが、人は日常的にこんなふうに意識を調整しているのです。ほとんど成分が変わらない化粧水でも値段の高い方が効くんじゃないかと思い込んだり、行列に並び待たされただからこそ、出されたトンカツが世界最上のものに思えたり……。心当たりのある人もいるのではないでしょうか。

だまされたと思って、値段を上げてみる?

認知的不協和のメカニズムを考えれば、値段が高ければ高いほど、お客さんには満足してもらえる可能性が高いといえます。ただ、ここで問題がひとつ浮上します。これまでのラーメンの値段を単純に上げても、もともとの味を知っている人は「値上げだ」と思うだけでしょう。

そう、高いラーメンを売るにはただ値上げするのではなく、新商品を開発して特別なラーメンとして売り出すことが必要です。他にも、「こんなに代償を払ったのだから、美味しくないはずがない」と思わせる工夫があれば、いちだんと満足度は高まります。例えばお店へのアクセスが悪すぎる、3ヶ月以上の予約待ちをしなければならない、などなど……。

ただどうしても解決できない問題もあります。

それは、どんなに高い値段を付け、特別感を演出しても、「マズイものはマズイ」と言い切ってしまう人が一定数いるということ!

となるとお客様の満足度をあげるには、ラーメン修行しかないのかという実のフタもない結論になるのかも……。

参考:『脳がシビれる心理学』

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