モノを売る仕事をしている人なら、「この商品にはどんな広告を打つべきか?」と、ついつい気になってしまいます。商品そのものの魅力はもちろん大事ですが、キャッチコピーや写真やイラストのイメージで、売り上げは大幅に変ります。
どんな広告が有効といえるのか、ある心理実験から考えてみましょう。
- 幸せを感じる広告と危機感をあおる広告、あなたはどちらが好み?
- カニンガムの援助実験
- 広告を見て購買欲求が高まるのは援助行動とは違うけれど
- 「今、世間はどんな気分なのか?」を広告に反映させよう
幸せを感じる広告と危機感をあおる広告、あなたはどちらが好み?
例えば、アンチエイジングに効く化粧水の広告を担当しなければならなくなったとします。その化粧水を使えば幸せな気分になれることを強調したポジティブ広告と、その化粧水を使わなければ大変なことになると危機感をあおるネガティブ広告、商品が売れるのはどちらだと思いますか。
ポジティブ広告であれば、「極上の一滴で、マイナス3歳のうるツヤ肌」、ネガティブ広告であれば、「時よ止まれ! 砂漠肌のピンチに救世主」といったようなキャッチコピーが考えられます。
さて、どちらを選びますか。どちらが好みかアンケートを取り、多数決で決めるという手はいかがでしょうか。「広告のキャッチコピーは、そんな風に安易に決めるものじゃない」と思う人もいるかもしれません。しかし、この安易さが意外に有効であることを、心理実験が教えてくれます。
カニンガムの援助実験
アメリカの心理学者、カニンガムは「陽気な気分のときと、罪悪感を覚えるとき、人はどちらのシーンでより人を助ける行為を選ぶだろうか?」と課題を立て、次のような実験を行いました。
参加者にあらかじめ陽気な気分か、ちょっとした罪悪感を持ってもらう心理操作を行った後、実験者が「世界の子どもたちへの募金をお願いします!」と言って、慈善行為を促します。実験者が掲げるポスターには2つのパターンがありました。
一方のポスターには「子どもたちの笑顔を絶やさぬよう、ご協力ください」と書かれ、笑っている子どもの写真が貼られています。もう一方のポスターには「あなたにはこの子どもたちを援助する義務があります」と書かれ、暗い表情をした子供の写真が貼られています。一方はポジティブ、もう一方はネガティブな広告です。参加者にはいずれかを見せて、募金行為を行うかどうかが観察されました。
すると、あらかじめ実験者によって陽気な気分にさせられていた人は、ポジティブ表現のポスターに惹かれて募金を行う確率がかなり高まりました。そして、ちょっとした罪悪感を持たせられていた人はネガティブなポスターを見て募金をする人が多いという結果になりました。
広告を見て購買欲求が高まるのは援助行動とは違うけれど
この実験結果を受けて、カニンガムは「自らの感情が援助行動に影響を及ぼすと考えられる」と結論づけています。自分の気分と要請のしかたがマッチングしなければ援助する気にならないというのは、日常生活においてもうなずけることかもしれません。ビールを飲んでご機嫌な夫に「これをしないと大変なことになる」と険しい顔で家事を要請しても、なかなか心に届かないことを、多くの主婦が経験済みでしょう。むしろにこやかに、明るい表現でお願いしたほうが、ご機嫌なままやってくれるものです。
もちろん、購買意欲を高めることと、援助行動を促すことは違います。しかし、その場、その人の気分によって広告への反応が違うこと、自分の気分に沿った広告により反応することには、注目すべきでしょう。
「今、世間はどんな気分なのか?」を広告に反映させよう
よりたくさんの人の心を動かさなければならない実際の広告においては、対象者一人ひとりの気分というよりは「今、世間はどんな気分なのか?」を考えなければなりません。不景気、災害などの理由で人々がふさぎがちな気分になっているときに、派手で明るい広告を打ち出すのはリスクがありますし、景気が上向きで高揚感が高まっているときに、暗い広告は浮いてしまいます。
ある意味、ごく当たり前の感覚を、広告に反映させることが重要でしょう。
商品のキャッチやイメージを考えるときには、いま世の中に出ている広告をじっくり観察して、ほかならぬ自分自身がどう感じるのかを素直に表してみてもいいかもしれません。「時代の気分」を自分の感情で観察するのです。
そうそう、自分自身の感情を観察するのは、平常心を保っているときだけにしましょう。
失恋の直後やプロポーズを受けた後など、極端な気分のときにはあてになりませんから、ご注意を!
参考:「対人社会心理学重要研究集2」