人がたくさんいるからこそ、誰にも助けてもらえない恐怖!衆人環視のパラドックス

治安の悪い場所では人通りの少ない道などを歩かない方が安全です。でも、じつは人が多すぎるからこそ危険なこともあるのを知っていますか?

  1. こんなにたくさん人がいるのになぜ?
  2. 責任感の拡散によって援助行動の抑制が起こる?
  3. 「誰か助けて」ではダメ!迷わず相手を特定して!

こんなにたくさん人がいるのになぜ?

衆人監視の中で起こった事件はいくらでもあります。例えば、1985年に起こった豊田商事会長刺殺事件では、多くの報道関係者が見守る中、犯人は窓を破り、詐欺事件の首謀者を刺殺してしまいます。どうして誰も止めることができなかったのかという議論がわき起こりました。

しかし多くの人がいるからこそ、人は援助行動を取らなくなるということが心理学的に証明されているのです。

心理学者のビップ・ラタネは、次のような実験を行いました。舞台はリサーチ会社の一室で、被験者は18歳から22歳の大学生です。女性職員を装った実験者が、被験者を個室に通し、「ゲームに関しての質問に回答を記入してほしい。回答の間、私は隣室にいます」と言って、その場を立ち去りました。

このとき、個室の状況は次の4パターンに分かれていました。

パターン1:被験者が一人だけで個室にいる

パターン2:被験者はサクラの学生と2人で入室し、サクラはこの後何が起こっても黙々と回答を続ける

パターン3:お互いに面識のない被験者2人が通される

パターン4:友人同士の被験者2人が通される

さて、被験者が解答用紙に記入を始めると、先ほど個室に案内してくれた女性職員の悲鳴が隣室から突然聞こえてきました。女性職員は「助けて!」と叫び、その後はうめき声などをあげています。これは実は録音によるもので、全く同じ音声を130秒間、さまざまなパターンの個室に聞かせました。

いったいどれほどの被験者が、女性を助けに行こうとしたでしょうか。パターン1、被験者の他には誰もいない部屋では、約70%の確率で何らかの援助行動が起こりました。しかし、パターン4、パターン3の順で援助行動が起こった確率は下がっていき、無反応な他人といるパターン2では、7%の学生しか積極的な動きを見せなかったのです。

責任感の拡散によって援助行動の抑制が起こる?

この実験をもって、ラタネは「他者の態度が事態の緊急性の解釈に影響を与える」ことを提唱しました。パターン2で、ほとんどの学生に援助行動の抑制が起こったのは、サクラが何の反応もなく回答を続けているのを見て、「たいしたことないのかな」と自分の判断を変えてしまったと考えられています。

また、「他者の存在は責任感を拡散させる」ことも実証しました。たとえ気心の知れた友人同士であっても、自分一人ではなく複数で同じ場に居合わせた場合、「自分が助けなくても、誰かが助けるだろう」という心理が働き、結局誰も何もしなくなってしまうということです。

このように、人がたくさんいるからこそ、かえって援助行動が行われなくなることは、「衆人環視のパラドックス」といわれています。

「誰か助けて」ではダメ!迷わず相手を特定して!

電車内であなたが、困った事態に陥ったり、路上で事故に遭ってしまったとき、「誰か助けてください」ではダメなのだということを、ラタネの実験は教えてくれます。責任感の拡散を防止するには、相手を特定して助けを求めることです。

「そこのあなた、車掌さんを呼んでいただけませんか」「あなた、携帯電話を持っていたら救急車を呼んでください」と、人を指定して具体的に要望を訴えましょう。

また、助けを求める声が聞こえたら、その場でできることだけでいいですから、最悪な状況になる前に、まずあなたからアクションを起こしましょう。他者の態度が緊急性の解釈に影響を与えるなら、自分さえ動けば、周りの誰かが反応してくれるはず。「この人を助けよう」という空気を、作りだすことが大切です。

参考:『社会心理学ショート・ショート』p.34~

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