ステレオタイプが記憶を操ることを知っていますか?
こんな職業だからこんな人、あんな格好しているからあんな性格。そうした勝手な思い込みの影響力の強さと活用法を紹介します。
- 職業が変わると同じビデオでも……
- 思い込みに合わない記憶が消えていくと……
- ステレオタイプのイメージをSNSで利用する
職業が変わると同じビデオでも……
職業に対する思い込みは、きっと誰にでもあるでしょう。
「銀行マンはきっちりした性格だ」とか、「メディアの人間は好奇心が旺盛だ」などなど。実際、そうした思い込みに捕らわれて、相手に警戒心を抱いてしまうことがあるかもしれません。
社会心理学者のクローディア・コーエンの研究は、そうした人々のバイアスがどれぐらい強烈かを証明しています。
実験参加者は夫婦で誕生日を祝うビデオを見せられます。その上で、参加者がビデオの何を覚えているのかを調査しました。ただし実験参加者の半分は、女性の職業が「図書館司書」と言われ、もう半分は「ウェートレス」だと教えられたのです。
どちらのグループにも同じビデオを見せたのですが、そのビデオには「図書館司書」と「ウェートレス」それぞれにステレオタイプにピッタリのアイテムが仕込まれていたのです。
具体的には、図書館司書のイメージにヒモづけられるものとして「メガネを掛けている」「本棚にある多くの書籍」「部屋の芸術品」がビデオに映っていました。これは事前調査で明らかになった「図書館司書」のイメージ(「おしとやか」「まじめ」「知的」)と合致するものでした。
一方、「明るく活発」「「性的な魅力に富む」というイメージを持たれている「ウェートレス」のためには、「ポップミュージックを聴く」「ハンバーガーを食べる」「ネグリジェのプレゼント」といったものが写り込んでいたのです。
「図書館司書」と「ウェートレス」それぞれに9つずつ、計18個のアイテムが潜むビデオを見た実験参加者の記憶テストは、ビデオを見た直後、4日後、7日後と実施されました。その結果、職業のステレオタイプに当てはまる記憶は、当てはまらない記憶よりもよく覚えていたことがわかったのです。
思い込みに合わない記憶が消えていくと……
この実験結果は、よくよく考えると衝撃的です。
時間とともにステレオタイプに合致しない記憶が消えていくとなると、当人のイメージはどんどんステレオタイプに寄っていってしまいます。しかも人はステレオタイプと矛盾する情報に触れても、ステレオタイプを守るように解釈してしまうというのです。
先程のビデオの例でいけば、「ウェートレス」だと告げられたグループの人は、部屋にある本棚を見ても、「ウェートレス」女性のものだと思わず、たまたまあっただけと解釈してしまうというわけ。しかも、その記憶がステレオタイプに一致しないので、時間の経過とともに消えやすくなります。
結果、「ほら、ウェートレスだったから、部屋にはポップミュージックがかかっていたし、ハンバーガーも食べていたよね。典型的なウェートレスだ!」といった話をしてしまう可能性があるのです。
ステレオタイプのイメージをSNSで利用する
自分の思った通りに記憶を作り替え、思い込みを覆す材料を無意識に無視するような態度を取り続けるなら、ステレオタイプな印象が崩れるわけもないでしょう。
ビジネスでも、個人の記憶が行う自動的な印象操作が引き起こす影響は大きいのではないでしょうか。体形、職業、趣味、ファッションなどなど。さまざまな要素が持つイメージを「身に付けた」とき、どんなイメージを相手に与えるのかを考えてはいかがでしょうか。
自分のビジネスに有効なイメージの趣味やファッションを教えるだけで、イメージが固定化していくのですから、非常に効果的で手軽な戦略です。しかもフェイスブックなどのSNSは、そうしたイメージを相手に自然と伝えることができます。
またWEB上には趣味のイメージに関するアンケート調査なども、いろいろと掲載されています。それらの「イメージ」を活用して、自分のアピールの方向性を考えていくのも面白いかもしれませんね。
参考:『心理ビジュアル百科』創元社