伝言ゲームをした経験がありますか? 列の初めに伝えたことが、どんどん変化して最後には違った内容になるのには、記憶の仕組みが関わっています。記憶改変の法則を説明していきます。
- 記憶は話をわかりやすく改変する
- ストーリーが記憶を強化する
- 体を動かしながらビジュアル化して暗記
記憶は話をわかりやすく改変する
記憶が変化しないと思っているのなら大間違いです。記憶はどんどん変化していきます。冒頭に示した伝言ゲームなどは、その典型でしょう。
ただ、記憶の変わり方には、一定のルールがあります。そのルールを知れば、どんな記憶が変化しにくく、どんな記憶が定着しやすいのかが分かります。
認知心理学者であるイギリスのフレデリック・バートレットは、「幽霊の戦争」という北米の民話を使って、記憶の変化を確かめました。実験者参加者はイギリスの大学生だったので、その民話はまったく馴染みのないものでした。しかも「幽霊の戦争」は、固有名詞などが大学生にとって聞いたことがないようなもので、なおかつ話の筋も荒唐無稽な代物だったのです。
バートレットは大学生に記憶した「幽霊の戦争」を何度も報告してもらいました。その結果、次のような変化が起こったのです。
1.固有名詞や数字が脱落していく
2.話が全体として短くまとまっていく
固有名詞や数字が記憶から抜けやすいのは、多くの人が経験していることでしょう。でも、話が短くまとまっていくというのは、どのようなことなのでしょうか?
バートレットは、この変化を人の「意味を求める力」だと解釈しました。自分の経験や知識や期待などが合わさって、無意味に見えるものであっても何らかの意味のあるストーリーになっていくというのです。その結果、話は単純化され、話の筋はより通りやすいものに変わっていきます。
ストーリーが記憶を強化する
商品販売などで商品の背景にあるストーリーが重視されるのは、こうした記憶の仕組みとも関係があります。商品が自分にとって受け入れやすいストーリーの中にあれば、人は商品を思い出しやすくなります。またそのストーリーに共感すれば、より購入の可能性が高まります。
商品名などの固有名詞は記憶から忘れられやすいものですが、販売したい商品のエピソードともに紹介すれば、そこから記憶をたどることができるからです。
また、営業マンとしてお客様に自身を印象付けたい場合などにも、お客様に関係する事柄を会話の最中にさりげなく紹介できれば、お客様の記憶に残ります。例えば出身地が同じなら、地元の景色などを話題にすることで強く記憶されるようになるでしょう。
体を動かしながらビジュアル化して暗記
こうした記憶のシステムは、暗記をするときにも使えます。関連する項目をまとめて、ビジュアル化して暗記すれば、記憶が定着する可能性は高まります。
また、「記憶力世界一」記録保持者のエラン・カッツ氏は、体を動かしながら覚える方がより効果が上がると言っています。歩いたり、声を出したりしながら暗記すると効果が上がるのではないでしょうか。
読者の中には、エビングハウスの忘却曲線をみたことがある人もいると思います。時間とともに記憶がどれだけ忘れられていくのかを、グラフにしたものです。
ただ、このときの実験は、実験参加者によって覚えやすさに差が出ないように、無意味な綴りの単語をわざわざ考案して実験しました。しかし実際の記憶は、その人の過去の経験や知識に関連付けられていくので、無意味な綴りの単語と同じようには忘れていかないのです。
つまり記憶に留めたいと思ったならば、より自分の関心や過去の記憶と絡むような形で暗記すればいいのです。教科書で覚えようとした歴史はすぐに忘れてしまっても、好きな俳優が出ている歴史のドラマなら忘れない。それが人間の記憶なのです。