実家に帰るたび、モノの多さにため息をついていませんか。親が年をとるにつれ、どんどん実家の中が汚くなると感じていても、仕事が忙しいとなかなか実家に立ち寄ることができませんよね。「親家片」のためには、親の心理状態を知るのが近道です。「保有効果」を知れば、「それで片付かないんだ!」と納得できますし、対策も取りやすくなりますよ。
- 「親家片」って?
- 親の家が片付かない……それは「保有効果」が原因かも
- 思い入れのあるモノほど、保有効果も高いはず
- 生活に支障をきたすほどモノがあふれているなら「ホーディング障害」の恐れあり
- 親の心理を理解して、みんなが納得できる片付けを
「親家片」って?
「親家片」とは、「おやかた」と読み、「親の家を片付ける」の略称です。主婦の友社が「親家片」に関する書籍を出版したり、サイトを手掛けたりして、親の家の片付けに困る世代へ広めました。
現代においては、「親家片」という言葉ができてしまうほど、親の家の片付けに困っている人が多いようです。核家族化が進み、親亡き後はもう誰も使う予定のない家が増えてきたからこその、現代的な問題といえるでしょう。
親の家が片付かない……それは「保有効果」が原因かも
心理学には、「保有効果」という言葉があります。保有効果とは、自分が一度手にしたものに価値を高く感じ、手放しがたくなる現象です。親の家が片付かないのは、この保有効果がさまざまなものに働いているためという可能性があります。
保有効果は、心理実験によっても確かめられています。行動経済学者のダニエル・カーネマン博士は、実験に参加した学生をAとBの2つのグループに分け、Aの学生たちには大学のロゴ入りマグカップをプレゼントしました。一方、Bグループには何もプレゼントしませんでした。
その後、Aグループには「いくらならBグループにマグカップを売るか」と質問し、Bグループには「いくらならAグループからマグカップを買うか」と質問しました。すると、Aグループの平均設定価格は、およそ7ドル。Bグループは約3ドルで、2倍以上の差が開いたのです。
思い入れのあるモノほど、保有効果も高いはず
手に入れたばかりのマグカップですら、保有効果が働くことがわかりました。タダでもらえるポケットティッシュや割りばしなどを大量に保管し、「もったいない」「そのうち使うかもしれないから」と捨てるのを拒む親の心理にも、同じように保有効果が働いていると考えられます。
また、思い入れのあるモノほど、保有効果も高いはずです。「息子が運動会で一等賞になったときのハチマキ」や「娘の入学式に着ていったスーツ」など、子どもの思い出が絡んでいればなおさらのこと。積もった時間が長ければ長いほど片付けられないのは、当然といえるでしょう。
生活に支障をきたすほどモノがあふれているなら「ホーディング障害」の恐れあり
「保有効果」で納得することができないほど実家にモノがあふれているなら、ご両親が「ホーディング障害」に陥っていないか、一度じっくり考えてみる必要がありそうです。ホーディング障害とは、大量のモノを収集し、居住空間に詰め込むことをやめられない病気です。
大量のモノがあふれ、足の踏み場もなく「ごみ屋敷」という言葉が頭にちらつくほどの状態になっていませんか。ホーディング障害を発症すると、一見してごみのように思えるものでも、家族が到底納得できないような理由で捨てるのを拒み、口論が繰り返されます。なかには、「排泄物を流すと、周囲が汚染される」という理由で何か月もトイレを流さない人もいるほどです。
ホーディング障害への対処法として、上越教育大学の五十嵐透子教授は雑誌『心理学ワールド』に投稿した論文の中で、協力者やチームでの対応が不可欠であると述べています。つまり本人やその家族だけの力では解決が困難で、心の専門家はもちろんのこと、地域の助けやボランティアの力を借りなければ解決には至らないということです。
親がホーディング障害に陥っていると感じたら、心の専門家に相談するのと同時に、地域包括支援センターや、担当の民生委員に相談してみましょう。ごみ屋敷化すると、美観が損なわれたり悪臭がするようになったりするほか、火災のリスクも増えてしまいます。実家だけの問題ではありません。近隣に多大な迷惑をかける前に、親の状態を周囲に知っていてもらうことが肝心です。
親の心理を理解して、みんなが納得できる片付けを
保有効果によって、一度手に入れたモノを手放しにくいのは当然であることがわかりました。あなたも、他人から見れば「捨ててもいいんじゃない?」と言われておかしくないようなモノを、無意識に持ってはいませんか。もしそれをいきなり「捨てなさい」と他人に言われたら、怒りたくなりませんか。思い出深いモノであればなおさらでしょう。
皆が納得できる片付けをするためには、片付けられない親の心理を理解することから始めるのが近道です。モノを大切にしたいという親の気持ちを否定せず、また、モノにまつわる思い出話に耳を傾けましょう。モノは親が生きてきた証。その証をどのように受け止めていくかが大切なのではないでしょうか。
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会社員が取得できる休暇には、有給休暇のほかに介護休暇、介護休業などもあります。介護休暇は単発、短時間の休みを可能にする制度で、対象となる家族1人につき、1年に5日の休暇が取得可能です。また、介護休業は対象家族1人につき3回まで、通算で93日を限度として取得できます。
忙しい中でも、休暇や休業制度を上手に活用して、親がスッキリした家で暮らすお手伝いができればいいですね。何よりも親のために片づけることを念頭に、「親家片」をすすめましょう。
参考:『ココロの謎が解ける50の心理実験』清田予紀、王様文庫