一年のうちで最も忙しい時期が、師走と呼ばれる12月です。12月には、とくに仕事中の車が起こす事故が多いことがデータからわかっています。運転時に陥りやすい心理の罠を知れば、落ち着いてハンドル操作に集中することができますよ。
12月は仕事中の車が最も事故を起こす時期
- 12月は仕事中の車が最も事故を起こす時期
- 安全運転のために大切な心理学
- 気持ちが焦る師走でも、運転中だけは気持ちをなるべく落ち着かせて
警察庁によると、2014年から2018年の月別交通事故死者数は、12月が最も多く、2094人となりました。朝日新聞の報道によると、このうち、仕事中の車が起こした事故によって死亡した人は462人。11月よりも27%多い数字だと報じています。
参考: 朝日新聞( 仕事で運転中の死亡事故12月に多発 過去5年分データ )
12月に仕事中の交通事故が多い原因は明らかになっていませんが、師走の忙しさによって心に余裕がなくなることも、その一因なのではないでしょうか。心を落ち着けて運転するためにも、運転時の心理状態について知っておきましょう。
安全運転のために大切な心理学
運転時の心理状態を知り、忙しい仕事中でも安全な運転を心がけるうえで大切なのは、以下の3つです。
・「あおり運転」者の心理状況を理解する
・カーコミュニケーションの過剰な使用は控える
・高齢者運転の危険性を知っておく
順に説明します。
・「あおり運転」者の心理状況を理解する
後続車が、なんだか近すぎる気がするな……と思ってバックミラーを見ると、運転者が怖い顔をしてこちらを睨んでいる!あおり運転のターゲットにされたら、後ろが気になってしまって運転に集中できませんね。げんに、あおり運転を原因とする重大事故も起きています。
あおり運転をする人がどのような心理なのかをあらかじめ押さえておけば、自分がターゲットとなってしまったときも、落ち着いて行動できるでしょう。帝塚山大学の蓮花一巳教授が、NHK「解説委員室」のなかで、あおり運転者の心理を次のように解説しています。
1、公共空間では「引きこもり行動」が出やすい
道路という公共空間では、互いに無関心となる「引きこもり行動」の傾向が出やすい。そこで突然、対人行動が必要になると、攻撃的な過剰反応を引き起こしやすい。
2、運転中はコミュニケーションが困難
合図によるメッセージが誤認されて、コミュニケーションが不成立になりやすい。何気ないクラクションが「このバカ野郎!」と言われているように聞こえるなど。
3、相手の不可視性
ドライブ中は相手が見えにくいことにより、心理的距離が大きくなって攻撃性が大きくなってしまう恐れがある。
4、運転時のストレスが攻撃性につながる
渋滞などでイライラしていると、怒りっぽくなりやすい。
以上を踏まえると、運転中は、相手と相対しているときよりも一層ジェントルにふるまう必要があることがわかります。危険な運転者に出くわしたときほど落ち着いて。そして、自分も仕事で忙しく、カッカしやすくなっている恐れがあると、肝に銘じましょう。危険運転者と距離を置くことを第一に考えるのが得策です。
・カーコミュニケーションの過剰な使用は控える
パッシングで「お先にどうぞ」、ハザードランプで「ありがとう」など、直接話すことのできない運転者同士だからこそ、カーコミュニケーションは欠かせません。しかし、多くのカーコミュニケーションは、もともと非公式なもの。地域が違えば、違う解釈をされてしまう恐れもあります。
例えば、パッシングを行った場合、「お先にどうぞ」と解釈する人と、「私が先に行きます」と解釈する人がいます。重大事故につながりかねない解釈の違いですよね。自分の知っている合図が万人に通用すると思わず、仕事で急いでいるときも、周囲の様子を見ながら慎重に運転しましょう。
・高齢者運転の危険性を知っておく
仕事で急いでいると、周囲の運転者への気配りがなくなりがちです。でも、とくに高齢者が運転する車に対しては、慎重にふるまう必要がありそうです。昨今、高齢者の運転事故報道が多くのメディアを賑わすようになりました。あなたも、ある日突然巻き込まれるかもしれません。
高齢者には以下のような身体的変化が加わるため、交通事故を起こしやすくなってしまうと考えられています。
1、視力の低下・視野狭窄
視界がぼやけたり、また視野が狭まったりすることで、正確に「見る」ことができにくくなります。すると信号を見落としたり、車間距離がつかめず追突を起こしたりしやすくなります。
2、聴力の低下
運転しているときには、耳からもさまざまな情報を受け取っています。近くでエンジン音が聞こえれば「その方向に車がいるはず」と注意できても、聞きとりにくければ意識はできません。
3、判断能力・身体能力の低下
運転はとっさの判断を必要とするシーンの繰り返しです。高齢になると判断能力が鈍るので、瞬時の情報処理ができず、事故につながりやすくなります。また、判断ができたとしてもその命令が身体に伝わるまでに時間がかかり、対応が遅れがちです。
紅葉マークの車に出くわしたら、また前後の車の運転手が高齢であることに気づいたら、どんなに急いでいてもきちんと車間距離を取りましょう。やむなく追い越しをかけるときは、ちゃんと相手が合図に気づいているかをしっかり確認します。
気持ちが焦る師走でも、運転中だけは気持ちをなるべく落ち着かせて
車は、人を殺める道具でもあります。それを肝に銘じて、仕事が忙しい12月こそ気持ちを落ち着かせて運転しましょう。
そして、自分の気持ちをコントロールすると同時に、「前の車のあの人は、今こういう心境かもしれないな」と想像力を働かせて。周りも焦っていて、ささいなミスやコミュニケーションのすれ違いが、交通事故につながりやすい季節であることを意識するのが大事なのではないでしょうか。
心理学やメンタルヘルスに興味のある方はこちらをご覧ください。
参考:仕事で運転中の死亡事故12月に多発 過去5年分データ(『朝日新聞』)/「交通トラブルの心理学」(視点・論点)/「高齢ドライバーに対する交通安全の動機づけ-交通社会学的視点-」鈴木春男