個々人が競争している集団と、みんなが協力している集団では、どちらの方が成果を出せるのでしょうか?テレワークによって成果主義が加速するという報道もあり、競争と協同の集団の違いについて調べてみました。
- 競争すると課題達成の責任感が低くなる
- フィードバックが行動を変える
- 育成には「ランキング」が一定の成果を
競争すると課題達成の責任感が低くなる
福島大学の古籏安好教授は、福島県の小学6年生3690人を対象に実験を行いました。「協同集団」にはグループとしての成果を要求し、「競争集団」ではグループ内での順位を競わたのです(「協同と競争に関する実験的研究」)。
結果、「協同集団」では構成員を引きつけ、その一員であり続けることを動機づける度合いを示す「集団凝集性」が高くなりました。また、さまざまな要素のうちでも、課題達成に向けて責任をまっとうしようとする意識に大きな差が出たのです。
この実験結果は、グループ内で成績を競わせつつ集団としても成果を出すことの難しさを感じさせるものです。
もちろん大人になれば、集団と個人、両方の利益を得るため、競争しつつ協同することができるという意見もありそうです。しかし最新の研究結果は、事がそれほどことは簡単ではないことを示しています。
フィードバックが行動を変える
マックスプランク人間開発研究所とバルセロナIESEビジネススクールの共同研究の実験結果は、なかなか刺激的です。
ESEビジネススクールのSebastianHafenbrädl氏は、「従業員の成績を公表したり、成果によってボーナスの支払いや契約の更新を行うことは、企業収益の観点からは逆効果です」と語っているからです。
計140人の実験参加者は、「公共財ゲーム」と呼ばれる実験をしました。ゲームの詳細はやや煩雑なので省きますが、自分の持ち金をどのように集団に提供するのかを考えるゲームです。
この実験では、グループの利益を考えるように誘導する協同的なシナリオと、互いが競い合う競争的なシナリオの両方が実施されました。協同的なシナリオでは、平均してグループの成績は向上したものの個人の成績は悪化しました。一方、競争的なシナリオでは、グループに協力しないことで個人が利益を得るケースも見られました。
ここまでは、過去の心理実験でも明らかになっていたことです。
問題は、ゲーム結果のフィードバックを受けた後の参加者の行動でした。
というのも、フィードバックがシナリオ以上に実験参加者の行動に影響したことがわかったからです。
終わったゲームについて、グループ全体の結果についてフィードバックを受け取った実験参加者は、シナリオに関係なく、協同的な行動を取りました。
一方、個人成績のランキングを受け取った実験参加者は、協力的なシナリオでゲームに参加した人でも、自分の利益を上げるように行動したのです。しかも、ランキングを受けた取った参加者は、他のプレイヤーを信用していなかったことを報告していたのです。
さらに高いランキングを確保するために、自分の利益に関係なく相手を邪魔することさえあったそうです。
育成には「ランキング」が一定の成果を
上記の実験を、実際のビジネスでわかりやすく説明してみましょう。
営業の人たちにグループ内の貢献について上司がフィードバックした場合は、個々人に競争の意識があっても、グループ全体で利益を上げる道をみんなが模索します。
ところが「グループ全体の利益が大切だ!」といくら上司が力説しても、部署内のランキングによって給与が変わるとなれば、同僚の成績を落としても順位を守ろうとする人が出てしまうというわけです。
ついでにグループの仲間をお互いに信じられないという事態にも起こります。
ただ、競争力を持つプレイヤーに育つ確率は、ランキングのフィードバックを受けた方が高かったようので、個人の技量を伸ばす意味では有効かもしれません。
競争の原理を導入することでモチベーションを上げて、より高い売り上げを目指す。これは営業などの分野では、王道なのかもしれません。しかし、その競争が会社全体に利益をもたらしているのかどうかを、改めて検証してみることも必要かもししれません。
心理学に興味のある方はこちらもご覧ください。
参考:「協同と競争に関する実験的研究 ――集団参加性・集団凝集性および集団生産性について――」(福島大学 古籏安好)
「Feedback Culture: When Colleagues Become Competitors」(『Max-Planck-Gesellschaft』)