ネットでたびたび話題となる「匂わせ」。ほのめかすといった意味ですが、どんな行動を指し、どんな心理が働いているのでしょうか?今日はネットをざわつかせる「匂わせ」について報告します。
- コンプレックスからの「匂わせ」
- 「盛りすぎ」な架空の「匂わせ」
- 秘密に酔いたい人の「匂わせ」
- 「嗅ぎ」とる側の問題も
- 14%の人が「匂わせ」てる!
コンプレックスからの「匂わせ」
もっとも典型的な「匂わせ」は、芸能人との恋愛でのほのめかしでしょう。おそろいのカップがさりげなく写真に写り込んでいたりするケースです。あるいは大物とのつながりを示唆するような「匂わせ」もあります。
こうした行動に共通するのは優越感やちょっとした自慢でしょう。あからさまに自慢するのもはばかられるけれど、少しわかるようにアピールしたいという気持ちが、こうした行動に表れているようです。
心理学博士である榎本博明氏が書いた『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』(サンマーク出版)では、このような「匂わせ」をする人を次のように分析しています。
つまり、自分が他者に対して優越しているのを見せつけるように振る舞う人たちの心の中には、劣等コンプレックスが潜んでいるのである。劣等コンプレックスの強い人ほど、過剰な「匂わせ」をしてしまっているのだ。
コンプレックスの裏返しから、過剰に「匂わせ」てしまうらしいとのこと。そんな裏側の心理がわかってしまうと、ちょっと「匂わせ」をする人がかわいそうになってしまいますね。
「盛りすぎ」な架空の「匂わせ」
「匂わせ」でも上記の例は、実態がありました。声を大にしては言えないけれど、やっぱりアピールしたいという気持ちからの行動だったのです。しかし「匂わせ」の中には実態のないものもあるようです。
2つのティーカップは映っていていかにも恋人がいるように見えるけれど、実際には自分一人でカップを置いていたというケースです。
自己プロデュースの延長線上ある「匂わせ」ともいえそうです。
精神科医の和田秀樹氏は、学歴などを詐称したショーンK氏について、次のように書いています。
〝盛る〟ことが当たり前になっている今の時代において彼のような人は私たちの周りにいてもおかしくないように思えます。ある意味、時代の申し子的な存在だということです。言い換えれば、ショーンK氏は今の時代を象徴していると言うこともできるでしょう。(「職場やSNSではびこる『自分を平気で盛る』人たち」/SBクリエイティブOnline )
また、その背景を以下のように分析しています。
昔は、自分をよく見せるために見栄を張る人や、偉そうにしたり毒舌を吐いたりする人は嫌われたものですが、今は虚勢を張ったり、自分を偉そうに見せる人、つまり〝盛る〟人のほうが人気を集める時代になっています。
芸能界ばかりではなく、SNSなどを通じてウソの混じった〝盛る〟が横行するようになっている現状では、ややアピールの弱い「匂わせ」にウソが混じるのも、ある意味仕方ないのかもしれません。
秘密に酔いたい人の「匂わせ」
「匂わせ」の中でも、ちょっと異質なのは、「縦読み」などSNSに暗号のように組み込まれたメッセージです。タレントである木下優樹菜さんが、通常は横に読むSNSで、縦に不倫相手に愛のメッセージを入れたと話題になりました。
その「匂わせ」が事実かはともかく、このように明らかになると困るのに、特定の相手に向けて「匂わす」のはどうしてなのでしょうか?
米国の心理学者であるクレイグ・フォスター氏は、恋人であることを周囲に隠している恋人たちに調査して、面白い事実を発見しました。それは周りの人に隠していることで、より恋愛感情が高まったという結果でした。
秘密の共有が人間関係を深めることは広く知られています。自分の内面を吐露する自己開示によって絆が強まるといった経験をした人も少なくないでしょう。
多くの人が見ているSNSに自分たちだけの秘密を持つことが恋愛のスパイスともなり、それが「匂わせ」となってしまったというわけです。
「嗅ぎ」とる側の問題も
しかし中には「匂わせ」るつもりがなかったケースもあるようです。『プレジデント』(2020年7月3日)に掲載された「職場の心理学」の座談会には、芸能人との付き合いが発覚した一般人の嘆きが掲載されています。
彼のことが大好きだったから、うれしくてつい投稿しちゃうじゃないですか。私も無名だし、バレないだろうと思って。
しかしファンに徹底的にSNSを調査され、ネット上で激しい誹謗中傷が起きたそうです。
これはファン心理から「匂わせ」を感じ取ったケースですが、「匂わせ」に過剰反応してしまうケースもあるようです。例えば均等に仕事を分けた同僚から、「終わったら手伝おうか」と言われたことで、「仕事できるアピール」の匂わせなのかと怒るといったケースです。
心理学博士である榎本博明氏は、そうした心理について次のように分析しています。
人の言動に「匂わせ」を感じやすく、批判的になりやすい人は、それによって自分の歪んだ心理傾向を周囲にさらしてしまっているのである。
そうした敵意帰属バイアスというような認知の歪みの背後には、「基本的信頼感の欠如」や「見下され不安」が潜んでいることが多い。(『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』)
「匂わせ」が強すぎる人だけではなく、その匂いを「嗅ぎ過ぎる」人にも問題があるかもかもしれないということでしょう。
14%の人が「匂わせ」てる!
2020年2月10日にTOKYO FMの番組「Skyrocket Company」が実施したリスナーへのアンケート調査によれば、「SNSで“匂わせ投稿”したことありますか?」という問いに14.3%の人が「はい」と答えています。
意外に多いなと思った人もいるかもしれません。
その調査では「匂わせ」をした人の声の中に、以下のようなものもありました。
“彼氏いる”って堂々とアピールするのは恥ずかしい……でもSNSには載せたい!
つまり生活のちょっとした「うるおい」として、「匂わせ」を使っているのでしょう。それが周りから見て「面倒だな」と思われなければ、何の害もないと言えるでしょう。
アピールにならないような「匂わせ」のさじ加減さえ難しいのに、さらに他人から反感を買わない調整となると、もっと大変だと感じるのは年齢故でしょうか?いずれにしても対人関係の距離を、しっかりと取れる人だけが使いこなせる技、それが害のない「匂わせ」だと言えそうです。
人の心理について興味のある方は、こちらもご覧ください。
参考:『「自分のすごさ」を匂わせてくる人』(榎本博明/サンマーク出版)/(「職場やSNSではびこる『自分を平気で盛る』人たち」和田秀樹/SBクリエイティブOnline )/「職場の心理学」(『プレジデント』2020年7月3日)