どんなに面白い仕事でも退屈な作業はつきものでしょう。ときには胃の痛くなるような現実から逃避したくなることもあるかもしれません。そんなときでもモチベーションが落ちない心理的手法について調べてみました。
- 「お金のため」は長続きしない
- ペンキ塗りや草むしりが「遊び」に!?
- 方法① 定期的な休息
- 方法② 将来につながる「種」を見つける
- 方法③ やりたくない仕事の周辺を調べる
- 方法④ 選択できる範囲を探す
- 方法⑤ 仲間と一緒に頑張る
「お金のため」は長続きしない
近年の心理学研究によれば、才能より忍耐力や「グリッド」(やり抜く力)の方が成功に影響するそうです。継続してやり続けなければ、どれだけ才能を持っていても「天井」にぶつかってしまう。逆に限られた才能であっても、努力を惜しまなければ自分の限界を超えていけるというわけです。
とはいえ、コトはそう簡単ではありません。
そもそも努力を惜しまず手に入れたいほどの成功を、多くの人が望んでいるわけでもありません。何が何でも乗り越えて金メダルをといったトップアスリートのようなモチベーションは必要ではなく、日々をしっかり乗り切れる気持ちの維持が、私たちには必要です。
ただ、多くの人は困難を前にすると、「仕事だから」とか「生活のためだから」と考えて、行動を起こしがちです。しかしモチベーションの面から考えると、これはあまりいい方法ではないようです。というのもお金など外部からの働きかけによる動機付けは「外発的動機付け」と呼ばれ、持続性があまり期待できないからです。外発的動機には、お金などの報酬、地位などの評価、達成できないときの罰則などを含みます。
つまり「ボーナスのため」とか「ノルマを達成しないとヤバイ」といった動機は、すべて外発的動機付けなのです。
一方、自分の興味関心などの内面的な要因によって生まれる動機付けを、「内発的動機付け」と呼びます。自分が好きで動いているのですから、あたり前ですがモチベーションが持続します。
ただ恐ろしいことに内発的動機付けで始めたことを、簡単に外発的動機付けに変えることができます。それは報酬を出すこと。趣味を仕事にしたら、途端に興味を失ってしまったという話を聞いたことがありませんか? じつは心理実験でも、報酬をもらったことで、自発的に取り組んでいたパズルへの関心を失ったと報告されています。
つまり、やりたくない仕事を「お金のため」と位置付けることは、外発的動機付けを強化することにつながるのです。もちろん、やりたくないことを片付けるためには短期的に効果を発揮しますが、ベストな方法ではありません。
ペンキ塗りや草むしりが「遊び」に!?
オーストラリアにあるカーティン大学のマリレーヌ・ガニェ教授は、モチベーションと仕事の成果について、45%以上が内発的動機付けに関連があると指摘します。一方、ボーナス、昇進、仕事の維持といった報酬と罰にかかわるモチベーションは、9%しか関わりがないことがわかったのです。
だからこそ私たちは自ら興味・関心を持つ内発的動機付けで仕事に取り組めるように、仕事への取り組み方を考える必要があるのです。
じつはこうした試みは心理学的にも証明されており、また同様の取り組みが実際に行われています。
つまらない仕事が興味深い遊びとなる心理的効果を、ソーヤー効果と呼びます。これは有名な米国文学『トム・ソーヤーの冒険』に由来するものです。フェンスのペンキ塗りを命じられた主人公のトム・ソーヤーは、楽しそうにペンキを塗り、新しい遊びだと話します。「やってみたい」という友人のお願いを断り続け、ついにはリンゴと交換でペンキ塗りの仕事を譲りわたすのです。
一見、つまらない仕事でも、見え方次第では心躍る遊びになります。人手不足に悩む農業関係でも、草むしりや落ち葉拾いをイベントとして提供するケースが出てきています。土をいじること自体に喜びを感じるせいか、好評なイベントもあるようです。
方法① 定期的な休息
やりたくない仕事を意欲的に取り組むために、まずやってもらいたいのが、しっかりと休息と取ること。やりたく仕事を面白く見えるように工夫しても、どこか我慢を強いられることがあるでしょう。そんなときに必要なのが、十分な休息なのです。
私たちは我慢して行動できる限界が決まっています。ゲーム中に操作しているキャラクターのHPゲージが減っていくのと同じように、我慢を繰り返すことで、どんどん踏ん張りがきかなくなります。
睡眠時間をしっかり取る、15分の空き時間ができたらスマホを見るのではなく、外の空気を吸ったり、目を閉じて何もしない時間をつくったりしてみましょう。
方法② 将来につながる「種」を見つける
「学習の中にその時点での興味や楽しさだけでなく、将来役立つような発見や知識があること」
やりたくない仕事の中に自分の将来につながる種がないのか、改めて探してみましょう。
報告書をまとめることが、関連の仕事への対応力を高めるかもしれません。データ打ち込みをつまらない作業だと感じても、エクセルのマクロのについて学ぶきっかけになるかもしれません。
そして、今の仕事が自分の未来にどうつながっているのかを考えるためには、自分がどうなりたいのかを考える必要があります。何となく仕事をしている人は、まず長期的にどんな未来を実現したいのかを考えましょう。その上で、やりたくない仕事を未来につなげていく必要があります。
方法③ やりたくない仕事の周辺を調べる
やりたくない仕事の周辺に自分の興味を引くものがあれば、仕事への姿勢は変わってくるでしょう。例えばノルマがキツイ営業だったとしても、自分が転職してみたいと思う企業の担当者との打ち合わせなら、意欲が湧いてくるはずです。
「クライアントが自分の推しと関係ある企業だった」「自分がほしい商品を扱っていた」。こうしたポイントを探すのも一つの方法です。
また業務改善につながるポイントを探るのもいいでしょう。IT化できるポイントはないのか、もっと簡単に連絡できる方法はないのかなど、改善できるポイントをみつけましょう。もしかすると自分が面倒だと感じているポイントを改善できるかもしれません。
さらに自分の仕事によって利益を受けているユーザーと会うのも有効でしょう。自分が手配しているモノが商品の一部品だったとしても、エンドユーザーの希望を叶えていることに間違いありません。自分の仕事がどんな人を幸福にしているのかを調べて、その声を聞く方法を考えてみましょう。
方法④ 選択できる範囲を探す
ここまで読んでみて、自分のやりたくない仕事は将来に繋がらないし、作業方法を変更することもできない。そう感じた人もいるでしょう。業務マニュアルが決まっている場合、上記のポイントを探すのが難しいケースもあるからです。
そんなときに探してもらいたいのが、自分が選択できることです。
例えば、ペンを気分で変えるとか、付箋をその日の気分に合わせるといったことです。「こんなことで何が変わるの?」と思うかもしれませんが、じつはあなどれない効果があります。
ストップウォッチを5秒で止めるゲームをするとき、ストップウォッチのデザインを自分で選べるようにすると、失敗してもモチベーションが下がりにくいことが、脳の活動部位の観察から判明しました。逆にコンピュータの指示に従ってストップウォッチを選ばなければいけない環境だと、失敗したときには意欲が落ち込むそうです。
ストップウィッチのデザイン自体は、ゲームの難易度にまったく関係ありません。しかし自分が選んだという思いが、確実にモチベーションを変えていくのです。
やりたくない仕事に関わることで、自分が選択できるものをリストアップして、自分の思い通りにしてみましょう。いつもとは違うモチベーションで仕事できるかもしれませんよ。
方法⑤ 仲間と一緒に頑張る
仲間と情報共有しながら進めると、内発的動機付けが高まります。自分の行動が周りに良い影響を与えていると感じられると、さらにモチベーションがアップします。
もし面倒だと思っている仕事があるなら、一緒に仕事をしているチームのメンバーに、自分がどんなふうに行動すれば嬉しいのかを聞いてみるといいでしょう。自分のためではなく、他の人に役立っている状況をつくりましょう。
利他的な行動が、人を幸福にすることも知られています。モチベーションアップのためだけではなく、自身の幸福のためにも仲間のために行動してみてください。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『一番大切なのに誰も教えてくれない メンタルマネジメント大全』(河出書房新社/ジュリー・スミス)/「―実践報告― 学習者の内発的動機づけはなぜ高まったのか ―PAC分析によるケーススタディからの考察―」(藤田裕子)/「New Research Shows Intrinsic Motivation Is Crucial at Work」(Marylène Gagné Ph.D./Psychology Today)/「脳科学から見た やる気とグロースマインドセット」(松元健二/Adecco Group)