「共感疲労」という言葉を聞いたことがありますか?これはトラウマを抱えた人と継続的に接することで、疲労してしまう症状です。そんな支援者のための対策法を紹介しましょう。ストレスに悩んでいる人にもきっと効果があるはずです。
- 他者を支援する人に起きる共感疲労
- 感情労働が暴力衝動を引き起こすことも
- 試してほしい10個の「充電法」
- 自分をいやすための手法
他者を支援する人に起きる共感疲労
看護師や介護職、カウンセラーなど、他者を支援する仕事についている人は、「共感疲労」を起こしやすいことが知られています。虐待や恐怖体験を聴くことで、支援者はしばしば患者のトラウマを追体験することが知られています。その結果、「二次的外傷性ストレス」と呼ばれる症状が起きることがあります。
具体的には、悪夢を見たり、感情が鈍くなったり、ちょっとしたことで驚いたり怒ったり、といったことが起きるそうです。 トラウマを抱える人の問題にかかわる職業人のおよそ4分の1が何らかの共感疲労を経験すると推計されているそうです(『セルフ・コンパッション』クリスティーン・ネフ 著/金剛出版)。
感情労働が暴力衝動を引き起こすことも
他人のトラウマに関わらなくても、深刻な対人ストレスは報告されています。
例えば顧客への対応で感情を抑制する「感情労働」に就いている人々も、多大なストレスを抱えていることが知られています。「ウェイトレス」や「ホステス」といった接客業、カスタマーセンターやコールセンターで働く「オペレーター」、官公庁や企業の「広報」、「苦情処理」などを含めた、サービス業に従事する多くの人が感情を押し殺して働いています。
じつは感情労働が仕事で燃え尽きてしまう「バーンアウト」を誘発する要因となり、危険だとする論文も発表されています。「感情労働」と「共感疲労」との類似性を論じる論文などもあります。
実際、感情労働をともなう職場では離職率が高いことが知られています。
また「『感情労働』の現場を生き延びる」(AERA編集部)によれば、感情労働には次のような問題が起きることがあるそうです。
「感情労働には『副作用』がある。自分の感情を欺いているうちに、本来の自分らしさが失われたり、買い物やギャンブル依存に陥ったり、破壊衝動に襲われ、暴力をふるう人もいる」
試してほしい10個の「充電法」
共感疲労を起こしやすかったり、感情の抑制から深刻なストレスを抱えやすい労働環境で仕事を続けるためには、自身のエネルギーを補充するような行動も重要になってきます。そこで共感疲労に有効な『セルフ・コンパッション』に紹介されている心のバッテリーを充電するためのアイデアを紹介しましょう。きっと感情労働で疲れている人にも効果があるはずです。
・マッサージを受ける
・ペディキュアを塗る
・昼寝をする
・喜劇やお笑いを見に行く
・いやし効果のある音楽を聴く
・30分ほどストレッチやヨガをする
・自然の中を散歩する
・うつぶせになって背中をさすってもらう
・ダンスをする
・リラックスのためにワインを飲む
自分をいやすための手法
ストレス対策というとストレスコーピングが有名ですが、今回は「セルフ・コンパッション」の観点からの対策を紹介しました。あまり聞き慣れない単語かもしれませんが、「コンパッション」は「慈悲」という意味です。
自分に厳しすぎる人や他者と比べてしまう人、自分自身の価値を低く見積もってしまう人などに有効な考え方です。今回のアイデアも自分をいやすためにできることといった観点から選ばれたものです。
顧客満足度を競うようになり、あらゆるビジネスが感情労働に近づいているという報告もあります。また介護や看護など、他者を支援する仕事の人手は圧倒的に不足しています。
こうした状況で自分の精神をよりよく保つには、自分をどうやって癒やしてくのかといった観点も重要になってくるでしょう。疲れたなと感じたら、ぜひ試してみてください。
参考:
『セルフ・コンパッション』(クリスティーン・ネフ 著/金剛出版)
「対人援助職におけるバーンアウト・感情労働の関係性: 精神的な疲労に着目する意義について」(土井裕貴・日本福祉大学助教)