「PTSD」という単語を聞いたことがあっても、「複雑性PTSD」という言葉は知らないという人がほとんどではないでしょうか? そこで「複雑性PTSD」の原因やどのような症状なのかについてまとめました。
- 近年、改めて注目されている疾患
- 社会生活に影響する症状
- 回復は安全な環境の確保から
近年、改めて注目されている疾患
PTSDは「Post Traumatic Stress Disorder」の略語で、日本語では「心的外傷後ストレス障害」と呼ばれます。死の危険を感じるなど、恐ろしい体験をしたことで、その記憶を繰り返し思い出してしまったり、不安や緊張が高まってしまう状態を指します。大規模災害に遭遇し、その記憶に苦しめられているといった話とともに、PTSDの単語を記憶している人も多いでしょう。
一方「複雑性PTSD」は、あまり聞いたことがないという人の方が多いことでしょう。
「複雑系PTSD」は、1992年に米国のJ・ハーマンが診断の概念を提唱したのに、アメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断基準・診断分類DSM-5には掲載されていません。
ただ世界保健機関(WHO)が作成する病気の分類ICDが約30年ぶりに改訂され、「複雑性PTSD」が採用されたのです。最新のICD-11を日本に導入するためには和名などを決める必要があり、まだ時間がかかりそうです。それでも最近、とても注目度が上がっている病気です。
この病気の多くは、
「逃れることが困難ないしは不可能で長期間あるいは繰り返された出来事に暴露した後に生じる障害」(「複雑性PTSDの「概念・診断・治療」飛鳥井望〈『複雑性PTSDの臨床』原田誠一 編/金剛出版〉)
と定義されています。端的に言えば、繰り返される長期間の恐ろしい体験で発症しやすいのです。
提唱者のハーマンも戦争捕虜や宗教カルト、子どもの虐待といった度重なる長期のトラウマから起きると語っています。
社会生活に影響する症状
では、具体的にどんな症状が表れるのでしょうか?
ICD-11によれば、PTSDの3症状「再体験症状」「回避症状」「脅威の感覚」に加えて、「感情制御困難」「否定的自己概念」「対人関係障害」という独自の3症状、計6症状から診断が下されるようです。
では、具体的にどのような症状なのか見ていきましょう。
「再体験症状」はいわゆるフラッシュバックや悪夢のようなもの。トラウマとなっている恐怖体験を、改めて体験してしまう症状です。
「回避症状」とは、恐怖の体験を回想や、それを連想するような活動を避けるような症状です。
「脅威の感覚」とは、警戒心が強くなり、突然の音などに過度に驚くような症状です。
「感情制御困難」は、怒りが爆発してしまったり、感情を失ってしまったり、過度に傷つきやすかったりする症状。
「否定的自己概念」は、自分に価値がないと思い続けていたり、トラウマに関連して恥や自責の感情があるような症状です。
「対人関係障害」とは、他人に親密感を持つことが困難になり、対人関係や社会参加を避けたりするような症状を指します。
この6つの症状をすべてに当てはまる複雑性PTSDは、かなりつらい病気だということがわかるでしょう。しかもこのような症状によって、対人関係や家族、社会、教育、仕事などの領域でうまく活動できない状態になるというのです。通常のPTSDよりも症状が広範囲にわたり、より複合的になっているのが特徴だそうです。
PTSDの権威である岡野憲一郎氏は、「CPTSDについて考える」(『複雑性PTSDの臨床』原田誠一 編/金剛出版)と題された文章で、複雑性PTSDについて次のように書いています。
他人を信用できず、自分に対して何らかの脅威となりかねない存在だと感じる傾向は、その人の社会生活をますます非社交的で矮小なものにする。それは親密さに基づく他者との関係や信頼関係のもとに成り立つ職業に携わることに深刻な影響を及ぼすであろう。
複雑性PTSDが引きこもりの問題に深く関わっているのではといった指摘もあり、この病気にかかると社会生活の維持が大変になることは、確かなようです。
回復は安全な環境の確保から
治療法には、認知行動療法や対人関係療法、薬物療法など、さまざまなものがあります。
複雑性PTSDを提唱したJ・ハーマンは、複雑性PTSDからの回復には「安全」「想起と服喪追悼」「再統合」の3段階があるとしており、最初の「安全」の段階は
「安全な環境を確保した上でのトラウマ心理教育(トラウマ体験としての認識と関与)や感情制御のためのストレス・マネジメント」(「複雑性PTSDの「概念・診断・治療」飛鳥井望〈『複雑性PTSDの臨床』原田誠一 編/金剛出版〉)
といったような治療を実施するとしています。
本日は、近年、注目を集めている複雑性PTSDについて、専門書などからまとめてみました。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『複雑性PTSDの臨床』(原田誠一 編/金剛出版)/『外傷性ひきこもり』(宮田量治/星和書店)