謝らなければいけないときって、ありますよね。でも、謝罪から逃げてしまいたいと思うことありませんか? どうして人は謝りたくないと感じてしまうのでしょう。そして、どうすればしっかり謝罪できるのでしょうか。心理学の情報を元にまとめてみました。
- 謝罪、最大のポイントは?
- 謝罪の効果を高めるには
- 謝罪を阻む3つの抵抗
- 範囲を明確にする
謝罪、最大のポイントは?
謝罪の最も重要なポイントは、自らの過ちを認め、責任を認めることです。ところがときに人は謝罪のポーズこそ示すものの、自らの過ちを認めず、責任を回避しようとします。その典型例が「気分を害したなら申し訳ありません」といった言い方です。これは自分の責任を回避し、相手の敏感さに原因があるかのような表現です。
同様なパターンに「無神経なことをしたのなら、ごめんなさい」といった言い回しがあります。自分は気付いていなかったけれど、あなたが傷ついたのなら謝るという姿勢は、相手の敏感さに責任があると言っているのと同じではないでしょうか。
またこの手の謝罪は、自分の何が悪いのかをしっかりと把握していないと公言していることにもなります。それが謝罪相手の気分を害すことは説明するまでもないでしょう。
相手をイラつかせるもう一つの謝罪例は、言い訳を大量に付け加えることです。「申し訳ありませんでした」と言った後に「でも」と長々と言い訳を語るのは、最悪の謝罪でしょう。
少しでも情状酌量の余地をアピールしようとしているのかもしれませんが、相手は責任逃れだと感じてしまう可能性が高いからです。「良い謝罪は抗生物質のようなもので、悪い謝罪は傷に塩をぬるようなものだ」と、カーネギーメロン大学のランディ・パウシュ教授は語っていますが、責任逃れが透けて見える謝罪は事態を一層悪化させる可能性があります。
謝罪の効果を高めるには
謝罪の効果を高める方法についても、心理学が研究しています。
一つは、なるべく早く謝罪することです。急いでクレーム対応する理由の一つは、謝罪が遅れれば遅れるほど解決が難しくなるからです。
というのも怒りやクレームの背景には、「蔑ろにされた」という思いがあったりするからです。対応の遅れは、そうした思いをさらに深めることにつながりかねません。
その一方で、謝罪すべき内容が詳細であるほど、効果が高いという研究結果もあります。つまり何が起こり、どんな責任があり、どんな対策を講じるのかが詳細に説明できる方が、相手も納得してくれるというわけです。会社同士の謝罪の席で、問題の原因についてまとめた資料をつくるケースがありますが、そうしたひと手間も関係改善に役立ちます。
さらに共感も謝罪の効果を高める重要な要素の一つです。
通常、謝罪はこちらが一方的に話すものではありません。相手の怒りの声を聞き、相手の気持ちを受け止める時間が必要です。そのときに相手の気持ちに共感することで、怒りを収めてもらえる可能性が高まります。
「おっしゃる通りです」「たしかにそうですね」「ご指摘ごもっともです」といった共感を示す言葉で、相手気持ちを受け止めることが大切です。
謝罪を阻む3つの抵抗
問題が起きたらしっかりと謝罪することで、人間関係を繋いでいく。それは当たり前のことでしょう。誰もが知っているルールです。ところが多くの人は謝罪を避けようとします。避けても状態が悪化するだけなのにです。
じつはこの不可思議な現象について、近年、研究が進んでいます。現在、謝罪をしなくてはいけないのに、どうも気が進まないと感じている人は、その原因のヒントを以下の文章から探ってみください。
①関係性への懸念
謝罪は関係回復への一歩と位置付けられるものです。だからこそ相手と関係性を修復したいと思っていない場合は、おざなりな謝罪になりがちです。「確かに自分は悪かったかもしれないけれど、もうお付き合いするのもコリゴリ」と思っているなら、心から謝罪できないのも当然でしょう。
こうしたときは関係性と謝罪を、分けて考える必要があるでしょう。悪いことをしたなら謝るのは当然です。その上で、今後つき合っていくのかどうかは、改めてしっかりと考える必要があるでしょう。
じつは謝罪するという立場になって初めて、相手に対する負の感情が明確になるといったこともあります。いろいろなしがらみがありムゲにできない関係であれば、適度に距離を置くといった選択もあります。
もし謝罪したくないと感じたなら、相手のとの関係についても考えてみましょう。
②謝罪の効力に対する疑念
多くの人は謝罪の効果を低く見積もる傾向にあるそうです。「どうせ謝っても、崩れた関係が元に戻ることはない……」。そんな気持ちが適当な謝罪を生みがちです。しかし海外のアンケートでは、医療訴訟を起こした患者の40%が、医師の適切な謝罪があれば訴訟を起こすことはなかったと答えています。被害の大きい医療問題でさえ、しっかりとした謝罪は被害者の怒りや行動を抑えられるのです。
しっかりとした謝罪の結果、より絆が強まったという話は、おそらく聞いたことがあるでしょう。それは特別な例ではありません。むしろ、その効果を疑い、しっかり謝罪しなかった結果として、関係性が途切れてしまうのです。
謝罪の効果を低く見積もるのをやめましょう。
③セルフイメージの危機意識
謝ることでセルフイメージが崩れると感じる人は、謝罪を回避する傾向があります。そこには組織の対面なども付いてくるかもしれません。しかし謝罪しないよりは、した方が周りからのイメージは良くなるものです。
ところが謝罪すると、セルフイメージが悪くなると考える人は多いそうです。この間違った思い込みを正すことで、前向きに謝罪に臨むことができるようです。
もし、謝罪がセルフイメージを傷つけると感じているなら、自分の価値観や自尊心の源について考えてみるといいでしょう。試しに自分にとって重要な価値観をリストアップしてみましょう。そうした行動を通して、誠実さや人間関係の重要さを再認識すると、自らの過ちをきちんと謝りたいと感じるケースが増えるそうです。
範囲を明確にする
誠心誠意、謝ることは重要ですが、相手の言い分をすべて聞く必要はありません。むしろ謝罪した後に、どんな距離感で付き合い、どこまでを自分がかかるのかを明確にしましょう。
それは今後、問題を起こさないためにも重要です。何より自分のできない範囲について話し合うことで、より協力的な関係性が生まれるかもしれません。
謝罪に関する間違った観念の一つが、最初に謝った方が「敗者」だというものです。そのためお互いに非がある場合、どちらも謝れずに緊張関係が続くといったことも起こりがちです。そうしたとき謝罪の口火を切ることは、気持ちよく生きるためにも必要でしょう。
ただし責任について、すべて引き受ける必要はありません。自分の非のある範囲については素直に謝罪し責任を取る。相手も同様の行動が望まれます。
エリザベス・スコット博士は、「謝罪において重要なのは、相手と自分が公平であることだ」と指摘しています。これは相手から先に謝罪を受けたときも同様です。互いに公平に謝罪することを、私たちは意識すべきでしょう。
今日は謝罪について心理学的な観点からまとめてみました。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「How to Apologize and Why It Matters」(Samantha Boardman M.D./Psychology Today)/「Barriers to Apologizing and How to Overcome Them」(Arash Emamzadeh/Psychology Today)/「Apologizing Sincerely and Effectively」(Elizabeth Scott, PhD/very well mind)