ストレスを常に排除しなければいけないと思っていませんか? じつはストレスにはプラスの側面もあります。ストレスの知識を深め、ストレスを活用してより生産的な生活を送るヒントをまとめました。
- ストレスは役立つ!?
- ストレスの認識を変える
- 他人を思いやる
- 大きな目標を意識する
- 睡眠と食事に気をつける
ストレスは役立つ!?
「闘争・逃走反応」という単語を聞いたことがあるでしょうか? これは生存にかかわる危機が起きたときの自然な人間の反応です。
例えば山で熊に出くわしたとしましょう。一気に心拍数が上がり、血圧も上昇します。相手をよく見るために瞳孔が開き、筋肉や脳に多量の血液を送ります。これは身を守るために、逃げるたり、闘ったりするための準備なのです。
非常に強力なストレスを受けたとき、自らの命を守るために起きるのが「闘争・逃走反応」なのです。こうした身体の反応は困難な状況を突破するのに役立ちます。注意力や集中力は通常よりもアップするからです。
ただ問題なのは、長期的にストレスにさらされると、メンタルヘルス不調になったりすること。いわば非常時対応の能力を、日々使っているようなものなのです。常に限界ギリギリまで能力を使うこと自体、生物的にも無理があります。
短距離走などのトップアスリートが大事なレースにピークを合わせ、それ以外のレースでは流すように走る要因の一つは、自分の能力の限界まで身体を使うと故障してしまう可能性があるからです。能力に余裕を持って身体を使うことが、私たちの生き方の基本でもあります。
ただ、現代において「闘争・逃走反応」が生じる可能性のあるストレスを、すべて解消することなど不可能です。完全にリラックスした状態が24時間365日続くことが無理なことは誰にでもわかるでしょう。
では、どんな状態が望ましいのでしょうか?
それはストレスで生じる注意力や集中力のアップを活用しつつ、メンタルヘルス不調になるような不健康な生活を送らないように、ストレスをコントロールすることです。もっと具体的に言うと、ストレスが不安や不満を生み出さないようにして、なおかつ体調が悪くならないように体調をチェックできる体制を整えることです。
もちろんストレス過多で心身が参っている場合は完全な休養が必要になりますが、どうにかストレスと折り合いがついているなら、より積極的にストレスを管理してみませんか?
ストレスの認識を変える
ストレスをうまく活用するため最初に実行すべきは、「ストレスは悪」というよくある思い込みを変えることです。
「考え方を変えただけで何が変わるのか」と思う人もいるかもしれませんが、じつは身体の反応の変化が証明されているのです。スタンフォード大学が、「ストレスは悪だ」と思っている人達と、「ストレスには成長因子があり、我々を成長させてしてくれるんだ」と思っている人達を対象に実験したところ、ストレスからの回復がまったく違うことがわかったと」報告しています。
かなりストレスフルな状況なのに、果敢に飛び込んでいき、成果を上げていくような人を見たことありませんか? そうした人は単にストレスに強いだけではなく、ストレスが自分にプラスに働くような思考をしていたのかもしれません。
思い返してみれば、つらい状況を乗り越え、その結果として誇らしい“果実”を得た経験は多くの人にあるのはないでしょうか? ただ、そうしたストレスの経験が「成長因子だ」という思いまで至っていないことが問題なのです。当時のことを思い出し、どんなことがストレスになり、それを乗り越えどんな誇るべき結果を生み出したのか、またストレスやプレッシャーに対して自分がどのように対処をしていたのかを思い出してみましょう。
「ストレスは悪」という意識を変えられるように、日常的にストレスを感じたときにかつての輝かしい思い出を振り返れるようにしていきましょう。
他人を思いやる
ストレスが高まっているときに、次に試してもらいたいのは他者を思いやることです。
というのもストレスが多いとき他者を気遣うことに神経を集中させると、脳内の科学物質が変化して、希望と勇気が湧いてくることが心理実験からわかっているのです。
困難をしなやかに乗り越え回復する力「レジリエンス」が、他者を思いやることで高まるのですから、この心理を活用しない手はないでしょう。
まずストレスフルな状況に打ち勝つことが、自分以外の誰の幸福につながるのかを考えましょう。家族かもしれませんし、関連会社の担当者かもしれません。あるいは頑張って支えてくれる部下かもしれません。そうした人達と交流する時間を持ちましょう。忙し過ぎてストレス発散に独りでお酒を飲みたいなんて感じたときこそ、大事な恋人や家族との時間を過ごすようにした方がいいでしょう。
あるいは支えたいと思っている部下の愚痴を聞くことが、自分に活力を与えてくれるかもしれません。
逆にストレスフルだし、社会的にも孤立していると感じたら要注意です。孤立感はストレスを増大させます。ストレスをマネジメントするためには、人間関係を充実させるよう努力する必要があるでしょう。
大きな目標を意識する
ストレスは自己中心的な生き方ほど強くなる傾向があるようです。逆に大きな目標に焦点を当てると、希望や感謝の念が湧き、幸福感が高まることがわかっています。
自分がストレスフルな状況を乗り越えるのは、他人や社会のためだと思えると、ストレス反応が減るといった実験結果もあります。
つまりストレスの源が、社会や他人にどのように役立つのかを、ストレスフルなときこそ思い出す必要があります。
「この努力や目標は、自分の価値観とどのように一致するのか?」「私はこの行動を通して、どんな貢献をしたいのか?」「この行動は社会や他人にどんな影響を与えるのか?」といった質問に答えてみましょう。
まもしストレスの原因となる仕事などが、社会のどんな役に立っているのかわからないなら、自分が販売している商品のエンドユーザーの反応をネットで調べるなどもお勧めです。特に仕事の場合、誰かに役立っているからお金をもらえるケースがほとんどです。
その「役立っている」部分をしっかりと把握し、自分の価値観との整合性を保つことでストレスは管理しやすくなります。
睡眠と食事に気をつける
ストレスを管理し活用したいなら、睡眠時間の確保や身体に優しい食事などの健康維持にも気を使いましょう。ストレスをマネジメントするのは、それなりに難しいものです。病気になってしまったら、元も子もありません。だからこそ体調に気を使い、おかしいなと感じたら、すぐに専門家にかかるようにしましょう。
ストレスを活用して、より生産性を上げていこうという試みは、サーキットを走るレーシングドライバーに似ています。健康を維持しやすい体制を整えた上で、少しでも不具合を見つけたら、「ピットに入り」しっかりとケアできる環境を整えておきましょう。
健康的なストレス発散法や自分の心理状態をさりげなくチェックしてくれる家族や同僚の協力、そうした環境を整えることで、より前向きに生きることができるでしょう。
そして無理はし過ぎないようにしましょう。また、自身の健康に対する家族や同僚のアドバイスは素直に聞き、医師などの専門家に診てもらうようにしましょう。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『メンタルマネジメント大全』(ジェリー・スミス/河出書房新社)