失敗が恥ずかしくて逃げだしたいときの対処法

失敗が恥ずかしくて、すべてから逃げ出したいと思ったことは誰にでもあるでしょう。ただ、近年の研究で、そうした行動が人生にプラスにならないとわかっています。そこで失敗で感じる恥の意識に、どのように対処すべきなのかを紹介します。

  • 信頼が崩れそうなときに感じる「恥ずかしさ」
  • 失敗が人格を引き上げる
  • 恥への対処法6選

信頼が崩れそうなときに感じる「恥ずかしさ」

失敗は恥ずかしいものです。言い間違いなどちょっと恥ずかしいと感じるものから、大口を叩いて挑戦したのに失敗してすべての関係者から逃げたくなるような深い恥の意識まで、人は失敗の恥ずかしさを感じ続けて生きているといっても過言ではありません。

では、そもそも失敗するとなぜ恥ずかしいと感じるのでしょうか? 
「恥ずかしさ」は、周囲の評価や信頼を失いかけたときに発生するものなのです。失敗は評価や信頼に直結しているので、恥ずかしいのも当然と言えるでしょう。もちろん羞恥心がない「強さ」といったものも、世の中には存在します。例えば他人にモノをたかる行為を恥じなければ、短期的には利益を得ることができるでしょう。ただし長期的には、周囲の評価や信頼を失うマイナスが大きくなります。

この「恥じる」という気持ちは、社会の変化や人々の認識とも密接にかかわっています。例えばみんなが間違えるような問題に答えられないことは恥だと思わず、答えられて当たり前の問題に間違うと恥ずかしいといったことは、恥の意識が周囲との関係で決まることを示しているでしょう。

失敗が人格を引き上げる

ネバダ大学のスティーブン・ヘイズ氏は失敗して恥を感じたときの間違った対処法は、「その場で凍りついている状態」だと述べました。「どうして失敗してしまったんだろう。恥ずかしい」と、次の行動に向けた一歩を示すことができない状態が、マイナスだというわけです。

また、ネガティブなの感情を避ける、自分を厳しく批判する、何度も失敗の記憶を反芻する、ネガティブな将来を予想する、衝動的に行動するといったことなども、失敗への対処としては間違っているそうです。
つまり失敗に向き合いたくなくて現実逃避したり、自分を責め続けたり、お酒やバカ騒ぎに耽るといった行動は、プラスに働かないということです。

さて、こうやって書いてみると、失敗に起因する恥の意識にどうやって対処すべきなのかは、なかなか難しい問題だとわかるでしょう。

まず、まったく恥に鈍感だと、長期的にはコミュニケティからの信頼を失う結果になりかねません。一方で失敗を恥じて引きこもっているだけだと、失敗を土台にした次の一歩を踏み出すことができないのです。

さらに厄介なのは、「成功は失敗の母」という意識を狭い視野で捉えると、マイナスの影響があるということです。厳しい競争社会では、失敗の分析はとても重要視されています。スポーツ選手は自らの失敗を試合から学ぼうとしますし、モータースポーツなどではレース中の不具合を徹底的に洗い出します。もちろんビジネスでも、失敗の原因を探し出して改善することはよく行われています。

ただし失敗の原因を探り改善を重ねても、どうしても跳ね返せない壁にぶち当たることも少なくありません。スポーツやクリエイティブの世界では、自らの才能に見切りを付け、年齢を重ねるにつれて多くの人がその業界から去っていきます。つまり失敗から学べば、必ず成功するというわけではないのです。仕事でも予算や技術、タイミングなど、さまざまな要因で失敗が成功につながらないこともあります。

ただし失敗を糧に歩み出すことは、心理的に大きなプラスがあることがわかっています。

ネバダ大学リノ校のスティーブン・ヘイズ心理学部長は、「失敗が成功につながる保証はないが、心を開いて知的な柔軟性を持って正面からアプローチすれば、精神的な成長につながる」と語っています。

というのも失敗を経験し、それでも前に進むことを決めた人は、他人への共感力が高く、多面的な見方を示すことができるのだそうです。人格を高めていくためには、失敗を通して正直に自己を向き合うことが大切だという指摘もあります。

これは逆の人生を考えてみれば納得できるでしょう。失敗のない人生を歩んでいる人は、しばしば傲慢になり、他人の痛みに鈍感だったりするからです。そして失敗は人格を高みに引き上げるだけはなく、まったく違う道筋を示すことにも繋がります。

音楽家を目指していたが叶わず、その過程でプロデュースが得意なことに気付いたといったことは、失敗が別の道を指し示す好例でしょう。失敗を成功に変えるべく動いていれば、たとえ目指すゴールにたどり着けなくても、別のゴールにつながる道筋が見つかるというわけです。

つまり私たちは怖くてもチャレンジし、つらくても失敗を乗り越えていく必要があります。そうした行動が自らの人徳を高め、仲間からの信頼を勝ち得ることになるのです。

恥への対処法6選

では、恥の意識をどうやって付き合うべきなのでしょうか? 実際の対処法をまとめてみましょう。

①自分の間違いをハッキリさせる
失敗の原因を曖昧にしていると、チャレンジしたことなど、すべての行動が間違っていたような気持ちになります。失敗の原因に向き合ってどのような行動が失敗につながったのかをはっきりさせましょう。失敗したからといって、私たちの行動のすべて間違っていたわけではありません。

②恥ずかしいのは一時的だと知る
失敗して恥ずかしかったとしても、ずっと続くものではありません。時間とともに、笑い話に変わっていったりするものです。一時、強い感情に襲われますが、そうした気持ちも待っていれば収まることを知っておきましょう。

③自分の大切な人が失敗したケースを考える
自分にとって大切な人が何かに失敗したとき、どんなふうに声をかけるのかを考えてみましょう。自分が大切な人にする態度を自分にもしてあげましょう。失敗した自分に優しく接することが、幸福感を高めるという研究結果もあります。

④恥ずかしさを共有する
自分が恥ずかしいと思っていることを、信頼できる人と共有しましょう。恥ずかしくて悶絶しているとき、多くの人が自分だけが特別にひどい状態だと感じがちです。しかし人と恥ずかしさを共有してみると、誰にでも失敗があり、誰もがそこから立ち直っていることを実感できるでしょう。

⑤自分の理想とする人の行動を考える
自分と同じような状況で、自分の尊敬する人はどんな行動をすると思いますか? 後から思い出したときに、自分にプライドが持てる行動を考え、そのための一歩を踏み出しましょう。

⑥恥ずかしくなる失敗を思い出してみる
失敗して恥ずかしいとき、必要以上に自己批判をしてしまうパターンがあるかもしれません。
例えば数字などのミスが見つかると、思い切り自分を責めてしまうケースです。複数の人がチェックしてミスを撲滅しているのが当たり前なのに、自分が見逃したことが許せなくなってしまう。同様のミスが発生したときに、毎回のように自分を責め過ぎてしまうようなら、その行動パターンを見つけて、落ち込むほどの失敗なのかを考えてみましょう。そうした行動が問題解決につながる、と米国UCLAの助教授であるジェニー・タイツ氏は指摘します。
脳を感情的な領域に集中させるのではなく、客観的な視点で少しでも考えられれば、余分な苦しみを和らげられるからです。

今日は失敗が引き起こす恥への対処法をまとめました。

心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:『メンタルマネジメント大全』(ジェリー・スミス/河出書房新社)/「人はなぜ恥ずかしがるのか」(菅原健介/聖心女子学園)/「Challenging Success-via-Failure」(Carlin Flora/Psychology Today)/「Free Yourself from Shame at Work」(Jenny Taitz/Harvard Business Review)

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