いついかなるときでも自分の主張や態度を変えない人のことを、世間では「有言実行」だと評価します。でも、心理学の観点からすれば、一度宣言したことを変えないほうが、本人にとってはラクだと知っていますか?
コミットメントと一貫性の法則を知り、「有言実行」が本当に自分のためになるかどうかを、そのつど見極めてみてはどうでしょう。
- ブレない人は好きですか?
- 心理学からみるコミットメントと一貫性の法則
- 圧倒的な数のボランティアをゲットした心理実験
- コミットメントがあなたの将来の行動を束縛する
- ときには、過去の自分と意見をたがえる勇気が必要かも
ブレない人は好きですか?
ブレない人、有言実行型の人は、見ていてほれぼれするものです。頑張り屋の先輩、硬派な上司に憧れて、「自分も一度決めたらやり遂げる人間になるぞ!」とモチベーションを上げている人も少なくないでしょう。
かっこいいかもしれないけれど、それはあなたの先入観かもしれません。心理的な法則に導かれて、「考えを固定せざるを得ない」「有言実行せざるを得ない」状況に、知らず知らずのうちに追い込まれているだけかもしれないからです。
心理学からみるコミットメントと一貫性の法則
心理学に、コミットメントという用語があります。「宣言」や「決意表明」、「公言」といった意味で使われ、ある程度の責任を持って行う約束ごとという意味で、ビジネス用語としても用いられています。例えばスポーツジムのCMで「結果にコミットする」とうたわれていますが、これは「結果(この場合は●キログラムの減量など)を出すことを、責任を持って約束する」という意味です。
また、心理学には「一貫性の法則」といったものがあります。これは、人がある行動をとると、その態度や主張を一貫してキープしたい欲求が生まれるという心理効果です。一貫した言動をとることによって、本人の満足度は高まっていきます。それが他人から評価されるべき言動であれば、なおさらのことでしょう。
一貫性の法則にコミットメントがプラスされれば、人は強い動機付けを持って行動をキープしようとします。それがどれほど強い引力を持つものか、心理実験を通してみてみましょう。
圧倒的な数のボランティアをゲットした心理実験
社会心理学者のスティーブンは、次のような心理実験を行いました。ある地区の住民に次々と電話をかけ、「アメリカがん協会のために、寄付を集める3時間のボランティアに参加を依頼されたら、あなたはどうしますか?」という質問をします。この質問には、多くの人が「引き受けます」と答えました。「例えば」の話ですし、冷たい人間だと思われたくないと思えば、誰でもそう答えるかもしれません。
そして後日、実際にアメリカがん協会から「例え話」と同じボランティアの依頼をすると、事前に電話のあった群の参加者は、電話のなかった群に比べて8倍にも膨れ上がったのです。小さなコミットメントで、人の心理に潜む一貫性の法則が働いたと考えられます。
コミットメントがあなたの将来の行動を束縛する
以上のように、一貫性の法則とコミットメントが、あなたの将来の行動を束縛する可能性があります。これが「目標は、広く公言したほうが良い」といわれる理由の一つです。あなたは目標を言葉に出すことで自らコミットメントし、一貫性の法則を保つためにそれを維持しようとすることでしょう。しかし、コミットメントにはデメリットもあることを、常に忘れてはなりません。
先の心理実験ではボランティアへの誘導に心理効果を使ったため、何も問題はないように思えます。しかしこれが、どの政党を支持するかを選挙直前に尋ねる調査だったり、買うか買わないかにかかわらず訪問販売を行ってもよいかという質問だったりしたらどうでしょう。
「後で意見を変えてもよいのだ」と分かっていて気軽に態度を表明した場合でも、一貫性の法則はあなたを束縛するかもしれません。ちょっと判断に迷うようなことがあっても、多くの人が調査時に支持を表明した政党に一票を投じ、行ってもよいと回答した訪問販売については、快くドアを開いてしまうかもしれません。
ときには、過去の自分と意見をたがえる勇気が必要かも
一貫性の法則やコミットメントについて知るほどに、潔く過去の自分と決別できる重要性について考えてしまいますね。
いつだってそのつど自分の頭で考え、過去の自分に振り回されず、優柔不断と言われても自分の信じる道を選べるようにしておきたいものです。そして、「もしも~だったら、あなたはどうする?」という問いかけには要注意! コミットメントにあらがう自信がないなら、「そのときにならないとわからない」と答えておいたほうが無難かもしれません。
参考:『影響力の武器 説得の秘訣 第三版』ロバート.B.チャルディーニ、誠信書房