低予算のインディーズ映画『カメラを止めるな』のDVDの発売も決まり話題になっています。口コミで面白さが広まり、上映館は時間とともに拡大していきました。
この大ヒットの秘密が何なのか、映画館でもまだ見られそうな今だから心理学的に解説します。
- 300万円の制作費で興業収益28億円
- ネタバレ厳禁が観客を呼び寄せた
- 電気ショックがあっても好奇心に勝てない
- 「知りたい欲求」は食欲や性欲と同じ
300万円の制作費で興業収益28億円
新人監督と無名の俳優が約300万円かけて撮影した『カメラを止めるな!』な異例づくしの映画です。公開当初はわずか2館のみの上映。ところが面白さがツイッターなどで喧伝され、上演館がどんどん拡大していったのです。
最終的には観客動員200万人、興業収益も28億円を上回りました。「映画界のシンデレラストーリー」と言われるゆえんは、そんなバックグラウンドにあります。
ネタバレ厳禁が観客を呼び寄せた
では、なぜこれだけヒットしたのでしょうか?
作品内容は、人里離れた廃墟でゾンビ作品を撮影したクルーが、本当のゾンビに襲われるというもの。スタッフが次々とゾンビ化していく中で、ゾンビと闘う姿が描かれます。ゾンビ映画の設定そのものには、それほど驚きはないでしょう。しかし綿密に練られた脚本、張り巡らされた伏線、驚きの結末など、さまざまなヒットの要因をネットメディアが取り上げています。とはいえ最も大きな要因は「ネタバレ厳禁」をうたったことでしょう。
映画を見るまでは結末を明かしてはいけないというルールが徹底され、結末がわかるようなネットの書き込みには、タイトルに「ネタバレ注意」といった文言が踊りました。
(かつて『シックス・センス』という映画で、最後のどんでん返しをバラされてから鑑賞した身にとって、このような配慮は非常に重要だと思うのです!)
最後には驚きの仕掛けが待っており、それが秘密にされている。『カメラを止めるな!』は、そんな仕掛けが大当たりした映画といえるでしょう。
電気ショックがあっても好奇心に勝てない
しかし結末が秘密であることが、そこまで人を引きつけるものなのでしょうか?
この疑問に答える心理実験があります。シカゴ大学のビジネススクールとウィスコンシン大学ビジネススクールの行動科学者チームが実施したものです。
用意されたのは山積みのシャープペンシル。実験に参加した学生に科学者チームは、ペンの半分がノックすると電気ショックが発生することを説明しました。ただし27人の学生には、どのペンが電気ショックを発生するのかを教え、別の27人にはどのペンに仕掛けがあるのかを教えなかったのです。
その後、学生を部屋に一人にしたところ、どのペンに仕掛けがあるかを知らない学生の方が、知っている学生より多く電気ショックを受けたというのです。つまり、どのペンで電気ショックが起きるのか好奇心に駆られ、多くの学生が電気ショックを食らったというわけです。
しかも、黒板にツメを立てる音や気味悪い昆虫など、生理的に嫌悪感を招く仕掛けでも、同じような結果が出たとのこと。
「知りたい欲求」は食欲や性欲と同じ
この研究論文の共著者であるクリストファー・シー氏は、「知りたいという欲求は食欲や性欲と同じくらい人間に深く根づいている」(『日経サイエンス 2016年9月号』で述べています。
また、時に破滅を招くかもしれない好奇心に対しては、「不快な写真を見た後に自分がどう感じるのか予測するように言っておくと、被験者はそうした写真をあえて見る選択をしなくなる傾向を示した」とも、同記事は書いています。
好奇心を満たすとどうなるのかをあらかじめ想像すれば、その誘惑から逃れられるということでしょう。
この記事は結論として「長期的な結果を考えることが、好奇心から生じる悪影響を軽減するカギだ」というクリストファー・シー氏の言葉が書かれていますが、『カメラを止めるな!』を観ても「好奇心から生じる悪影響」に悩まされることはなさそうです。ゾンビの姿を見ることが生理的に好かないという方以外は、秘密に対する好奇心を十分に満たすことができそうです。