私たちは誰でも秘密を持っています。しかし秘密が心身の健康に悪影響を与えることがあるとしたら大きな問題でしょう。近年の研究によって、秘密が心身に悪影響を与えるポイントがわかってきたので対処法とともに紹介しましょう。
- 秘密が悪影響を及ぼすのは〇〇するから
- 秘密の負担軽減の「特効薬」は?
- 「不道徳」な秘密は危険
- 心理的な負担が増加する行動パターン
秘密が悪影響を及ぼすのは〇〇するから
秘密が全くない人は、いないのではないでしょうか。コロンビア・ビジネス・スクールのマイケル・スレピアン教授は、97%の人が少なくとも1つの秘密を持っており、平均で13もの秘密を抱えていると書いています。つまり生きていれば、秘密にしなければいけないことは誰にでもあるというわけです。
ただし一部の秘密は、心身に悪影響を与えることがわかっています。マイケル・スレピアン教授は、悪影響を及ぼす秘密を持つことで不安の増加や健康不良、病気の進行につながる可能性があると指摘しています。
しかし秘密を持っているだけで健康を害するわけではありません。もしそうならば誰もが秘密保持の悪影響を受けてしまうことになるからです。
秘密が心身にどのような悪影響を及ぼすのかについては、さまざまな研究があるようですが、どうやら秘密を他人から隠すことが大きな問題に繋がるわけではなさそうです。というのも他人と交流するときに秘密を隠す頻度は、当人の幸福と関係がないという研究結果が出ているからです。
むしろ問題なのは、秘密について悶々と考える頻度だというのです。
フッとしたときに自分の秘密について思い出し、うんざりした経験を持っている人は少なくないでしょう。友人や家族を裏切ってしまったこと、仕事などで道徳的に問題だと感じることをしてしまったことなどなど。秘密にまつわる想いを反芻してしまうことが幸福を奪い、心身への悪影響につながっていくのです。
秘密の負担軽減の「特効薬」は?
秘密保持の悪影響を軽くする方法についても、もちろん研究が行われています。これもさまざまな方法があるようですが、最も効果的な方法の一つは他人に秘密を打ち明けることです。
秘密を打ち明けることは、カタルシスと安堵感を生みます。また秘密を共有することで人間関係が強化されることもよく知られています。ただ秘密保持の悪影響を軽減させるためには、カタルシスを得るだけでは不十分です。
秘密を暴露した相手から精神的なサポートや有益なアドバイスを得られると、秘密を抱えていた人は、より賢く秘密に対処できるようになるのです。その結果、秘密について反芻する回数が減り、結果的に幸福度もアップします。
例えばパートナーへの秘密を持ち続けていることで悩んでいるとしましょう。それを親友に話したとき、「秘密を持ち続けることが結果的にパートナーを守ることにつながっているんじゃない。秘密を打ち明けて許しを請うのは自己満足かもしれない」といったようなアドバイスをもらったとしましょう。こうしたアドバイスで秘密の捉え方が変われば、秘密を反芻して思い悩むことも少なくなる可能性があります。
つまり秘密の反芻で悩んでいるなら、心や問題解決の支えになるような人に打ち明けるべきでしょう。一方で打ち明けることだけを優先する「戦略」もあるそうです。それは、ほとんど関係性のない人に打ち明ける方法です。Web上での匿名の関係やバーなどでたまたま隣に座った人など、今後の生活に入ってこない人を選んで、秘密を暴露することも秘密の負担を軽くする一つの方法です。
「不道徳」な秘密は危険
どんな秘密が心理的な被害を引き起こしやすいのかという研究もあります。
スレピアンとコッホの研究によれば、秘密には3つの側面があり、「不道徳」の側面が強いと心理的な悪影響が出やすく、「つながり」や「洞察」の側面があると悪影響が出にくいそうです。
これだけだとわかりにくいので、具体的に説明していきましょう。
不法行為や他人に危害を加えたりといった「不道徳」な秘密は、それを恥じる気持ちも強くなり、秘密の共有に消極的になることが知られています。つまり秘密の負担を軽くする「特効薬」である秘密の共有が難しくなるのです。
「つながり」とは、親密な関係者だけが共有するような秘密です。恋愛願望や性的行動などが含まれるそうです。この手の秘密は、親密な人間関係が強化されることもあり、心身に悪影響を及ぼす可能性が低くなります。
「不道徳」な不倫の秘密が、心身の状態を必ずしも悪化させないのは、二人の「つながり」の側面が強いからだそうです。不倫をしている人の罪悪感のなさが問題になるケースもありますが、それは「不道徳」な秘密よりつながりの側面が強く、罪悪感を持ちにくい秘密だからなのかもしれませんね。
仕事などで科される秘密は、なぜその秘密を守る必要があるのかが明確です。つまり理性的で、しっかりと把握している「洞察」の側面の強い秘密です。秘密を含めた全体状況をしっかりと把握しコントロールしていることが、有能感を引き出すことが多いと言われています。つまり「なんであんなことをしてしまったんだろう」という悩みを持ちにくく、その結果として心理的な負担も軽減するそうです。
じつは不道徳な側面の強い秘密も、より洞察の面を強めることで心理的な負担が減るそうです。つまり、どうして秘密にしたいのか、秘密の暴露がどのような影響を及ぼすのかをしっかりと理解していると、秘密について思い悩むことが少なくなる可能性が高まるのです。
心理的な負担が増加する行動パターン
秘密を抱えているときに、心理的な負担が増加するパターンもいくつか明らかになっているので、これも紹介しておきましょう。
①人付き合いが面倒になる
秘密を守るために定期的にウソをついていると、だんだん人付き合いが面倒になってしまう可能性があります。例えば冴えない過去の自分を隠していたりすると、学生時代の話が出るたびにウソをつく必要がでてしまいます。そのため人に会うのが面倒になり、今の自分は本物ではないといった感覚が育ってしまいがちです。
こうした状況は心理的負担が大きいので要注意です。
②人間関係が変わる
自分の欠点、過去の間違いなどを隠そうとすると、人間関係が変わってしまう場合があります。いつも有能に見える自分を演出するために、緊張感漂う人間関係しか築けないといったことは、このパターンの代表でしょう。
こうした行動は自分が思う自分と他人から見た自分との距離ができるようになり、結果的に自尊心の低下を招きます。また本当の自分ではないという感覚が、人間関係の信頼度を下げてしまいがちです。
こうした状態でパートナーを持つと、パートナーも自分に対して不誠実だと感じてしまうケースが多いそうです。
③未来への不安が強まる
この秘密がバレたら未来はどうなるだろうという不安は、現在の生活も不安定にしてしまいます。しっかりと現実に向き合い、対処することが難しくなってしまうからです。
すべての秘密がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすわけではありません。また秘密のまったくない人間関係が、最善とも言えないでしょう。ただ秘密について、ついつい考えてしまうようならば対処すべきでしょう。
打ち明けられる友人などがいない場合は、カウンセラーなど守秘義務を持つ専門家に話すのも一つの手かもしれません。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「Why Keeping Secrets Heightens Anxiety and Depression」(Jack Schafer /Psychology Today)/「4 Signs the Secret You’re Keeping Is Too Much of a Burden」(Jourdan Travers/Psychology Today)