回避できない危機に直面したときに憶えておきたい エリクソン2つの教え

3万人以上に催眠をかけた精神科医ミルトン・エリクソン。その事例から見える苦境への対処の仕方を、ご紹介します。

  1. 親指と頭しか動かせなかった患者がトラック運転手に
  2. 完璧を目指さない
  3. 努力を忘れない

親指と頭しか動かせなかった患者がトラック運転手に

ミルトン・エリクソンは有名な精神科医です。その治療事例など書かれている『ミルトン・エリクソン心理療法』(ダン・ショート 他(著)/春秋社)はビジネス書の観点からも面白いものです。というのも、そのちょっと驚くような治療の数々は、危機に瀕したときに何をすればいいのか考えるのに参考になるからです。

さっそく、エリクソンの治療事例を紹介していきましょう。

エリクソンのところに連れてこられた車いすの男性は、この11年間、激痛をともなう関節炎に苦しめられ、ひどく怒っていたそうです。身体で動かせるのは頭と片方の親指だけ。

この患者にエリクソンが発した言葉は、かなり意外なものでした。

「動かせる親指があるのだから、それを動かさなくてはいけません。毎日、その親指を動かす練習をして、時間をやり過ごすんです」

このように指示した理由は、クライエントが運動不足だからという理由でした。

クライエントは、その「運動」に意味がないと証明したくて、ムキになって親指を動かす練習を続けていました。そのうちふっと人差し指も動くことを発見し、しまいには他の指まで動かせるようになり、手首や腕まで動かすことができるようになったそうです。

さらに最初の面談から1年後には、エリクソンはこのクライエントに小さな小屋のペンキを塗るように指示をしたのです。そんなことは無理だと当人は抵抗していたが、結局やり遂げ、その後トラック運転手となり、組合の長に選出され、教育が必要との思いから大学にも通うようになったそうです。

大学に通うようになってからも関節症の重い症状は残っており、雨季の3日~1週間は関節症の痛みのためベッドから出られなかったとのこと。ただ、かつて怒りの源だったベッドでの療養生活の時間を、その当時は心待ちしていたと書かれています。ベッドで寝ているからこそ、忙しくて読了できていない本を読めると語っていたそうです。

完璧を目指さない

このセラピーの解説部分には、

「正しく理解すべき第一の重要ポイントは、完璧はセラピーの適切な目標ではないという点です」

と書かれています。

クライエントの関節炎が完治したわけではありません。ときに3日~1週間もベッドから出ることができなかったのですから。実際、エリクソンが重要だと思っていたのは、

「患者の現在の状況との関連で成就できそうな何か小さな良いことを探求すること」

だったそうです。

何か小さなことに成功すれば、そのことが別の予期しない成功を生み出す可能性があるというのです。まだ気づいていない可能性にかけるエネルギーが、不可能も乗り越えられる可能性を生み出すのだそうです。

切羽詰まった状況で、私たちが考えるべきは完璧な結果よりも、達成できる小さな成功なのかもしれません。悪い状況を呪っても改善しません。動かない腕を呪うよりも、一心不乱に「親指を動かす」ことの方がはるかに重要なのです。

これは仕事がうまくいかないときにこそ思い出してください。自分のビジネスにおける「動かせる親指」は何かを考え、そこに力を注ぎこむことで事態は改善するかもしれません。

最も問題なのは、完璧を求めて動かせる部分を動かさないことでしょう。

努力を忘れない

「第2の重要ポイントは、生きていくためには努力が必要だという点である」

と、本書はこの事例を解説しています。

クライエントが積極的に努力するように、エリクソンンはたらきかけたそうです。自分の分担すべき仕事をきちんとこなすことが、とても大切なことを農場生まれのエリクソンは知っていたとのこと。 当たり前のことですが、努力しなければ状況は改善しません。そして努力すれば、

「自分の身体的な制約に順応する」

ようになるのです。そして順応すれば、その先に新たな可能性を見つけることができるそうです。

スポーツなどでも弱点を認めて、それを補うように努力することでトップアスリートになった人がいます。打たれ弱いからと徹底的にディフェンスを磨いたボクサーなどは、その典型でしょう。

これはビジネスでも同じです。現状のどうしようもない問題を受け入れた上で、新たな戦略を立てることで問題は解決に向かっていきます。問題との戦いをやめることで、次の道が見えてくるようです。

日々のビジネスは、親指を動かしていたら組合のトップにまで上り詰めたといったような派手な変化があるわけではありません。しかし地道な活動は、確実に何かを生み出すでしょう。

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