当事者研究って何?自分の「生きづらさ」を客観的に観て、大事にできる

「職場の人間関係がしんどい」「ネガティブなことばかり考えてしまう」……そんな人に、目を向けてみてほしい方法があります。それは、「当事者研究」です。辛さを抱えたままで生きるヒントが、そこには隠されています。

  1. 当事者研究とは、自分の辛さをテーマに、自ら研究すること
  2. 漫画家の細川貂々さんも当事者研究の効果を実感
  3. 当事者研究のエッセンスで、自らの生きづらさをそのままで大事にするヒント
  4. 生きづらさにおぼれそうになったら、近くの当事者研究グループを探してみよう

当事者研究とは、自分の辛さをテーマに、自ら研究すること

「当事者研究」とは、文字通り「当事者」が「研究」する、つまり自分のことを自分で研究するプログラムです。北海道浦河町にある精神障害者施設「べてるの家」で誕生した自助活動で、精神疾患を抱えた人が自分の不調や不快感、圧迫感を仲間に情報公開しながら「自分の助け方」を作り上げていくところに、ユニークさがあります。

このように紹介してしまうと、「自分は精神疾患を抱えているわけじゃなく、単に生きづらいだけ……」と、深刻な状態ではない自分にはそぐわない方法に思え、遠ざけたくなるかもしれません。しかし、生きづらさを抱えている全ての人に、当事者研究は「そのままの自分で、楽になる」ヒントを教えてくれます。

漫画家の細川貂々さんも当事者研究の効果を実感

げんに、『ツレがウツになりまして。』などの著書がある漫画家の細川貂々さんも、心理的な苦しさを抱えるなかで当事者研究に出合い、その効果を実感しました。著書『生きづらいでしたか?』の中で、次のように語っています。

「私はずっと自分の中に共存しているネガティブ志向クイーンのせいで、楽しいこと・うれしいこと・良かったことがあると、それを否定する習慣を持ってました。自分の気持ちを素直に出せないで生きてきたので当然、自分の気持ちに鈍感になってきます」

「私にとってのシアワセって何だ?それをぼっち研究(※一人で行う当事者研究のこと)してみようと思いました」

そして貂々さんは、「シアワセ」と感じたことを毎日書きとめ、それを1年間続けて「どんなことに幸せを感じているのか」を算出し、研究結果を著書(自分)に報告したのです。

すると、「私ってダメ人間だと思ってたけど、けっこうできているんじゃないか?」「人と関わることが恐怖だったのに、こんなにたくさん関われてる!」と、自分が見ていなかった自分自身を知ることができたとのこと。さらに、自分の一部分として持っている「ネガティブ思考クイーン」を「いらない存在」と決めつけていましたが、その存在を否定するのではなく、大事にしようと思えるようになったそうです。

当事者研究のエッセンスで、自らの生きづらさをそのままで大事にするヒント

細川さんも感じたように、当事者研究は「生きづらさを解消する」ためのスキルやツールではありません。むしろ自分が抱えている生きづらさを大事にし、「そのままの自分」を認められるようになるところにポイントがあります。

精神疾患の人のための当事者研究をそのまま援用することはなかなか難しいかもしれませんすが、当事者研究には、あなたの生き方を楽にするヒントがいくつもあります。生きづらさに悩む人に有効な、当事者研究のエッセンスをご紹介しましょう。

・自分の状態に病名をつけてみる

当事者研究では、「自己病名」というオリジナルの病名をつけます。こうして自分の状態を自分にも他人にもわかりやすくするのです。ネガティブなことが頭に去来して夜眠れないなら「ウダウダ不眠病」、職場で予定が詰まると慌ててしまうなら「キャパ小さめテンパり症候群」など、自分なりの病名を考えてみると良いのだそうです。

・生きづらさを「いったん外に出し、眺める」

自分がどんな気分なのか、何が不快なのかを他者に伝えましょう。それが難しいのであれば、いったん紙に書き出してみます。自分の中に抱えている生きづらさを、いったん外に出して眺めると、客観視できて苦しい気分が少し和らぐでしょう。

・「人」ではなく「こと」を眺める

「自分は、こういうネガティブな人間だ」と、「自分」と「ネガティブさ」がくっついていると思っていると、どんどん自己否定の波にのまれてしまいます。そうではなく、「自分にはこんなネガティブさがある」「この『ネガティブ』の部分をどうする?」と、自分と「ネガティブ」を切り離してみましょう。そして「ネガティブ」を完全に自分の外に置き、眺めてみます。できればほかの人と「自分から切り取ったネガティブ」を共有できると、いろんな気づきが生まれるのだそうです。

生きづらさにおぼれそうになったら、近くの当事者研究グループを探してみよう

当事者研究では、自分の苦労を情報公開し、他人とともにその苦労を眺めることが重視されています。そして自分や他人の今までの生活体験のなかから、自分と上手に付き合いながら生きていくアイディアを得ていくのです。もしあなたが生きづらさにおぼれそうなら、近くの当事者研究グループを探してみて。グループは、「当事者研究ネットワーク」で見つかります。

参考:

『生きづらいでしたか?私の苦労と付き合う当事者研究入門』細川貂々、平凡社

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