部下の育成は簡単ではないですよね。とはいえ、「自分には向いていない」なんてボヤかず、部下をきちんと育成するための技術を身につけてみませんか。ちょっとした工夫がマネジメント能力をアップさせる、上司としての仕事のコツをご紹介します。
①「食べ物を与えず、食べ物を得る方法を与える」
弁護士の谷原誠氏は、著書『「いい質問」が人を動かす』の中で、「いい上司は、食べ物を与えず、食べ物を得る方法を与える」と断言します。ライオンの子育てを例え話にして、母ライオンは「肉を直接与えるのではなく、自分で食べ物を得るようにさせるのです。そうしなければ、母ライオンがケガをしたり、死んだりしたとき、子はエサを得ることができず、餓死してしまうからです」と述べ、人間にもそれが当てはまるとしています。
子育てはもちろん、上司と部下の関係にも同じことが言えます。上司が部下に全てを命じ、部下がそれに従って動けば、一定の成果は上がるかもしれません。しかし、部下の頭は完全なる思考停止に陥ってしまい、自ら仕事について考える、進んで行動する頭や体を養えなくなってしまうのだそうです。そしてまたそうした部下が将来「指示のできない上司」になってしまう恐れもあります。
仕事は1から10まで教えるのではなく、1を教えたら後は部下が自分で10までたどり着けるよう、誘導するのが理想です。すると次は、1を教えると20も30ものことを自分でやってくれるようになるでしょう。
②オープンクエスチョンでとことん自分で考えてもらう
部下に自分で考えてもらうには、オープンクエスチョンが有効です。オープンクエスチョンとは、「はい」と「いいえ」の二択ではない質問形式のこと。例えば、「何か質問ある?」では、「ありません」と言われてしまえば同じです。「これまでの話、どこを疑問に感じた?」なら、部下は「ゼロ回答ではまずい」と思ってくれるでしょう。
「やる気あるの?」「この案件、とってこれる?」「企画書書ける?」などは、全てクローズドクエスチョンです。あるかないか、やれるかやれないかを質問しているだけで、いずれも部下の返事は一言で終わってしまいます。
「どうすれば、もっと数字は上がるだろうか?」「この案件、どうすれば取れると思う?」「企画書の書き方、どう進める?」など、部下に自ら考えてもらうオープンクエスチョンを口癖にしましょう。部下が本当に考えていることもわかって、コミュニケーションが広がるのも利点の一つです。
③ ときには質問を具体的にして、「意見」ではなく「気づき」や「思い付き」を口にしてもらう
学習塾を主宰していた経験のある篠原信氏は、著書『自分の頭で考えて動く部下の育て方』の中で、質問がざっくりしすぎていると、部下の頭はかえってフリーズしてしまうことを指摘しています。あまりにオープンなクエスチョンも、クローズクエスチョンと同じように、思考停止させてしまうのです。
オープンクエスチョンで部下が固まってしまったら、「ちょっと質問がざっくりしすぎていたかな」とフォローしましょう。そして、「例えばこの部分について、気づいたことは?」などと、質問を絞るのです。
また、「意見」を求めると部下はフリーズしやすいことを、篠原氏は指摘しています。それなりの知識や判断力が求められる「意見」ではなく、「気づき」や「思い付き」なら言いやすい、と。うまく言葉を引き出し、自ら考えられる部下を育てましょう。
④「命令」ではなく「お願い」、「助けてほしい」と頼む
篠原氏はさらに「命令をするのではなく、『あなたにお願いしたい』と言ったり、『助けて』と懇願したりしたほうが、部下の意欲を引き出しやすい」としています。人は、命令されるとイヤイヤ仕事をしがち。「お願い!」「助けて!」と言われると、「仕方がないなあ、やってやろう」という気持ちが湧いてくるというのです。わかる気がしますよね。
とくに「あなただからこそお願いしたい」と口説くのは、部下の優越感をくすぐり、やる気を出させる切り札的な言葉といえるでしょう。ただ、ミエミエになってしまうと逆効果なので、注意したいところです。
⑤ 会議では、全員に必ず一言ずつしゃべってもらう
サンリオ常務取締役の鳩山玲人氏は、著書『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』で、会議で発言しないよりは、的外れでも意見を言うほうがずっといい」と書いています。氏は、会議で発言できない日本のビジネスマンを、いつまでたっても英語が上達しない日本人になぞらえて、「間違った英語をしゃべるのが怖くてずっと話さないから、英語が上達しない。同じように、失敗を恐れて会議で発言しないビジネスマンは、いつまでも成長できない」と言います。
部下に成長してもらいたかったら、会議の際には全員に発言の機会を設けましょう。「特に意見はありません」といったゼロ回答はなしです。会議の場で発言することに慣れてくれば、そのうち自分の意見を言うことを恐れなくなります。
⑥コピーを頼むときは、「資料の内容は全部見て構わないからね」と言い添える
サンリオの鳩山氏は、著書の中でこうも言っています。「新人がコピーとりを頼まれたら、それは書類の中身を見てもよいということを意味します。そこで『この書類の目的は何なのか』『誰が作ったものなのか』に意識を向ければ、会社の動きを知るヒントになるわけです」。
確かに、コピー取りと言えば単純な仕事に思えてしまいますが、「他人の仕事の内容や、重要な会議の中身を知るチャンス」と思えれば、成長の材料になります。とはいえ、それに自分で気づくのは難しいものです。上司であるあなたが、「資料の内容は全部見て構わないからね」と言い添えてみましょう。そこで大事なことに気づける部下が、成長するのです。
かける言葉を工夫して、部下を伸ばせる上司になろう
ここでご紹介した工夫の一つひとつは、そんなに難しいことではありません。部下に育ってもらうために必要な言葉のかけ方を、覚えてみてはいかがでしょうか。毎日、自分がしゃべる言葉を意識するだけで、周りの部下がどんどん頼もしく成長していくことに気づくはずです。
参考:『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』鳩山玲人、幻冬舎
『自分の頭で考えて動く部下の育て方』篠原信、文響社
『「いい質問」が人を動かす』谷原誠、文響社