どうして自分を批判するの? 心理学が教える自己批判の原因と悪影響

自分を批判してしまうときは、誰にだってあるでしょう。しかし、毎日のように批判を続けているなら悪影響が出てしまうかも!? 自己批判のメカニズムを心理学的に解説しました。

  • メンタルヘルスにも影響
  • 自己批判の基準と性格傾向
  • 自己批判に「メリット」を感じることも
  • 日本の文化が自己批判的な態度を加速させる!?

メンタルヘルスにも影響

「自分はどうしてダメなんだろう」「こんなことばかりしているからダメなんだ」と考えてしまうことありますよね。こうした自己批判は、自身のエネルギーを奪っていきます。

イスラエルにあるベングリオン大学のゴラン・シャハール博士が指摘するように、自己批判がうつ病や不安神経症、摂食障害、薬物乱用などと関連があることがわかっています。

またカナダのウォータールー大学のアリソン・ケリー准教授などが書いているように、自己批判の強い人は、対人関係でトラブルを招きやすい上に、困ったときに他人に助けを求めるのも苦手です。さらにストレス解消が期待できるイベントに参加するのも得意ではないのです。つまり落ち込んだときに、自分から友人に電話することもできず、たとえ友人から遊び誘いが来ても断ってしまうことが少なくないのです。結果として、ストレスがさらに膨れ上がり、自己批判の度合いも強まってしまうのです。

自己批判がメンタルヘルスに悪影響を与える理由の一つは、小さなトラブルを大きくしてしまう、上記のような性格傾向にあります。

自己批判の基準と性格傾向

それでも自己批判にはメリットもあると感じる人もいるでしょう。反省して新しい一歩を踏み出すためには、自己批判的な態度も大切だと思うかもしれません。

しかし反省と自己批判は違います。その違いを理解するためには、自己批判の心理学的な定義を知っておいた方がいいでしょう。

ゴラン・シャハール博士は、自己批判の定義を次のように示しています。

①自らの行動に対する高い基準の設定と妥協のない要求
②高い基準が満たされないときの自分に対する敵意と軽蔑の表現

反省は未来をよくするための行動ですが、自己批判に通じる自分への要求は、実現不可能な領域にも及びます。失敗するのが当たり前の基準を自ら設定し、そのラインを超えない場合に自分を攻撃するのですから、心が休まる暇さえありません。

こうした心理状態が続くことでで、自己肯定感も低くなりがちです。そのため自分の行動に自信が持てず、小さなことで落ち込みやすくなります。また他人と比較して、落込む傾向もあるのです。

また自己批判の傾向が強い人は、失敗を恐れ、完璧主義に陥りやすくなります。冒険的な試みはもってのほか、どうすれば失敗がないのかが行動の基準になりがちです。また社会的なつながりよりも、タスクの達成を優先する傾向があり、他人と深い関係性を持てないことに苦しみがちです。

自己批判に「メリット」を感じることも

自己批判について分析していくと、自己批判的な性格にプラス面を見つけるのが難しく感じてしまうことでしょう。むしろ損ばかりしているように思えます。しかし心理学的に見ると、自己批判を続けている人は、それなりの「メリット」を得ていると考えているケースが多いそうです。

どんな「メリット」があると考えているのか紹介しましょう。

①成功に近づける
自分を批判しているからこそ努力を続けられるし、成功にも近づけると考える人も少なくないようです。逆に自己批判しないと、怠けてしまうといった思いがあるようなのです。

自己批判的な態度を持ったまま成功をおさめてきた人は、特にこのロジックにはまりやすいそうです。しかし実際には自己批判をしなくても、過去を振り返って改善していけば、成功は近づきます。あえて自分を責める必要性はありません。

②周囲から批判されにくい
失敗をしたときには、自己批判的な態度が周囲の批判を抑えることもあります。「これだけ反省しているなら……」といった感じです。もちろん失敗した本人に反省の色がないのは、周りの人の怒りを増幅します。だからといって自己批判的な態度が、次の失敗の防止に必ずしもつながるわけではありません。

自己批判的な人は、現実的ではない目標を設定しているケースが少なくありません。例えば、「自分がずっと集中していればミスは防げる」といった考え方です。しかし、こうした非現実的な対策は、次の失敗を招きかねません。

周りの怒りを抑えたけれど、失敗の「種」は取り除けないといった状態になってしまう可能性があります。

これら「メリット」は、自己批判をやめても手に入れることができるメリットです。メンタルヘルスに悪影響のある自己批判をあえてし続ける必要性はありません。しかし当人が「メリット」だと感じてしまうと、なかなか手放せなくなってしまうようです。

自己批判を手放すのが不安になっているかも
自己批判による「メリット」を感じている人は、過去に自己非難による成功体験があり、自己批判しない自分に不安を感じてしまうケースもあるようです。

例えば「もう失敗して怒られるのはイヤだ」と考えてミス撲滅に努めたり、怠けないように自分を厳しく律したり。そうした努力がプラスの結果を生むこともあるでしょう。あるいは、そうした態度を褒められたりした経験があるかもしれません。

ミスをしなくなり、ミスをしても怒られなくなった要因が自己批判であれば、自己批判的な態度を改めるのが不安になるのも理解できます。
結果的にメンタルヘルスにプラスにならなくても、失敗しないように自己批判とチェックを繰り返すといった行動が強化されてしまうこともあるのです。


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日本の文化が自己批判的な態度を加速させる!?

日本は世界的にも自己批判の感情が強いことが知られています。
その原因の一つが、成功や失敗の要因を努力と結びつけてしまうこと。

失敗が外的な要因だと考えられるなら、自分を批判することにならないのは当然でしょう。また成功の原因を能力と結びつけられるなら、成功のために日々の行動を細かく振り返る必要はなくなります。

しかし日本人は成功も失敗も努力に関連付ける傾向が強いため、失敗しても成功しても自分を責めがちです。そうした気質が職人的な「道」を究めるのに有効といったこともあるかもしれませんが、メンタルヘルス的にはプラスとは言い難いでしょう。
ちなみに諸外国では、失敗を外的要因にしたり、成功の要因を努力よりも能力だと考える国が多いようです。結果以上に努力する姿勢が評価される日本人の感覚は、自己批判的な態度を誘発しやすいのでしょう。

そのうえ日本人は、周りの目を気にします。
これは努力不足と自己批判の意識を、より強くさせてしまいます。失敗したときには、「自分を努力不足だと周りも思っているだろう」と考えてしまいますし、失敗を自分の努力不足だと表明することで風当たりも収まりがちです。

しかし実際のところ成功や失敗には、外的な要因や関係した人の個々の能力も関わってきます。必ずしも努力すればどうにかなったというわけではありません。

今回はメンタルヘルスにも悪影響を及ぼす自己批判について、心理学的に解説しました。紹介したような心理が自分に当てはまると感じたら、自己批判的な態度を改善するように動くと、少し生きやすくなるかもしれません。

心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。

監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会

参考:「Are You Self-Critical?」(Allison Kelly Ph.D./Psychology Today)/「The Hazards of Self-Criticism」(Golan Shahar Ph.D./Psychology Today)「Self-Criticism: What It Is, Examples, & How to Overcome」(CHOOSING therapy)/「自分に厳しすぎる悪癖を断ち切る5つの方法 感受性や野心を強みに変える」(メロディ・ワイルディング/DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)

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