心配事があると眠れなくなったり、いろいろ気に病んで心が疲れてしまったり。そんな人はHSPの疑いがあります。繊細な気質を持った人が、大きな音や刺激の強い映像、人の悪意が溢れる世の中で生きていくには?そのヒントをご紹介します。
- HSPとは、繊細で感受性が豊かで、人一倍敏感な人
- 次のリストのうち、思い当たるものはいくつある?
- HSPの人の4つの傾向「DOES」
- HSPが生きづらさを打開するヒント3つ
- 「自分だけじゃない」が、いつも心の味方!
HSPとは、繊細で感受性が豊かで、人一倍敏感な人
HSPとは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略語で、繊細で感受性が豊かで、敏感な人を指します。アメリカの心理学者、エレイン・アーロン博士が提唱し、1996年に初めてHSPに関する書籍が出版されました。アーロン博士自身が、自分の敏感すぎる気質に悩み、研究してたどり着いたひとつの「キャラクター」です。
つまり、HSPは性格傾向を名称で表したものであり、病気ではありません。ただ、繊細過ぎると、とても生きづらいですよね。その生きづらさをどう見つめ、自分の気質と手をつなぎながら生き延びるためにはどうしたらよいのかを、アーロン博士をはじめとしたHSP研究科は提唱しています。
次のリストのうち、思い当たるものはいくつある?
まずは、アーロン博士が提唱したHSPのチェックリストをご紹介します。あてはまるものは、いくつあるでしょうか。
1 自分を取り巻く環境の微妙な変化によく気づくほうだ。
2 他人の気分に左右される。
3 痛みにとても敏感である。
4 忙しい日が続くと、ベッドや暗い部屋など、プライバシーが得られ刺激から逃れられる場所に引きこもりたくなる。
5 カフェインに敏感に反応する。
6 明るい光や強いにおい、ざらざらした布地、サイレンの音などに圧倒されやすい。
7 豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい。
8 美術や音楽に深く心を動かされる。
9 とても誠実である。
10 すぐに驚いてしまう。
11 短時間にたくさんのことをしなければいけない場合、混乱してしまう。
12 人が何か不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるかすぐ気づく(例えば電灯の明るさを調整したり、席を替えたりするなど)。
13 一度にたくさんのことを頼まれるといやだ。
14 ミスをしたり、忘れ物をしたりしないようにいつも心がけている。
15 暴力的な映画やテレビ番組は観ないようにしている。
16 あまりにもたくさんのことが自分の周りで起こっていると、不快になり神経が昂る。
17 生活に変化があると混乱する。
18 繊細な香りや味、音楽を好む。
19 普段の生活で、動揺を避けることに重きを置いている。
20 仕事をするとき、競争させられたり、観察されたりしていると、緊張していつも通りの実力を発揮できなくなる。
21 子どもの頃、親や教師は自分のことを「敏感」とか「内気」と思っていた。
『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン、一万年堂出版より
21問のうち、12個以上が当てはまった人は、HSPである可能性が高いでしょう。ただ、一つや2つしか当てはまらなくても、その度合いが非常に強いときは、HSPである可能性があります。
HSPの人の4つの傾向「DOES」
HSPかもしれないと思ったあなたは、さらに次の4つの面が自分に当てはまるかを考えてみましょう。頭文字をとって「DOES」と呼ばれているこの傾向は、4つ全てが当てはまって、初めてHSPであると言われています。
D:深く処理する(Depth of processing)
O:過剰に刺激を受けやすい(being easily Overstimulated)
E:感情の反応が強く、とくに共感力が高い(being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular)
S:繊細な刺激を察知する(being aware of Subtle Stimuli)
程度の差はあるにしろ、4つの傾向があれば、人一倍敏感な人ということになります。「自分の思い込みじゃなかったんだ」と腑に落ちた人はいませんか。今まで一人で悩んでいたなら、他にもこういった傾向で悩んでいる人はいると知っただけでも、少し心が落ち着きますよね。
HSPが生きづらさを打開するヒント3つ
HSPがどうしたらもっと生きやすくなるかについては、HSPの研究家をはじめ、さまざまな心理学者が提唱している「悩みへの対象法」からヒントをもらうことができます。3つの打開策をご紹介しましょう。
・ネガティブ思考をポジティブに変えて自分を受け入れる!―リフレーミングを味方に
HSP研究家の上戸えりな氏は、著書『HSPの教科書』の中で「リフレーミングができれば、HSPはもっと自分を好きになれる」と書いています。「リフレーミング」とは「とらえ直し」のこと。この場合はモノの見方や感じ方を、本質はそのままに違う面から見ることで、ポジティブに解釈する技法です。
先ほどご紹介したDOESの4つの傾向を、ポジティブにリフレーミングしてみましょう。
D:深く処理する
ネガティブなとらえ方:考えすぎてしまう。あれこれ可能性を考えて決断や行動ができない
ポジティブなとらえ方:慎重だから、ミスがない。先を読んで行動できる
O:過剰に刺激を受けやすい
ネガティブなとらえ方:繊細過ぎる。敏感すぎる。
ポジティブなとらえ方:感受性が豊か。
E:感情の反応が強く、とくに共感力が高い
ネガティブなとらえ方:涙もろすぎる、心が弱い、同情しすぎる。
ポジティブなとらえ方:人に共感できる。
S:繊細な刺激を察知する
ネガティブなとらえ方:神経質だ。
ポジティブなとらえ方:いろんなことに気づくことができる。
このようにリフレーミングしてみると、自分の「気質」を活かせる仕事や場面はどんなところなのだろう?と考えられるきっかけにもなりますね。あまりに生きづらさを感じているのであれば、自分の気質が肯定されるところに身を置くことを考えてみましょう。
・自分を客観的に見てみる――ディソシエイトにチャレンジ
リフレーミングがうまくできないという人もいることでしょう。能力開発トレーナーの山崎啓支氏は、著書の中で「ディソシエイト」がリフレーミングを容易にすると書いています。ディソシエイトとは、「分離体験」のこと。自分を俯瞰して見ることによって、客観視を行うのです。
山崎氏が提唱するディソシエイトの手法をご紹介しましょう。
①まず、目の前に、「映画のスクリーン」をイメージする。
②刺激的な感情を体験したシーンを一つ特定する。
③それを誰かにビデオカメラで録画してもらったと仮定する。
④その映像を目の前のスクリーンに映し出して、それを見る。
⑤まるで他人事のように、それを客観的に見る。
客観視すると、「自分が感じていたよりも、刺激的なシーンではないな」ということがわかるのではないでしょうか。自分の感じやすさを追体験すると同時に、体験のとらえ直しも容易にできます。
・他人を気にしない――意識して「スイッチを切る」
心理カウンセラーの大嶋信頼氏は、著書『「気にしすぎてうまくいかない」がなくなる本』の中で、「周りからの期待に応えなければいい」と決めてしまえば、心は楽になると書いています。
とくに仕事の現場において、良い仕事をするためには「あれもこれもやっておかないと不安!」となりがち。でもこれは、周りに期待されていることがわかっているからこそ起こる不安なわけです。
そこであえて、「周りの期待」を感じなくしてしまうというのです。大嶋氏は次のように書いています。
そこで「周りの人の気持ちなんかわからない!」と思うことにしてみます。すると意識のスイッチが簡単に切れ、「あれ?力を抜いて最善を尽くせるかも」と無意識が働き出します。
『「気にしすぎてうまくいかない」がなくなる本』
他人の気持ちがどうしても気になってしまうのがHSP。でも、あえてそこの「スイッチを切る」ことで、たまには楽になってみてはいかがでしょうか。
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「自分だけじゃない」が、いつも心の味方!
人一倍感受性が高いと、「神経質な人」「繊細な人」とレッテルを貼られてしまいがちです。すると孤独感が高まり、抑うつ傾向になってしまう可能性もあります。そんなとき、支えになってくれるのが「自分だけじゃない」という言葉。
HSPは、子ども版である「HSC」がテレビ番組でも紹介されるなど、理解の輪が広がりつつあります。5人に1人がHSPの傾向を持つとする専門家もいます。世間の認知度が高まり、受け入れられる日は、きっとそう遠くはないかもしれません。
大事なことは自分の傾向を知ることです。心理学は自分の気質を理解するのに役立ちます。また人の心理状態に読み取ることに長け、人の役に立ちたいと考えることの多いHSPの人は、カウンセラーとして高い能力を発揮する可能性があるという指摘もあります。
自分の心を守りながら、長所を活かしていければいいですね。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン、一万年堂出版/『HSPの教科書』上戸えりな、クローバー出版/『「気にしすぎてうまくいかない」がなくなる本』大嶋信頼、あさ出版/『マンガでやさしくわかるNLP』山崎啓支、日本能率協会マネジメントセンター
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