「心の底から苦手と感じるもの」なのに理由がないのは、なぜ?

「心の底から苦手と感じるもの」は何ですか?蛇、ゴキブリあるいは黒板をひっかく音などなど。しかし多くの人が苦手と感じるのに理由がハッキリしないケースも少なくありません。そのメカニズムを心理学的に解説していきます。

  • 本当に怖がるべきは蚊
  • 視覚にとらえた瞬間逃げ出せる
  • クモから感じるのは病原体の恐怖
  • 黒板を爪で引っかく音の不快さにも理由が

本当に怖がるべきは蚊

「 #心の底から苦手と感じるもの」がツイッターでトレンド入りしました。暑さや高所、仕事、数学などなど、さまざまなものがあがっています。しかし「苦手」の中には、よく理由がわからないものも含まれています。

例えばクモ。

毒グモを別にすれば、害虫を食べてくれる「益虫」です。しかし見た目が気持ち悪いとの理由から「不快害虫」とされている気の毒な虫です。

2014年にビル・ゲイツ氏がまとめた「1年あたりに殺す人間の数が多い動物トップ15」では、ダントツ一位が年間72万5,000人を殺している蚊ですので、本来であればクモよりも蚊を警戒すべきでしょう。

しかし人はクモやヘビを見ると、理屈抜きで恐怖を感じるシステムが備わっているのです。

視覚にとらえた瞬間逃げ出せる

クモやヘビの恐怖について、名古屋大学の川合伸幸氏と名古屋学院大学の柴咲全弘氏が詳細な研究結果を発表しています。二人の実験によれば、クモやヘビの写真に、人は鳥やコアラより素早く反応することがわかりました。

またクモとヘビを比べた場合は、クモよりもヘビの方が注意をひきつけやすいことも判明したのです。

じつはこうした反応は、人間の危機回避のシステムとかかわっています。クモやヘビを見ると多くの人は恐れを抱きます。こうした情動によって、人は過去に経験した問題を繰り返さないようにしているらしいのです。

実際、ヘビやクモの姿を視覚がとらえると、いろいろな人体の器官を飛ばして、ダイレクトに恐怖を処理する脳の偏桃体を刺激するらしいのです。詳細な画像としては認識できないけれど、姿を見た瞬間に逃げられるように神経回路が動き出すシステムなのです。

先述したビル・ゲイツ氏の危険な生き物ランキングでは、ヘビは第3位。年間5万人も犠牲になっているので、ヘビを警戒するのは納得できる結果でしょう。ヒトが今のような文明を持つ以前なら、危険は今以上。ヘビを見つけて危機回避できるのかどうかは、生死に直結する問題だったはずです。

その意味でヘビを見て、「心の底から苦手と感じる」のは当然といえるのかもしれません。

クモから感じるのは病原体の恐怖

さて、理屈抜きで恐怖を感じる理由が、生物的な危機回避と関係あるなら、クモに恐怖してしまう理由は何なのでしょうか? 

名古屋大学の川合伸幸氏と名古屋学院大学の柴咲全弘氏によれば、次のように説明されるそうです。

ヘビに対する恐れは、かまれることに対する恐怖が根底にあるのに対し、クモに対する恐れは、汚れや病原体を媒介する嫌悪が根底にある(『無意識的な行動の無意識的な理由』越智啓太/創元社)

こうした理由のため、クモへの恐怖はヘビに対する恐怖より進化的には後で獲得したとのこと。

つまりクモをみると、人は病気になってしまうかもという恐怖を感じ、逃げ出してしまうというわけです。

黒板を爪で引っかく音の不快さにも理由が

理由なく不快や恐怖を感じるのは視覚だけではありません。音についても、耐えられないタイプがあります。その代表格は、黒板を爪で引っかく音でしょう。

この音がどうして神経に触るのか、その疑問をノースウェスタン大学のリン・ハルパーン氏、ランドルフ・ブレイク氏、ジェームズ・ヒレンブランド氏ら解明しました。

この研究では、まず嫌いな音を選んでもらうことから始めました。

「黒板を爪で引っかく音」「金属をこすり合わせる音」「発砲スチロールのカップをこすり合わせる音」「歯医者のドリルの音」「バイオリンのキーキーいう音」などの候補で、「黒板を爪で引っかく音」が嫌いな音の第1位を獲得しました。

さらにこの音の波形に似た音を探した結果、マカクザルが警告を発するときの声の波形とそっくりなことが判明したのです。つまり、この音を聞いたときの不快感は、太古にインプットされた警告への不安感だったのかもしれません。

ちなみにこの研究は、2006年に「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して贈られるノーベル賞のパロディー「イグ・ノーベル賞」を受賞しているので、世界的に見ても奇妙な研究なのかもしれません。しかし危険を回避できるよう、音と不快感がセットで記憶に刻まれているという事実は興味深いものです。

今日は「心の底から苦手と感じるもの」を、心理的な側面から説明してみました。

人間の心理について興味のある方は、心理学の知識を仕事にできるこちらもご覧ください。

参考:『心理学ビジュアル百科』(越智啓太/創元社)/『意識的な行動の無意識的な理由』(越智啓太/創元社)/「年間72万人が犠牲に! ゲイツ氏も警鐘『最も危険な生き物は蚊』」(添田孝史/AERA.dot)

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