高齢者に席を譲ったり、道に迷っている人を助けたり、ちょっとした親切をすることはけっこう多いもの! 実は親切にすると幸福度がアップすると言われています。心理学から見た親切の効果をまとめてみました。
- 人は親切を返したくなる
- 親切は回り回って自分に返る
- 仕事への誇りが親切心を生む
- 親切が幸福を連れてくる
①人は親切を返したくなる
「親切」に関して最も有名な実験の1つは、「返報性」に関するものでしょう。
実験参加者はサクラと二人一組で簡単な課題をこなします。その後の休息時間に、サクラが実験参加者にコーラを御馳走した場合、主催者が二人にコーラを御馳走した場合。誰も何も御馳走しなかった場合。3つのシチュエーションを作り、次の休息時間に自分が売っている宝くじを買ってくれないかと、サクラが実験参加者にもちかけます。
すると何もなかった場合と比べて、主催者がコーラを御馳走した場合は1.5倍、サクラが御馳走した場合は2倍の枚数を購入したというのです。
返報性は、個人が他者から利益や行為を受けたときは、同等の利益や好意を返さなければならないと思う心理です。つまり親切な行為を受けると、人はお返ししたくなってしまう生き物なのです。
②親切は回り回って自分に返る
大阪大学大学院の清水真由子特任研究員、大西賢治助教らの研究グループは、親切な行為が伝染していくことを突き止めました。
この研究では、5~6歳の幼児の日常生活を観察する中で次のような行動を突き止めたのです。
Aちゃんは、他の幼児に親切にしていたBちゃんの行為を観察していました。するとAちゃんは、Bちゃんに親切にするようになったのです。
つまり「情けは人のためにあらず」ということわざの通り、他人への親切は、自分の評価を上げることにつながり、それが回り回って別の人から親切が返ってくることが証明されたのです。
他人の利益のために動く親切な行動は、生物的には珍しいものだそうです。そして
「(親切な行動は)個体間の葛藤を和らげ、仲間とうまくやっていくために備わった心の機能です」
だと、大阪大学の「最新研究成果リリース」は解説しています。
この分野の研究が進めば、仲間とうまくやっていくための方法論がもっと明確になるかもしれません。
③仕事への誇りが親切心を生む
枯れ草を焼く野火のように広がる親切な行為を、企業文化として活用しようとしたのがメルセデス・ベンツUSAです。
全社一丸となった取り組みにより、新車を取りに来るその日が顧客の誕生日なのに気づいてケーキでお祝いした、息子の卒業式に向かう顧客の車がパンクしたので、展示してある車のタイヤと取り換えたといったストーリーがいくつも生まれたそうです。
このとき重要だったのが、社内教育によって親切心を刺激すること、親切に関して自発的な行動を取ることに許可を与えたこと、さらにベンツに乗る機会を与えて仕事に対する誇りを与えたことだったそうです。
メルセデス・ベンツUSAでは、整備士や販売スタッフのほとんどが、自社製品のベンツを乗った経験がなかったそうです。商品の素晴らしさを実感できなければ、仕事への誇りも持ちにくいと始めたのが、販売店で働く全従業員2万3000人に48時間ベンツを貸し出すプロジェクトでした。従業員は、その日に合わせてさまざまなイベントを組むなど、この企画は多いに盛り上がったそうです。ちなみに会社側は、このプロジェクトのために800台近い車を用意し、数百万ドルの資金を投じたそうです。
そもそも親切な行為のマニュアル化は困難です。顧客の望むこと、喜ぶことが何であるかは、そのときにならないと分からないからです。だからこそ職場で親切な行為が広がりやすい環境をつくることに、この会社は力を入れたのです。
顧客への親切は新たな顧客の獲得につながるかもしれません。小さな親切は、このような形でビジネスの世界でも役立っています。
④親切が幸福を連れてくる
親切な行為は自分に返ってくるだけではなく、自らを幸福にすることもわかっています。
しかも香港大学のホイ准教授によれば、計画的に参加したボランティア活動より、日常の何気ない親切の方が幸福感を高めるそうです。これは参加型のボランティア活動より、日常の親切な行為が自発的で、社会につながりやすいからだと分析されています。
つまり日々の生活で、ちょっとした親切を積み重ねることで、自分も幸せを感じ、その行為が回り回って自分に戻ってくることになるというわけです。
ちょっとした親切心を発揮するチャンスは、自分が幸福になるチャンスともいえそうですね。より暮らしやすい環境にするため、お客様の気持ちをつかむため、そして自分が気持ちよく働くために親切な行動を心がけてみてはいかがしょうか?
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『実験心理学 なぜ心理学者は人のこころがわかるのか?』(齊藤勇/ナツメ社)/「親切を企業文化の中心に据え、社内中に伝染させよ」(ウィリアム・テイラー/Harvard Business Review)/「『情けは人の為にあらず』を科学的に実証」(大阪大学)/「何気ない親切は自らを幸福に」(リンク・デ・ダイエット)