給料が上がれば、もっと幸せになるのにと思ったことがある人も少なくないでしょう。では、どれぐらいの年収があれば幸福だと感じるのでしょうか? お金にまつわるいくつかの実験を紹介しましょう。
- 「おとり」に引っかかる人間の思考
- 給料も不平不満は比較から
- 幸福な年収はいくら?
「おとり」に引っかかる人間の思考
さて、問題です。次の3つの「雑誌」のうちどれを買いますか?
①WEB版だけの購読 …… 59ドル
②印刷版だけの購読 ……125ドル
③印刷版とWEB版のセット購読 ……125ドル
マサチューセッツ工科大学の大学院生100人の選択は次の通りでした。
①WEB版だけの購読 ……16人
②印刷版だけの購読 …… 0人
③印刷版とWEB版のセット購読 ……84人
納得の結果でしょう。では、次の2つの選択肢の結果を知ったらどうでしょうか?
①WEB版だけの購読 …… 59ドル 68人
③印刷版とWEB版のセット購読 ……125ドル 32人
つまり「おとり」となる選択肢を一つ混ぜるだけで、「印刷版とWEB版のセット」という「高額商品」が売れるようになったわけです。
これは相対的な人の判断の特徴を示しています。
人間は比較しやすい対象を基に判断を下しているのです。WEB版と印刷版の価値は比較しにくいけれど、印刷版だけの販売とセット販売なら比較しやすい。その結果、3つの選択肢があっても、比べやすい2つから得な方に飛びつくというわけです。
給料も不平不満は比較から
給料もまた相対的に判断されていると、デューク大学のダン・アリエリー教授は給与の不満を言いに来た若者の例とともに述べています。
給料も不平不満は比較から
「『では入社したとき、3年度の年俸はどのくらいだと考えていたのかね?』
『10万ドルは欲しいと思っていました』
幹部は社員の顔をまじまじとながめた。
『だが、きみのいまの年俸は30万ドル近いじゃないか。それで何が不服なのかね』
『ええ、ただ……』若い社員は口ごもった。『デスクが近い同僚ふたりが、働きぶりはぼくとたいして変わらないのに、31万ドルもらっているんです』」
また
「わたしたちは、より高い給料を求めてやまない。そのほとんどがたんなる嫉妬のせいだ」
とも説明しています。
幸福な年収はいくら?
じつは幸福度と年収の関係については、いくつかの重要な研究結果が出ています。
幸福やポジティブな感情について、もっと知りたい人はこちらもクリック
2010年に実施したプリストン大学の調査によれば、ランダムに集めた45万人世帯のアンケートによって、幸福度は年収7万5000ドルに達すると、それ以上は大きくは伸びないことが明らかになっているのです。
7万5000ドルということは、現在の為替レートでは800万を超えてしまうので、それはそうだろうとも思るかもしれません。
しかし日本の行動経済学の第一人者、筒井義郎・大阪大学名誉教授などがおこなった調査 では、世帯年収500万円を境に幸福度の上昇はほぼ横ばいとなり、逆に1700万円、1900万円の階層では幸福度が下がっていることが明らかになったのです。
もちろん地域格差などもあるでしょうが。世帯全体で500万円の収入があれば、幸福度の観点からは十分だということです。ここで年収を比べやすい同僚やらご近所さんやら親戚などがを視野に入ってくると、より高い年収が必要に感じてしまうのです。
二人の働き手がいる世帯なら、年収250万円ずつ稼げば幸福度が頭打ちとなる金額となります。こうした知識は、これからの生活を考える上でヒントになるかもしれませんね。
参考:
『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー 著/早川書房)
『「幸せ」について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室』(NHK「幸福学」白熱教室制作班、エリザベス・ダン、ロバート・ビスワス=ディーナー 著/中経出版)