医学部系大学の入試の不正問題についてコミュニケーションの専門家に聞いてみました

男女のコミュニケーション能力は、本当に違うの?

女子のコミュニケーション能力が高いから入試点数を補正したという説明について、あえてコミュニケーションの専門家に解説してもらいました。

  1. 根拠の論文は執筆者が否定
  2. 性差よりも性格の差が大きい
  3. 発言は当事者の世界観が表れる

根拠の論文は執筆者が否定

次々と発覚している医学部の入試の不正問題で、小論文と面接による2次試験で女子の合格最低点を男子より高く設定するなどしていた大学のあることが発覚しました。

このような措置を実施した理由について、大学側は「一般的に大学入学時点の年齢では、女子の精神的な成熟は男子より早く、相対的にコミュニケーション能力が高い傾向にある」(『朝日新聞』2018年12月14日)と説明しています。

また、「この傾向は学問的にも証明されている」(『朝日新聞』2018年12月14日)と「医学的な検証の資料」として論文も示したそうです。

大学側が提示した論文は、執筆した大学教授が朝日新聞の取材に「私の27年前の論文は、心理的成熟の性差について調べたもので、『コミュニケーション』や言語能力の性差を調べたものではない」と答え、不正な入試を調査してきた第三者委員会でも、「区別をつける理由として合理性があるものとは解し得ない」(J-CASTニュース 2018年12月11日)と断罪しています。

性差よりも性格の差が大きい

すでに各方面から批判にさらされている大学側ですが、点数「補正」の正当性・合理性が認められることを複数の教員が説明したという報道もあり、あえてその妥当性を専門家に質問してみました。

質問に答えてくれたのは、桜美林大学の荒木晶子教授。

コミュニケーションを研究するだけではなく、実際に学生のコミュニケーション能力をあげるべく、年間1000人以上の学生を教え、すでに2万人を超える学生の成長を見てきた方です。

「授業では、隣の知らない学生と話し合ったりする練習を組み入れるなど、学生のコミュニケーション能力が上がるように工夫してきました。そうした様子を長年見てきましたが、男女でコミュニケーション能力に差があると感じたことはありません。

コミュニケーションをうまく取れない学生は、男女関係なくいます。むしろ講義で取り入れている性格分析「エニアグラム」とコミュニケーション・スタイルの関連性の方が、性差より大きいと思います。男女の性別にかかわらず、活発なコミュニケーションを好まないタイプの人もいるからです」

また荒木先生の講義を取ってから、やっと友達を作れるようなった学生も少なくないようで、この医学部を持つ大学側が主張するような、男子学生だけが18歳~20歳の間に自然にコミュニケーションを身につけるとった現象も見聞きしたことないとのこと。

発言は当事者の世界観が表れる

荒木先生は、今回の大学の学長が「私たちなりに根拠があり、大学の裁量と考えていた」(『毎日新聞』12月10日)という発言に、大きな問題があると指摘しました。

「コミュニケーションの理論からいえば、その人の発言は、その人自身の考え方を示したものです。つまり『大学の裁量』の後ろに、この発言をした方のバイアスが表れているのです。『コミュニケーションがうまい女子の方が有利で不公平だ』といった個人の世界観が見え隠れします。「話す言葉はその人自身の考え方をあらわす」と言います。それを複数の教員が認めていたとするなら、入試のシステムにとどまる話なのか?という疑問がわいてきます」

今回の騒動の中で大学側の認識と世間のズレに戸惑っているかに見える大学側の姿は、「世間」とのコミュニケーション不足を明らかにしてしまったようにも見えたのでした。

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