赤ちゃんは自己をいつ認識する?人間らしい発達が始まる鏡像段階

寝返りに始まり、ハイハイして、つかまり立ちをして……乳幼児の身体的成長は、目覚ましいものです。でも、心がどの程度発達しているかは、見た目からはなかなかわかりづらいですよね。1歳児から使える「ルージュテスト」で、自己認識の芽生えが確認できます。人間らしい発達が始まる、鏡像段階について解説します。

  1. 知能の高い動物にしか、鏡は認識できない
  2. 子どもの鼻に口紅をつけて鏡の前につれていくと、どんな反応をするか
  3. 自己認識の芽生えが社会性をはぐくむ第一歩―ラカンの鏡像段階路
  4. ルージュテストに成功したら、イヤイヤ期に対する構えを

知能の高い動物にしか、鏡は認識できない

ペットを飼っている人であれば、犬や猫が鏡に映った姿を自分と認識できないことに気づいているでしょう。鏡に向かって吠えたり、鏡を触ったり、後ろに回って存在を確かめたり。別の犬や猫がそこにいるものとしか思っていません。

鏡を認識できるかどうかは、その動物の知能が高いかどうかにかかわってきます。これまで、チンパンジーやオランウータン、ゾウ、イルカ、シャチなどについて、鏡を認知するミラーテストに成功したことがわかっています。

では、人間の子どもはいつごろから鏡を認識できるようになるのでしょうか。「ルージュテスト」を使ってそれを確かめる方法が、認知心理学の分野で確立されています。

子どもの鼻に口紅をつけて鏡の前につれていくと、どんな反応をするか

ルージュテストとは、子どもの鼻の頭に口紅をつけ、その姿を鏡で見せたときにどんな反応をするかを調べる実験です。もしも鏡を見て「これは自分だ」とわかれば、「鼻についている赤いものは何だろう」と、鏡ではなく自らの鼻を触ることでしょう。

ただ、幼児が自分の姿を鏡で認識できたとしても、口紅を全く気にすることがなければ、触って拭き取ろうとする動作も行いません。そこで、ミラーテストでは、子どもに鏡を見せる前に人形の顔についた口紅を拭きとらせる遊びを繰り返し行うなどして、口紅を拭きとるための動機付けを高めるようにしています。

ルージュテストを行うと、1歳前半の子どもはあまり反応を示しませんが、1歳半を過ぎると反応する子が増え、2歳ごろまでにはほとんどの子どもが口紅を拭きとるしぐさをするようです。つまり、自己認識が芽生えるのは、1歳から2歳の間ということができます。

自己認識の芽生えが社会性をはぐくむ第一歩―ラカンの鏡像段階路

フランスの精神分析家であるラカンは、鏡を認識できる時期を「鏡像段階」と名付けました。そして鏡像段階は、精神発達にとって大事な時期であると結論づけています。

まだ鏡を認識できない乳幼児にとって、自分の身体はバラバラになった部分の集まりでしかありません。つまり、目に見えている手や足、かゆい背中、拭かれるお尻などの認識はありますが、統一性を持って理解できているわけではありません。しかし、鏡を見れば、自分の全体像の輪郭が映し出されます。初めて、自分丸ごとの姿を確認することができます。

よって鏡の認識は、自己同定のきっかけとなると同時に、自我が芽生える準備がスタートしたことを示していると考えられています。「私」の全体的な輪郭をつかむことが、他者との違いを浮き上がらせ、「親とは違う自分」を意識するようになっていくのです。


赤ちゃんに関するおすすめ記事はこちら

イヤイヤ期を乗り切る方法!親は自分のメンタルを一番大事にして

人は根っからの善人?悪人? 赤ちゃんが教えてくれた人の本性とは!

ママと赤ちゃんは「匂い」でつながってる! 嗅覚が導く母子の絆


ルージュテストに成功したら、イヤイヤ期に対する構えを

自己認識の芽生えは、そのうち自我の芽生えにつながっていきます。自分の身体の輪郭を確認した子どもは、次に意識の輪郭を確かめようとするようになるためです。親の言うことに何でも「イヤ!」と返し、親をはじめとした他者と、自分の意志の境界線を確かめようとします。つまり、イヤイヤ期の始まりです。

先ほど紹介したルージュテストには、成功したかどうかの見極めが難しいところがあります。鏡を認識できていたとしても、鼻の頭の口紅を「初めから自分についているもの」と違和感なく受け止めれば、気に留めることはないでしょう。鏡を認識しなくても、ただ「鼻がかゆい」という意識だけで、鏡に向かったときに偶然鼻をこすることも考えられます。

ただ、実験の場ではなく自宅であれば、わざわざルージュテストをする必要はありません。親がわが子の様子を見て「あ、ちゃんと鏡だとわかっているな」と感じればいいだけですから。子どもが鏡に興味を示す頃合いになったら、そろそろイヤイヤ期です。

イヤイヤ期は大変だといった話がネットなどにも溢れていますが、じつは成長の証でもあるのです。自分と他人との境界線ができてきた印と考えると、赤ちゃんの「イヤ!」もちょっと嬉しくなるかもしれませんね。

参考:『生涯発達心理学』(有斐閣)

関連記事

「働きたい」と「働けない」を行ったり来たりの産後女性の心理とは... 出産後、仕事復帰する女性社員にどんな仕事を割り振るべきか悩む経営者も、ワーキングマザーと一緒に働くとき気を遣う社員も、考えていることは一つです。そう、「育休復帰後の女性は仕事についてどう考えてるのか?」。仕事復帰したワーママを取材して、わかったことをお伝えします。 産後、仕事復帰した...
親の家が片付かなくて困っているあなたに知ってほしい心理学... 実家に帰るたび、モノの多さにため息をついていませんか。親が年をとるにつれ、どんどん実家の中が汚くなると感じていても、仕事が忙しいとなかなか実家に立ち寄ることができませんよね。「親家片」のためには、親の心理状態を知るのが近道です。「保有効果」を知れば、「それで片付かないんだ!」と納得できますし、対策...
自分が働いている間、親はデイサービスで何してる?【介護資格者のレポート】... 親の介護が始まり、仕事と両立させるためにデイサービスへ預けることを決意したけれど……。不安が尽きない人もいるでしょう。そこで介護福祉士を取得した筆者が、デイサービスでの一日の流れを詳細にレポートします。 9:30 送迎バスでデイサービスへ到着、まずはお茶でホッと一息 利用者の...
親の介護、どう仕事と両立する?知っておきたい介護サービスの種類... 親が70代後半、「後期高齢者」なら、子世代は30代から40代といったところではないでしょうか。仕事を続けながら親の介護も両立させるために、介護保険で使える基本的な介護サービスの種類と内容についてまとめました。 【介護が生じたら……まずはケアマネージャーに相談!】 ・ケアプラ...
暴力的シーンがある番組は、本当に子どもの暴力を助長する?行為そのものより大事なこと... 暴力的なシーンがある番組は、本当に子どもの暴力を助長するのでしょうか。実は、心理実験でそれを確かめた人がいます。興味深い実験をひもといていくと、暴力行為そのものよりも大事なことが見えてきました。 バンデューラのポポ人形実験暴力行為の後は、きちんと叱ることが大事バイキンマンは、いるだけ...

働く人の心ラボは、働く人なら知っておきたい『心の仕組み』を解説するサイト。
すぐに応用できる心理学の知識が満載の記事を配信しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です