もう、ゲームをしている我が子に何度も「宿題やりなさい」って言いたくないですよね。でも、何も言わなくても宿題をやる子もいますし、塾やお稽古事に通わせるのも、大変な子とそうでもない子がいます。この差って何でしょう? ヒントは、報われているか、そうでないかにありそうです。
言わないとやらないような無気力な子にさせないために何が必要か、心理学的な立場から考えていきます。
- セリグマンの電気ショック実験
- 学習性無力感は子どもの心をむしばんでいく
- 子どもの発達段階要因による無力感を払しょくするカギ
- 子どもには手ごたえのある経験を
セリグマンの電気ショック実験
なぜ頑張れないのか、意欲がわかないのか、無気力になってしまうのか。その答えが垣間見える実験があります。心理学者のマーティン・セリグマンが行った、犬に対する電気ショックの実験です。
鼻で押せば電気が止まる装置と犬の行動に関係なく電気が流れる装置、後者の装置の付いた部屋に入れられた犬は無気力になり、行動を起こさなくなりました。しかも無気力になった犬は、飛び越えられる柵の中で電気ショックを受けても柵を自ら超えようとはしなかったのです。
学習性無力感は子どもの心をむしばんでいく
セリグマンの実験からわかるのは、何をしても報われない状況に陥ったとき、動物は無気力に陥ってしまうということ。そして、現状から抜け出すためのチャンスが用意されたとしても、それを実行せずにただ無気力なままになってしまうということです。これを、学習性無力感といいます。
もしどんなに勉強を頑張っても身につかなかったり、一生懸命準備をしてもテストが出来なかったりということが続けば、子どもも学習性無力感に陥ってしまう危険があります。
この場合、「勉強をしないからテストができない」のではなく「テストの結果が悪いから勉強をする気になれない」のです。このままだとどんどん勉強することから遠のいて行ってしまいますから、何か手ごたえのあることをやらせ、結果に限らずやれたことを褒めるようにしましょう。
子どもの発達段階要因による無力感を払しょくするカギ
また、人間の子どもの場合は、発達段階を要因とした無力感にも目を向けなければなりません。子どもの頭を悩ますのは、勉強だけではないためです。「友人と仲良くしたいのに、どうしても会話ができない」「家族とどうしてもうまくいかない」「部活で頑張っているのに成果が出ない」など、悩みは尽きません。
ただ、日本の中学生を相手にした心理実験では、「やったけれどうまくいかなかった」といった体験の多さよりも、「やってみたらうまくいった」という体験の少なさのほうが、無気力感に大きく影響を及ぼすことがわかっています。つまり、うまくいかない経験が多いから無気力になるというより、うまくいく経験が少ないことのほうが、無気力を引き起こすのではないかということです。失敗も成功も多い人の心は、総合的には健康、ということになります。
子どもには手ごたえのある経験を
人生、やってみてもうまくいかないこともたくさんあります。失敗の積み重ねが無気力を引き起こすのであれば、誰だって気力を失ってしまうでしょう。しかし、私たちが頑張って生きていけるのは、「うまくいくことだってある」と思えるからではないでしょうか。
子どもは、小学生、中学生と、どんどん多感になっていきます。その過程では上手く行かないこともあるでしょう。親としてはどんなことでも、細やかなことでも自分のやったことが成功体験となって返ってくる「手ごたえ」のある経験を、増やしてあげたいですね。勉強だけではなく、スポーツや音楽、あるいはゲームなどの遊びでも、しっかり考えて繰り返せば成功できることを学べる環境が大切でしょう。
参考:『やる気はどこから来るのか』奈須正裕、北大路書房