どうしてこんな行動を取るんだろうと、パートナーの行動を不思議に思ったことはありませんか?子どもの「不適切な行動」を説明したアドラーの理論から、大人の問題行動について考えてみましょう。
アドラーの解説書『勇気づけの方法』(野田俊作/創元社)には、次のような一文があります。
人間の究極的な目標は、共同体の中に自分の居場所を見つけ出すこと
大人になると、さまざまな共同体に所属することになるため、すべての共同体で「居場所」を見つけようとは思わないかもしれません。しかし「居場所」を見つけようとする人が起こす問題行動のパターンを、アドラーは「不適切な行動」という形でまとめています。通常、子どもの問題行動のパターンとして説明されることも多いものですが、大人にも当てはまる部分も多いので、紹介していきます。
問題行動①賞賛を得る
賞賛を得るように行動することにどんな問題があるのかと思うことでしょう。しかし賞賛を得ようとする行為は、誉められないと行動が止まってしまいます。良い行動をすることに喜びを感じるより、背後に競争を含んだ行動になっていることに問題があるのです。
これはモチベーションの研究などでは、活動そのもの以外に何も報酬がない「内発的動機付け」と、報酬への期待から起きる「外発的動機づけ」の違いとして語られます。そして「内発的動機付け」が、高い集中力や活動の継続に効果があるとされています。
仕事などで賞賛だけがモチベーションになっているケースや、恋人などのパートナーが賞賛だけを求めてくるパターンは、長期的に見れば問題をはらんでいるといえるでしょう。当人が行動自体を楽しんでいるのかどうかを考えることは、不適切な行動の芽を摘むきっかけとなるでしょう。
問題行動②注目を集める
叱られたくて悪いことをする。これは子どもの行動としては、よく知られています。無視されるよりも、怒られてでも注目を集めたい心理は、親はもちろん教育関係者なら多くの人が目にしていることでしょう。
この対策は、悪いことをしたときに強く反応するのではなく、日常的な行動に対して「あなたのおかげで助かった」「すごく頑張ったんだね」などと声掛けをしていくことだとされています。不適切な行動を叱れば「注目を集めたい」という欲求を満たしてしまうため、逆に目立たない適切な行動に対してアクションを取れば、注目を集めようと思わなくなるからです。
大人がこのような行動を取るケースは、それほど多くはないかもしれません。しかし会えばケンカをしてしまう、ついつい叱ってしまうといった関係が常態化している場合、より悪い関係に発展する可能性があります。
例えばパートナーの家事の仕方が気に食わなくても、叱り続けるのではなく、日常的な行動にこそ注目を払って感謝を示すことで、ギスギスした関係性から脱することができるかもしれません。そうすれば次の段階の問題行動を起こさなくなる可能性が高まります。
問題行動③権力を握る
注目を集めることに失敗すると、人は権力闘争を始めます。自分の方が強いと証明しようとするのです。この対策は、喧嘩を買わない、その場を離れるといったことです。そして冷静に話をする時間を持つ必要があります。
権力の獲得を目標にしている場合は、その闘争の土俵にのらないことが重要だからです。
これが夫婦間などで起きたら、なかなか対処が難しいことがわかるでしょう。つまり大人の人間関係においては、権力闘争になる前に対処すべきですし、この段階まで来てしまったら挑発にのらないように気を付けることが重要になります。
問題行動④復讐をする
権力闘争を力で抑え込むと、相手の手の届かないところで相手が傷つくような行動を始めます。ここまでくると相手の行動を静観するしか対策がなくなり、第三者の介入が必要となります。
大人の人間関係であっても、第三者が入らないと収まらない状況といえるでしょう。家庭や職場で「権力闘争」に勝利したと感じたら、表面化しにくい「復讐」を警戒する状況に突入する可能性があるのです。それは消耗戦となります。
問題行動⑤失望させる
復讐をする段階で適切な援助を差し伸べないと、自分を見捨てるといった働きかけをするようになります。引きこもり状態で入浴や着替えを拒否しているケースは、この段階となります。この段階の人は、適切な訓練を受けた人の援助が必要となってしまうそうです。
ビジネスの現場では、このような状況の人に会うことはないかもしれませんが、家族の場合は、こうした状況もありうるでしょう。
このように考えると、重要なのは関係性を悪化させないことだとわかります。共同体に居場所を求めている人に、どのように対処すべきなのかを、アドラーの理論を参考に考えてもらえたらと思います。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『勇気づけの方法』(野田俊作/創元社)