断れない気持ちにさせる「ローボール・テクニック」を活用して自己実現できる!?

やや強引な営業手法としも知られている「ローボール・テクニック」は、断れない気持ちに追い込む心理テクニックです。そうした効果を生みだす心理的な理由と、自分への活用法について紹介しましょう。

  • ローボール・テクニックって、なに?
  • 社会のためにもなるローボール・テクニック
  • ローボール・テクニックを活用して自己実現!?

ローボール・テクニックって、なに?

詐欺的な手法としても紹介されることもある「ローボール・テクニック」は、最初にうまい話で仮契約を結び、本契約の前に価格の変更を言い渡すような手法です。そんな不誠実な態度だと、お客は怒って逃げてしまうと感じる人も多いでしょう。しかし自分が購入すると思って行動してきた時間を、人は簡単には裏切ることができないようなのです。

例えば、自動車販売店で販売価格が少し安い車を見つけたとしましょう。その後、仮契約の書類の作成やらローンの条件の取りまとめ1日試乗などを経た後、営業が「エアコンの値段を加算し忘れたので、その分を上乗せしなければ」と謝罪に来ます。

言われたエアコンの代金を足すと、安く買えるはずだった車は、結局定額。それでも買い手は仮契約以降、新車を買うつもりで行動していたので、その一貫性を維持したいと感じて、購入してしまうそうです。

さらに、もともと値段が安いことが購入の理由だったのに、買い手は試乗などによって新車を購入する意義を新たに発見していきます。例えば、今の車より燃費がいいとか、家族が新車購入を楽しみにしているだとか、運転しやすいから疲れにくいなどです。仮契約から本契約までの間に購入するメリットが増えているので、もう最初の購入動機である「値段の安さ」がなくなっても気にならなくなってしまうのです。

これらに加えて、そこまでに使った時間や労力をムダにしたくないといった心理も働きます。ローンの金額を設定するため自分の給与の使い方を確認したり、奥さんを説得したりした時間がゼロになるなど、耐え難いと感じてしまうのです。

有利な条件で釣っておいて、それを取り消すというローボール・テクニックが、Webでの口コミが発展した現代にどれだけ効果を発揮するのかわかりません。ただ、人がこのような心理に誘導されてしまうことは事実です。

社会のためにもなるローボール・テクニック

ローボール・テクニックは、社会的に有益な目的にも活用できると、社会心理学者のロバート・B・チャルディーは解説しています。

アイオワ州で行われた実験では、1つのグループに省エネの秘訣を教え、ガスの節約を心がけるように頼みました。しかし実際の使用量に変化はありませんでした。

別のグループには、省エネの秘訣を教えた後に、次のような話を聴かせます。

省エネに同意した家庭は公共精神に溢れ、省エネを実践している市民として新聞に名前が公表される

この効果はすぐに表れ、1ヵ月後には12.2%もの省エネに成功しました。
ここに新聞掲載の話がなくなったという手紙が届きます。ところが各家庭は省エネを続け、冬の終わりまでに15.5%の節約率を達成したのです。

新聞掲載がなくなった後も、住民が努力を続けた理由を、ロバート・B・チャルディー氏は次のようにまとめています。

・燃料費の減少
・原油の海外依存を少なくする必要性の理解
・新しい自己イメージ
・プライドの高揚

新聞掲載の「ご褒美」がなくなっても、上記の4つの魅力が節約生活を支えたというわけです。

彼は、

「公共精神に溢れる市民という自己イメージを生み出す行動を一度でもとらされてしまうと、承諾が望まれるさまざまな状況で、公共精神に溢れる振る舞いをしがちになります」

と書いています。

新しい自己イメージが作られ、それが自分のプライドをくすぐるようなら、そのイメージを維持しようと人は努力し続けるのです。

ローボール・テクニックを活用して自己実現!?

こうした人間の心理を自分にも活用できるかもしれません。

ローボール・テクニックそのものは、一度その気にさせて、その条件を取り消すといった工程が入るため、そのまま自分に使うことはできません。しかしローボール・テクニックで活用した、次のような心理は活かすことができそうです。

・一貫性の原理

態度や信念を一貫したものにしたいという心理

・コンコルド効果

追加のコストで損失が出るとわかっていても、これまで投資した分がムダになることが嫌で、投資を続けてしまう心理

・新しい魅力の気づき

実際に行動することで生まれる新しい魅力の発見に伴う感情

自己実現したい目標があるなら、失敗したときの罰則を設け、友人などに宣言をして始めるといいでしょう。ダイエットでも資格試験でも構いません。罰則付きの宣言は「コミットメント契約」と呼ばれ、目標に向けた行動を起こすのに適した手法です。

実際に行動を起こせれば、最初は罰を受けたくないからといった理由で頑張っていても、そのうち実行することで面白味がわかったり、約束を守れる自分への自信がわいたり、宣言したことは辞めにくいといった気持ち、そこまでの努力を無にしたくないといった思いがわきだすでしょう。

そうなれば、さらに努力をしていこうという気持ちが芽生えるはずです!

人の心理に興味のある方はこちらをご覧ください。

参考:『影響力の武器 第三版 なぜ人は動かされるのか』(ロバート・B・チャルディー/誠信書房)

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