攻撃的な人だとわかっていれば、最初から距離を取っていたのに……。そんな後悔をしたことがある人もいるでしょう。普段は穏やかなのに、怒ると怖い。そんな人への対処法を心理実験から考えます。
- 自覚していない攻撃性が出ることも
- 攻撃性を行動に移す条件とは
- 「攻撃的なユーモア」を言う人に注意
- 攻撃度の高いユーモアと低いユーモア
自覚していない攻撃性が出ることも
ベストセラーとなった『他人を攻撃せずにはいられない人』(片田珠美 著/PHP研究所)には、「攻撃欲の強い人が欲しているは、破壊である」と書いてあります。また同著の第2章の「仮面をかぶった破壊者を見破る方法」には、攻撃性の強い人からは次のような印象を受けると書いてあります。
・他人を壊すのが楽しくて、やっているみたい
・全てを支配しないと、気がすまないみたい
・私を「役立たず」にしてしまいたいみたい
・私の言うことなんか聞いてくれないし、認めてもくれない
・侮辱されているような感じで、気力がなくなってしまう
実際、こうした人はいますし、こうした人に困っている人も多いでしょう。しかし、もう少し普段は穏やかだけど、ちょっと機嫌を損ねると攻撃性が表れてやっかいだという人もいます。いわば『他人を攻撃せずにはいられない人』で取り上げている人より、やや攻撃性が低い人たちです。
こうした攻撃性の持ち主は通常は穏やかなのに、ある一定のラインを超えると攻撃になります。逆に言えば、どうすれば一定のラインを超えないのかが重要になってきます。
攻撃性については、こちらの記事もおすすめです!
攻撃的な人に対処するために絶対に知っておきたい6つのルール!
攻撃性を行動に移す条件とは
じつは攻撃性の研究は、心理学の分野でも研究されています。
2012年にFinkel et al.の論文によれば、攻撃性が暴力となる場合、親密な関係では3つの要因から推測できるそうです。
引き金要因……攻撃したくなるような相手の行動
推進因……暴力的になる性格や環境
抑制因……暴力を抑える性格や環境
この研究によれば、乱暴な性格であっても条件がそろわないと暴力までは振るわないことがわかったのです。こうした先行研究を踏まえて、広島大学の相馬敏彦准教授は、それほど親しくない関係の人同士でも、むやみに攻撃的な行動を取るわけではなく、以下の2つの条件が揃う必要があると実験で証明したのです。
・相手から攻撃前に挑発だと感じるような行動されること
・攻撃的な行動を抑えるための心の余裕がないこと
挑発的な行動の定義は難しいのですが、侮辱や相手から距離を置くといった言動などが含まれるようです。また心に余裕のないときは爆発しやすいというわけです。繰り返しになりますが、この「挑発的な行動」が暴力の免罪符にもなりませんし、怒らせてるような行動を取ったこと自体が悪いともいえません。理由にもならないことで怒りを発火させる人も少なくないからです。
ただ、恋人などの親密な関係でなくとも攻撃性が発動してしまう可能性があるなら、ビジネスの現場なら距離を取るなど注意する必要はあるでしょう。
「攻撃的なユーモア」を言う人に注意
相馬准教授の実験は、相手を攻撃したときの判定に不味い飲み物を使うなど面白いのですが、ここでは詳しく紹介しません。むしろ紹介したいのは、攻撃性の高い人が協力的なパートナーに対して、不味い飲み物を積極的に提供したという事実です。非協力的なパートナーに不味い飲み物を提供するのは予測通りですが、気持ちの良い相手に攻撃性を示したのは理解しにくい行動です。
この行動を論文では、「攻撃的ユーモア」だと説明しています。
じつは攻撃性の強い人ほど「攻撃的ユーモア」を使いやすく、相手との関係を深めたり親しみを伝える目的でも使ってくる場合があるというのです。
広島大学の塚脇涼太氏の論文によれば「攻撃度が高いユーモア」は親密度に関係なく、人間関係にマイナスに働くと結論づけています。当然でしょう。ただ相手と親密で、攻撃度の低い場合のユーモアに限り、肯定的感情を抱かせたそうです。
つまりあまり親しくない人に不味い飲み物を提供して「攻撃的ユーモア」を示そうとするのは、攻撃的なタイプがしがちな間違ったコミュニケーションだといえそうです。
攻撃度の高いユーモアと低いユーモア
では、「攻撃的」ユーモアとは実際にはどのようなものでしょう。広島大学の塚脇涼太氏は、アンケート調査により次の6つのユーモアを選定しています。相手の靴下が破けていたという設定でのセリフです。
【攻撃度の高いユーモア】
君の人間性のように薄っぺらなくつ下だね
親指出してる暇があったら課題のレポート出したら?
やっと芽が出たね。君に春は来ないだろうけど
【攻撃度の低いユーモア】
良いダメージ加工だね
虫に食べられたの? 自分で食べたの?
そのファッション流行ってるの?
「攻撃度の高いユーモア」は高い順に、「攻撃度の低いユーモア」は低い順に並べてみましたが、低いユーモアでもちょっとした棘が含まれるのがわかるでしょう。つまりこうしたユーモアを使う人、特に親しくないのに使う人は攻撃性を隠している可能性があるのです。
また、Finkel et al.によれば、攻撃行動を誘発する言動には、「相互に協力的であるべき関係なのに、それに反する行為」「相手から離れようとする行為」が含まれています。
つまり、親しくなった後に距離を置こうすると攻撃性を刺激する可能性があります。「攻撃的なユーモア」を言う人だなと感じたら、常に一線を引いてお付き合いするといったことが、攻撃性を持つ人への対処方法の一つといえるかもしれませんね。
さらに心理学に興味のある方はこちらをご覧ください
攻撃的な人に悩まされてカウンセリングを受けたい人はこちらご覧ください。
監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『他人を攻撃せずにはいられない人』(片田珠美 著/PHP研究所)/「攻撃的な人が不味い飲み物を与えるとき ―挑発的行為と制御資源による影響」(相馬敏彦 他)/「攻撃的ユーモアはポジティブな対人的機能をもつのか:相手との親密度と攻撃的ユーモアの攻撃度からの検討」(塚脇涼太)