自宅に待機し、仕方なく外出するときはマスクをし、帰宅したらしっかり手を洗ってうがいをする。このちょっと「窮屈な」生活を続けるために、どんなことが重要なのかを、行動科学の論点から考えます。
気を抜けないウイルスとの闘い
4月7日に東京・大阪など7都府県に非常事態宣言が発令され、2週間がたとうとしています。期限とされている5月6日まではまだまだと、日々の我慢に疲れを感じている人も少なくないかもしれません。
新型コロナウイルスに効くワクチンなどが開発されていない現状では、感染予防の行動を続けることが最重要です。だた、それがわかっていても、我慢を続けることは楽ではありません。
実際、自制心は我慢を重ねるごとにすり減っていき、疲れてくると意思を貫徹できないことは、よく知られています。「根性」だけで我慢を続けることは、なかなか大変なのです。
とはいえ、敵との闘いを止めてしまうと、第2、第3の感染の波を引き起こす可能性があります。
3月上旬に新型コロナウイルスの感染をかなり抑え込み、新規感染者数がゼロだった日もあった香港でも、海外からのウイルスの持ち込みやバーなどに繰り出す人が多くなったことで、3月下旬には行動規制が再び強化されました。
また、全世界で2000万~4000万人が死亡したと推計されるスペイン風邪も、日本では1918年10月上旬から翌年1月末、1919年10月から翌年1月末と2回の流行が確認されています。ピークが過ぎれば、大丈夫というわけにもいかないかしれないのです。
新しいウイルスへの対策が未知数なのは当然なのですが、長期的なウイルス対策も念頭に置き、「対策疲れ」に負けないことが重要になってきそうです。
仲間のためなら頑張れる
英国のピート・ラン氏がまとめた「行動科学を使ってコロナウイルスとの闘いを援助する」という論文は、「対策疲れ」に対抗するための行動科学の知識を集めたものとして注目が集まっています。
内容は多岐にわたり、具体的な行動を続けるためのヒントもあるのですが、今日はその中からモチベーションを維持するための考え方について書いておきましょう。
①自分の行動が仲間を守っていると理解する
出歩かないようにしたり、手洗いをしっかりするといった抑制的な行動が、自分の身を守るだけではなく、仲間も守っているという意識が重要とのこと。というのも仲間のためになるなら、自分の利益を優先しないという人が多いからです。仲間と一緒に規律を守り、共通の行動をしたいと多くの人が考えているのだそうです。
②みんなに最善の方法だと、みんなが理解する
外出せず、手をマメに洗うことなどが、感染防止にみんなにとって重要なのだと理解することがポイントです。その事実を折に触れて伝えることも大切なようです。
③社会の構成員として一体感を持つ
少し広い枠組みを捉えた書き方になっていますが、これは「家族ため」「恋人のため」「友人のため」と言い換えてもいいでしょう。感染防止への努力の源となるのは、自分の大切な「仲間」との一体感だからです。
④協力しない人に与える適度な罰
これは国が設定すべきものとして書かれていました。
非常事態宣言の延長があったときは要注意
人々が感染防止への意欲をなくしてしまう可能性が高い場合ついても、説明しておきましょう。
アイルランドのダブリンにある経済社会研究所の発表によれば、最初に提案した隔離期間を延長すると、人々の士気が低下するそうです。つまり非常事態宣言の延期が発表されると、これまでルールを懸命に守って自宅待機していた人まで、外に出てしまうかもしれないのだそうです。
張りつめていた緊張の糸が切れてしまうからかもしれません。
結果、現状よりも外に出る人が多くなる可能性が高まるので、非常事態宣言の延長が発表されたその日こそ、大切な仲間のためにも外出を控えたほうがいいのではないでしょうか。
心理学やメンタルヘルス、カウンセラーなどに興味のある方は、こちらをご覧ください。
参考:『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル 著/大和書房)/How behavioural science could help us stop coronavirus(Prospect)
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