度をこえた理不尽な要求や悪質なクレームなどのカスタマーハラスメント、通称「カスハラ」に注目が集まっています。今日はカスハラ対策と苦情を言いやすいタイプについてまとめます。
- カスハラって?
- 正当な要求と悪質なクレームの見極めポイントとは
- お客様をクレーマーにしないために重要なのは最初の5分
- 苦情を言いやすい人はどんなタイプ?
- 最近目立つクレーマーのタイプとは?
カスハラって?
カスハラは消費者によるハラスメントで、「消費者による自己中心的で理不尽な要求や悪質なクレームなどの迷惑行為」を指します。
この問題の難しさの一つは、消費者の正当な要求と過剰な要求の線引きの不明確さです。正当な要求に応えなければ、お客様を失ってしまいます。しかも「リカバリーパラドックス」と呼ばれる心理により、苦情処理に満足した人は、「誰にも苦情を言わなかった人」の4倍も再購入の意識が高くなるという研究結果もあるのです。
さらに厄介なのはクレーマーではない人が、対応の問題からモンスタークレーマーになってしまう可能性があるという点です。
正当な要求と悪質なクレームの見極めポイントとは
まず、苦情が来たときに「悪質なクレーム」なのか、お客様の正当な要求なのかを明確に見極めることです。
関西大学の池内裕美教授は、クレーマーとお客様を見極めるポイントを5つ紹介しています。
①回数の多さ(過去の履歴も含む)
②不当な金銭要求、過大な物品要求、無理難題の有無
③因果関係が明らかどうか(いちゃもんかどうか)
④不当な方法(恐喝・暴力・脅迫・監禁など)であるか
⑤業務妨害(長時間・多頻度)に抵触するか
この5つの1つでも当てはまっていればクレーマーです。相手が違法行為をするなら警察などの関係機関と協力する必要がありますし、担当者が一人で対処すべき案件でもないでしょう。
カスハラの違法行為については、次の記事を参考にしてください。
「カスハラとクレームはどう違う?傷つく前に知っておきたいこと」
例えば「返品はできない代わりに交換は可能」といった提案に対して、ずっと返品を要求し続ける行為などは、②の過大な物品要求となります。こうしたクレーマーに対応していると、ルールを越えた特別対応をして収めたくなりますが、それが他のクレーマーを発生させることにつながる可能性もあるので、慎重に対処したいところです。
また、クレームへの対応は担当者の神経をすり減らしてしまうことも覚えておく必要があるでしょう。厚生労働省の過去の調査 によれば、10年間で78人がクレーム対応で労災認定を受け、そのうち24人が自殺しています。
上司の立場なら担当者のストレスにも配慮することが必要となるでしょう。
お客様をクレーマーにしないために重要なのは最初の5分
さて、悪質なクレーマーへの対策と同時に考えるべきは、正当な要求を口にするお客様をクレーマーに化けさせないことです。
そのポイントをクレーム対応の第一人者である援川聡さんは自著で次のように述べています。
まずは「お客様の正当な要求」として、スピーディに対応することが重要です。
クレーマーだと決めつけず、とにかく早く対応する。その上で親身な姿勢を崩さず、相手の気持ちを考えることが重要だとのことです。要求の背景にあるものを考え、心情に寄り添い一声かけることが大切になってくるのです。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
「おけがなどはなさいませんでしたでしょうか?」
など、一言があるだけで状況は変わってきます。
さらに最初の5分間は、「それは失礼いたしました」「そうだったんですか」「ご不快な思いもされたことでしょう」といった言葉でつなぎつつ、しっかりと相手の話を聴くことが重要になるそうです。
そのとき「ですから」「だって」「でも」は絶対に使ってはいけません。
援川氏によれば、この方法で8割の苦情は謝罪で終わると書いています。まず実践してみたい行動です。
苦情を言いやすい人はどんなタイプ?
では、どんな人が苦情を言いやすいのでしょうか?
心理学の研究によれば、以下のタイプが苦情を言う傾向にあるようです。
・高収入な中年世代
・自信のある人
・自己主張の強い人
・社会的孤独感が強い人
・苦情状況を効果的にコントロールできると考えている人
もちろん上記のタイプがカスハラを起こすほどのクレーマーになるわけではないでしょう。ただ苦情を寄せやすいからこそ、対応によっては上客にもクレーマーにもなる可能性があるのではないでしょうか。
最近目立つクレーマーのタイプとは?
最後に、近年目立つようになってきている「世直し型クレーマー」についても触れておきましょう。このクレーマーの特徴は2つです。
・高齢者に多い
・持論や過去の武勇伝を語る
このタイプの人は、自分の有能さを認めさせたいといった承認欲求によって動いているケースが多いそうです。背景にあるのは孤独感や寂しさですので、相手の言い分に共感を示すとともに、「貴重なご意見をありがとうございました」という一言添えることが大切になります。
ただし、こうしたクレームが度重なるようならリピートしないような対策も必要となるでしょう。
カスハラが増えた背景には、消費者の権利意識の高まりや企業側の過剰サービスがあると言われています。過当競争の中でサービスを盛り込み過ぎた結果、その水準を満たせないとクレームに発展するというケースが続発しているからです。
しかしサービスの増加によって疲弊した従業員が辞めていくと、事業を続けられないといった事態にも発展してしまうことも考えられます。従業員を守るためにサービスの範囲や対応を変えていくといったことも、経営者サイドは考えるべきなのかもしれません。
心理学に興味のある方はこちらもご覧ください。
参考:『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』(NHK「クローズアップ現代+」取材班・編著著/文藝春秋)/『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル――100業種・5000件を解決したプロが明かす23の技術』(援川聡/ダイヤモンド社)
『苦情行動の心理的メカニズム』(池内裕美)