新型コロナウイルスの影響で、健康の重要性を再確認した人も多いかもしれません。よく言われるのは食事内容や睡眠時間ですが、結婚も健康に効果的だと言われます。その要因をさまざまな角度から探ってみました。
- コロナ禍で高まる結婚への意識
- 相手を責めると夫婦そろって健康の危機に
- 男性の死別・離婚者の死亡リスク上昇が日本の特徴
コロナ禍で高まる結婚への意識
バルセロナ自治大学のNezih GUNER教授は、「結婚によって人はもっと健康になれるか?」という論文で、
「主要な健康の社会経済的決定要因の1つが結婚である。既婚者は未婚者と比べて健康で長生きである」
と書いています。その原因の一つが、
「既婚者は予防的医療を受ける可能性がはるかに高い」
ことのようです。
ただし調べると結婚と健康に関係する統計はさまざまあり、結婚が健康への意識を高めるといったことだけが原因ではないようです。
米国ブラウン大学のOfra Anson教授の報告によれば、離婚・離別・死別・既婚の女性と比べて、独身者の女性の方が入院の日数と医師の予約数が少ないと報告しています。
これは旧来の結婚が健康と密接な関係があるという論調と異なるように感じるかもしれません。しかしさらに調べてみると、健康との関連性が強かったのは人間関係の有無だったそうです。つまり離婚・離別・死別・既婚の女性より、独身女性の方が人との交流が活発だったから長生きしたのではないかというわけです。
相手を責めると夫婦そろって健康の危機に
より踏み込んで夫婦の仲と健康の関係性について調査したのが、心理学を専門とするラファイエット大学のJamila Bookwala教授と数学の専門家であるTrent Gaugler准教授です。彼らの論文によれば、配偶者からの批判にさらされている高齢者は、健康状態も悪く、早期死亡の可能性の高いそうです。
批判にさらされればストレスが高くなり、その解消としてお酒やたばこを選ぶ人も増えるからといった分析もあるようです。
また、ジョージアグウィネット大学のDavid Ludden教授は、夫婦のどちらかが相手を批判すれば、それに批判で応えることが多いため夫婦の関係は悪循環に陥りやすいと指摘しています。
こうした悪循環をさげるためには、配偶者に批判的な意見を1つ述べるときは、少なくとも5つは肯定的な話をすべきだと語っています。確かに一緒に暮らしていれば、どうしても改めてもらいたい点も出てくるでしょう。それをただ指摘するのではなく、少なくても5つ褒めてから話し合うといった努力が、互いに必要だというのです。
健康で長生きしたいなら、そんな習慣を夫婦で身につける必要がありそうです。
男性の死別・離婚者の死亡リスク上昇が日本の特徴
ここまで海外の研究成果を見てきましたが、肝心の日本の状況については、どうでしょうか?
池田愛 順天堂大学 特任准教授の「婚姻状況と死亡リスクとの関連」は、文部科学省が助成した10年間の追跡調査を分析し、
「独身者は男女ともに死亡率が高いこと、また、死別・離婚者では男性のみ死亡率が高いことが認められました」
と結論づけています。
さらに次のようにも書いています。
独身男性は、既婚男性と比べて循環器疾患では3.1倍、呼吸器疾患で2.4倍、外因死で2.2倍、全死亡で1.5倍の死亡リスク上昇が認められました。独身女性では、既婚女性と比べて、全死亡で1.5倍の死亡リスクが認められました。
つまり独身者の死亡リスクは男女とも変わらないのです。しかし既婚男性が死別・離別すると、既婚男性より死亡リスクが上昇するのです。一方で女性が離婚・離別しても死亡リスクはあまり変わりません。
このような男女差について、池田特任准教授は、次のように分析しています。
女性では地域社会におけるつながりが比較的強く、独居による社会的つながりの希薄化の影響を受けにくい可能性が考えられます。
この論文では男女ともに死亡リスクが高い独身者と社会的つながりの関係性については言及していませんが、孤独が死亡リスクを高めることはよく知られています。冒頭に示したOfra Anson教授と同様、やはり社会的繋がりが、健康にとっても大切なようです。
2035年には女性の有配偶率が初めて50%を切るとの推計もあります。独身者は増える傾向にあるようですが、健康のためにも孤独にならない人間関係を築いていくことも重要になってくるのかもしれません。
孤独にならないためにコミュニケーション能力を高めたい人は、こちらもご覧ください。
参考:「結婚によって人はもっと健康になれるか?」(Nezih GUNER/経済産業研究所)/「Nagging Your Spouse to Death」(David Ludden Ph.D./Psychology Today)/「婚姻状況と死亡リスクとの関連」(池田愛)