過去のブログでも、先延ばし対策について何回か書いてきました。ただ先延ばしを生み出す心理に真正面から取り組んだものは少なかったのです。今日は先延ばしを生み出す「怖れ」への対処法を紹介します。
- 時間管理技術では効果が薄い人へ
- 先延ばしの根本にある「怖れ」を理解する
- 「怖れ」を小さくする4つのヒント
時間管理技術では効果が薄い人へ
先延ばし対策に時間管理技術が有効なのは間違いありません。アレクサンダー・ローセンタル氏は、タスクを細かく分け、スケジューリングをしっかりすることで先延ばし癖が改善することを実験で証明しています。
しかし時間管理技術を基にした先延ばし対策は、手を付ければすぐに終わるようなタスクに取り掛かれない心理を理解し、改善するものではありません。先延ばしへの誘惑に負けないよう自らを管理しているだけなので、モヤモヤした感情は心の中に常に残っていて、ことあるごとに襲い掛かってきます。
もちろん、その攻撃をかわせるなら問題ないのですが、負けてしまうことがあるなら、自分の心の持ちについて考えてみるといいかもしれません。
先延ばしの根本にある「怖れ」を理解する
過去の研究データによれば、学生の約80%と成人の25%が慢性的な先延ばし癖を持つと認めているそうです。かなりの人が悩んでいるわけです!なかなか克服しにくい問題といえるかもしれません。
「先延ばし」について、もっと知りたい方はこんな記事もお勧めです。
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イギリス・シェフィールド大学のFuschia Sirois教授は、先延ばし癖は感情の問題だと語っています。だから感情を管理することができれば、ストレスフルな先延ばしとの“闘い”に疲れ果てることもないというのです。
ただ、先延ばしを始めるときに、多くの人は原因である「感情」に目を向けていません。
カルガリー大学のピアーズ・スティール教授は、先延ばし癖が衝動性と関係していることを突き止めています。先延ばし癖のある人は、ある種の怖れを感じると、とりあえず別のことを始めて恐れが伴った悪い感情を取り払おうとするそうです。
つまり怖れの原因が何なのかを考えることすらしないのです。だからこそ先延ばし癖のある人は、その原因に強い不安があるかもと考える必要があるのです。
これまでの経験を思い返してみてください。
特定の仕事に先延ばし癖が表れていませんか? もっと面倒なタスクはいくらでもあるのに、ある特定のタスクはどうしても取り掛かれない。そんな事例が思い浮かぶなら、そのタスクを怖れる理由を考えてみましょう。
提出する上司への恐怖、「どうしても成功したい」といったタスクへの過剰な思い入れ、間違えられないといったプレッシャー、過去に同様の仕事で失敗した記憶などなど。人によっては、先延ばしの原因が恐怖だったことに驚くかもしれません。自分が怠惰だから先延ばししていると思っていた人には、予想外の発見だったりするからです。
ただ、ここで一つ注意があります。
タスクと怖れについて考えるとき、自分を責めてはいけません。自己批判は、さらなる先延ばしを生むことが実験からわかっているからです。
「怖れ」を小さくする4つのヒント
怖いと感じるから先延ばしを選択し、そのことでより状況が悪化し、心も荒んでいく。
その大元である「怖れ」が小さくなれば、先延ばしへの圧力も小さくなるでしょう。
そうした「怖れ」対策のヒントになりそうなのが、精神科医・水島広子氏の書籍『その不安、ニセモノではありませんか?』(PHP研究所)です。水島氏は、「心の姿勢」を整えることで「怖れ」にとらわれなくなると書いています。
この「心の姿勢」は少しわかりにくいので、水島氏の説明を抜き出してみましょう。
私は別に「『怖れ』を手放しましょう」などと言ってはいないのです。
単に、「温かいこころ」と「怖れ」の2つの「心の姿勢」があって、私自身は楽だし幸せだから「温かいこころ」を選ぶようにしています、ということを話しているだけなのです。
ぽかぽかとしたやすらぎを感じられないとしたら、「心の姿勢」が整っていない(つまり「怖れ」に入ってしまっている)、ということになります。
どうでしょう。少し雰囲気が伝わりましたか?
では、「心の姿勢」を整えるためには具体的にどうしたらいいのでしょうか? ヒントになりそうなポイントを、4つにまとめてみました。
①「自分の怖れ」を受け入れる
「人間だから怖れるのも仕方がない」という思いが出発点になるそうです。
そして「怖れ」受け入れるためには、何かしらネガティブな状態になったら、「怖れて、助けを求めているのだ」という考えればいいそうです。
そもそも「怖れ」のほとんどが自分の思い込みです。例えば「他人からどう思われるのか」といった不安は、自分が勝手に想像しているだけ。水島氏はこれを「幻想」だと断じています。
そんな感情を抱く自分を認め、ちょっと離れたところから見て、「自分は助けを求めているんだな」と思えれば、「怖れ」の感じ方も違ってくるそうです。
②ジャッジメントをアセスメントに切り替える
ジャッジメント(主観的評価)とアセスメント(客観的評価)は違います。
水島氏は次のように書いています。
ジャッジメント=「アセスメント+怖れ」
です。
例えばプレゼンの準備しているとき、準備期間の少なさはアセスメントです。時間が厳しいなら、人手を増やすことで対処できるでしょう。しかしプレゼンに通らないかもという判断は「ジャッジメント」です。こうした判断をさらに分析して、プランナーが弱いといったアセスメントと自身の不安があると分かれば、優秀なプランナーを加えればいいでしょう。
つまり「もしも~したらどうしよう」といった未来の不安に対しては、客観的な事実を積み重ねてアセスメントを増やすようにすればいいのです。
③プロセスを大事にする
結果を気にすると「怖れ」は大きくなります。だからこそ結果ではなくプロセスに重心を移しましょう。
例えば間違いが不安なら、先延ばしに時間を費やすのではなく、確認の工程を増やせばいいのです。
結果が気になって先延ばし癖が発生してしまうときは、プロセスに集中して対策を考えてみましょう。
④「与えること」に力を注ぐ
自分が他人からどう思われているのかが気になったときの解決法は、次の通りです。
見返りを求めずに、「自分が相手にできることは何か」に目を向けてみる
相手への最善策を考えて、自分がどう思われるのかといった思考を消していくことで、「心の姿勢」は整っていくそうです。自己満足でもいいので、相手のことを考えて行動していけば、「ぽかぽかした安らぎ」に近づけるでしょう。
今回は先延ばし癖と、その原因となる「怖れ」についてまとめてみました。
心理学をもっと活用したい方は、こちらもご覧ください。
参考:「How to Overcome Procrastination (Starting Now)」(Gustavo Razzetti/『Psychology Today』)/「To Stop Procrastinating, Look to Science of Mood Repair」(Dr Fuschia Sirois, PhD/『Wall Street Journal』)/『その不安、ニセモノではありませんか?』(水島広子/PHP研究所)