コロナ禍で仕事や生活などの環境が変化する中、お笑いタレントの光浦靖子さんが『文藝春秋』11月号に掲載したエッセイが評判です。そんな光浦さんの語る「もう一つの人生も回収したい」といった想いを手助けする心理学の知識を紹介します。
- ほとんどの人ができたのに「なんで私にはできないんだろう」
- 人生の分岐点が見つからない人に
- 違う人格も経験してみる
ほとんどの人ができたのに「なんで私にはできないんだろう」
お笑いタレントの光浦靖子さんが『文藝春秋』に掲載した文章は赤裸々です。
40代に入った頃からかな?仕事がゆる~りと減り始めました。テレビの世界に入って、一度も手を抜いたことはありません。なのに減るのです。
そう現状を吐露します。
また大学時代にバイトを立て続けにクビになっていたことを思い出しつつ、こう嘆くのです。
なんでみんな続けられるんだろう。結婚もそう、出産もそう、ほとんどの同級生ができたのに、なんで私にはできないんだろう。
しかもテレビタレントの厳しい世界で勝ち抜いてきただけに、光浦さんには揺るぎない価値観がありました。それゆえ自分で自分を追い詰めてしまっていたそうです。
仕事がない=価値がない、としか思えなくなってしまいました。自分に満足するもしないも、他人からの評価でしか決められない。このままいくと、私はいつか、壊れるな。どうにかしなきゃ。
それがエッセイのタイトルにもなっている「もう一つの人生も回収したい」という想いにつながっていきます。
東京外国語大学時代、光浦さんは英語が話せないというコンプレックスから、勉強ではなく「お笑い」に傾倒していったそうです。だからこそ英会話に取り組まなかった人生を回収しようと留学を決意するのです。ただ、それもコロナ禍で延期となってしまいます。
それでも彼女は、
「不思議と心は穏やか」
だとつづり、さらに
「行動を起こさなくても、決心するだけで心境は変化するようです。相変わらず、金のかからない女です」
と結びます。
人生の分岐点が見つからない人に
パンデミックによって仕事や生活を見直している人も少なくないかもしれません。生活スタイルや価値観が変化していく中で、自分がどうやって生きていくのかを考えざるを得ない状況でもあるからです。
ただ、多くの人が光浦さんのように、人生の分岐点が明確ではないでしょう。また、価値観を見直すにしても、何がしたいのかわからないという人が多いのかもしれません。そんな人におすすめしたいのが、ハーバード大学の人気教授でもあるブライアン・R・リトル氏が唱える「コア・プロジェクト」という概念です。
ブライアン教授は、さまざまな個人のプロジェクトの中には、「人生そのもの」と言っていいほど大きな意味を持つ「コア・プロジェクト」があり、それは次の2つの要素を満たしていると説きます。
①「重要性」「自分の価値観と一致」「自己表現できる」と感じられるもの
②そのプロジェクトが順調なときはほかのプロジェクトもうまくいくが、不調だと他のプロジェクト全体に影響が出る
例えば家族と食事する時間を大切にするというプロジェクトがうまくいかないと、元気が出なくて仕事にまで影響が出ると感じたら、「コア・プロジェクト」の可能性が高まるというわけです。
この2つの観点から自分の生活全般を見直すと、自分なりの「コア・プロジェクト」が見つかるかもしれません。
違う人格も経験してみる
「コア・プロジェクト」が見つかっても、それを維持することが簡単ではないと思うこともあるでしょう。特に評価基準が固定されていると、「コア・プロジェクト」に取り組むことが難しくなります。光浦さんの例で言えば、「仕事がない=価値がない」といった価値観です。
そんな「評価基準」を変える方法として、ブライアン教授が推奨しているのが演技エクササイズです。それは次のような手順で行います。
①「自分がどんな人間だと思うのか」というテーマで、自分の特徴を1~2ページ程度書き出す
②自分とは違う「未知の自分」を決定する
③新しい自分として生活するときに遭遇するさまざまな状況や日常を想定して、対応できるようにリハーサルをする
④2週間、新しい自分として暮らしてみる
ここで重要なのは性格を変えることではなく、「新たな自分の可能性」を感じることだそうです。あんがい人は柔軟なので、現在の自分の評価基準を変えれば、それに沿った行動もできるそうです。
普段とは違う自分になりきることで、「コア・プロジェクト」を支える新しい「評価基準」を受け入れられたら、もっとラクに生きられるかもしれません。
新しい価値観が問われている今だからこそ、自分にとって本当に大切なものについて考える時間を取るのもいいのかもしれませんね。
もっと価値観を見直すヒントがほしいという方は、こちらもご覧ください。
参考:『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講座』(ブライアン・R・リトル/大和書房)/『文藝春秋』(11月号)