交渉が必要になることは少なくありません。仕事だけではなく、プライベートでも自分の要求を通すため、あるいは妥協点を探すために交渉をした経験は誰にでもあるのではないでしょうか? そんな交渉時に注意したい心理についてまとめました。
- 条件が変わったときの交渉
- お願いをしたいなら
- ウソが増えるのはどんな交渉?
条件が変わったときの交渉
途中から条件が変わった場合、厳しい交渉が待ち構えていると考える人も多いでしょう。もちろん仕事などで条件が変わるのは問題です。だからと言って初めから悪い条件だとわかっていた方がよかったとは、一概に言えないようです。
米国の有名な心理学者チャールディーらが行った研究は、こうした状況の参考になるかもしれません。
この心理実験では、大学生を20人ずつ3つのグループに分けました。1時間程度の簡単な計算問題をしてもらうことを説明。①グループと②グループには報酬があると説明し、③グループは報酬の有無を伝えませんでした。結果、①と②グループは全員の学生が参加し、③グループは4人だけが参加を決めした。
その後、①グループと②グループに報酬が払えなくなったことを伝えます。ただし①グループは最初に説明した人が無報酬を説明し、②グループは違う人が説明しました。結果、①グループは11人が残り、②グループは3人が継続して参加を表明してくれたそうです。
ここからわかるのは、一端依頼を受けた場合、同じ相手からの依頼を断りにくくなるということです。また②グループの結果を見ればわかる通り、引き受けていても違う人からの依頼は断りやすくなります。
つまり仕事などで当初と条件が変わった場合は、ツライ話し合いになるとしても、交渉した人が担当した方が、最後まで仕事を完了してくれる可能性が高まります。また条件が最初から悪ければ、そもそも相手が検討してくれなかった可能性もあり、最初に承諾をもらったこと自体はチャンスと呼べるものかもしれません。
もちろん、こうした心理を悪用して、わざと条件変更をするのは論外ですが、条件が悪くなっても一度承諾をもらっているなら、承諾してもらえる可能性があることは知っておきましょう。
お願いをしたいなら
お願いをするのがうまい人を、身近に一人ぐらいは知っていたりするでしょう。何となくあの人に頼まれると断れない。そんな能力を持っている人は確かにいます。それはコミュニケーション能力だったり、その人の雰囲気だったり、複合的な要因があるので簡単にはマネができないかもしれません。
ただ少しでも近づくことはできそうです。
米国の心理学者ランガーの心理実験が、そのヒントを与えてくれそうです。
彼は行列ができているコピー機で、先にコピーを取らせてくれるように頼む実験をしました。そのときに仕掛け人の発言は以下の通りです。
①「すみません。先にコピーを取らせてください」
②「すみません。急いでいるので先にコピーを取らせてください」
③「すみません。どうしても先にコピーを取らなければならないので、先に取らせてください」
結果、順番を譲ってくれたのは、①が約6割、②と③が9割以上でした。
つまりお願いをするなら理由を付け加えるべきですが、その理由は理論的なものかどうかは、あまり関係ないというわけです。
じつはお願いをするのがうまい人の大きな特徴の一つは、悪びれずにお願いする人だという根本的な問題があります。人は頼られると応えてくれるもの。理路整然と理由を説明できなくても、お願いをしてみるというのも交渉事では重要かもしれませんね。
ウソが増えるのはどんな交渉?
交渉にウソが混じることもあります。ウソではないにしても、知っていて言わないといったことが起きることも。では、どんな交渉時にウソが混じりやすいのでしょうか?
米国シカゴ大学のユーリー・グニージーの研究によれば、お互いに対等な条件のときほどウソが増えることがわかったそうです。彼の実験によれば、ウソによって利益が増える場合はウソが増えたものの、自分のウソによって相手があまりにも大きなダメージを被るケースでは、ウソが減ったそうです。さすがに相手に一方的な損失を与えるのは忍びないと思ったからでしょう。
つまり実験の結果からいえば、企業規模の違いなどから片方のウソや不誠実な対応が相手に大きな損害を与えてしまうケースより、対等な関係で行った交渉ほどウソを交える可能性が高くなるのです。そのような力関係での交渉では、細部まで神経を使う必要があるかもしれませんね。
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監修:日本産業カウンセラー協会
参考:『本当は怖い59の心理実験』(おもしろ心理学会/青春出版社)/『世界最先端の研究が教える もっとすごい心理学』(内藤誼人/総合法令出版)