思ったことをはっきり言えない、逆にはっきり言いすぎていつも人と衝突してしまう……。コミュニケーション下手な人は、常に生きづらさを感じやすいですよね。自分も相手も、お互いを大事にしながら自己主張する、爽やかな自己表現をアサーションと言います。具体例を示しながら、アサーティブな会話の技術について少しだけ紹介しましょう。
- アサーションを身につければ、自分を取り巻く世界は明るい
- 事例1:電車の中で、子どもがうるさい
- 事例2:トイレに並んでいる列に割り込まれた
- 事例3:ママ友の趣味の集まりに行きたくない
- 事例4:いつも片付けの遅い子どもになんとか片づけをさせたい
- 事例5:パワハラ気味の上司から大量の仕事を押し付けられ参ってしまう
- 事例6:やたら褒められて困る
- アサーションを身につければ、「苦手な人」がいなくなる
アサーションを身につければ、自分を取り巻く世界は明るい
アサーションとは、相手の気持ちを考えながら、自分の素直な気持ちも表明することで、より信頼にあふれた人間関係を構築するコミュニケーションスキルです。相手の尊重と、自分を開示する誠実さの2つに気をつけられれば、とても爽やかな人間関係が手に入ります。
アサーティブな会話ができるようになると、生きづらさの闇が少しずつ晴れていくのを感じることでしょう。8つの事例を使って、アサーションのコツを解説します。
事例1:電車の中で、子どもがうるさい
×「やかましい!」
◎「あんまり大きい声だとおじさん(おばさん)びっくりしちゃうから、もう少しだけ静かな声でお話ししてくれないかな?」
満員電車の中で大声を上げる子ども。虫の居所が悪いと、思わず「やかましい!」と怒鳴ってしまいたくなる……そんな経験ありませんか。子どもがわざと周囲の人を困らせようとやっているのではないことはわかっていますよね。まだ、周囲の状況に合わせて声のトーンを調整することができないのです。
しかし、うるささに耐えられないなら我慢すべきではありません。ここでは、会話の技術の一つである「Iメッセージ」を使いましょう。「うるさい」や「やかましい」ではなく、「私(I)は●●と感じ、●●を求めている」という自分の感情や要求を素直に言ってみるのです。そして、黙ることを強要するのではなく、「お願い」の形をとることが、自分の主張を表しつつ相手を尊重する表現になります。
事例2:トイレに並んでいる列に割り込まれた
×「ちょっと、割り込まないでくれる?」
◎「ここ、順番に並んでますよ」
駅のトイレに飛び込んできた人が、列を無視して割り込もうとしていると、「割り込まないでくれる?」くらいのことは言ってしまいそうです。しかし、もしかしたら、相手は順番に並んでいることに気づいていないだけなのかもしれません。「並んでいる」という事実を告げるだけで、素直に最後尾へ移ってくれる可能性は高くなるかもしれません。
事例3:ママ友の趣味の集まりに行きたくない
×「ぜひ参加させて(興味は全くないんだけど、仕方ない……)」
◎「今回は、やめておこうかな」
クッキングや手芸など、ママ友同士の趣味の集まりに辟易している人はいませんか。「興味のない集まり出るくらいなら寝てたい」と思っても、これからの付き合いを考えると行っておいたほうがいいと、自分の気持ちを抑え込んで参加してしまう人もいるでしょう。
こんなとき、「外せない用事がある」など心にもないウソをつくことなく断ることができるのが、アサーティブな自己表現です。「なんとなく」「興味がないから」参加したくないのであれば、それを伝えればいいだけです。でも、突然「興味がない」なんて言ったら、角が立ってしまいますよね。まずは理由を添えずに「今回はやめておこうかな」と言ってみましょう。ママ友たちがそれで了解してくれるなら、とてもラッキーです。
ただ、強引な人もいることでしょう。しつこく誘われたら、「う~ん、でも、今回はいいや」「またにしておきます」と、同じことを繰り返し言ってみます。これを、「壊れたレコード」技法と言い、誘うほうはだんだん誘う気力をなくしていきます。どうしても引き下がってもらえなかったら、「すみません、今回はあまり興味が持てないので。また、別のときに誘ってください。ありがとうございます」と、素直に、誠実に伝えてみましょう。正直な気持ちに、誘ってくれたことへのお礼を添えれば、相手「気を悪くしないのではないでしょうか。
事例4:いつも片付けの遅い子どもになんとか片づけをさせたい
×「どうしていつも片付けができないの!」
◎「片付けてくれると、部屋がきれいになってお母さん嬉しいな」
ここでも、「Iメッセージ」を使います。「どうして(あなたは)いつも片付けができないの!」と叱るのではなく、「こうなると私は嬉しい」と、自分の感情と要求を差し出すのです。子どもは過度に傷つくことなく、親子の信頼関係が持続します。
事例5:パワハラ気味の上司から大量の仕事を押し付けられ参ってしまう
×「……わかりました(どうせ、意見を言っても聞いてくれない)」
◎「明日までの仕事があります。そのあとに着手してもよろしいですか」
上司は、あなたの状況を把握しきれていないだけかもしれません。それなのに、「言っても無駄」と思い込んでしまうのは、もったいないことです。一度は、「ノー」と言ってみることから始めましょう。
ただ、お仕事ですから、「やれません」では通らないでしょう。「急ぎ仕事の後ならできます」「1/3量なら明日までに可能です」など、自らできることを提示するのが大事です。
事例6:やたら褒められて困る
×「いやいや、そんなことはないですよ(繰り返し)」
◎「ありがとうございます」
褒められるとついつい謙遜したくなりますが、相手はあなたの気分を良くしたいと思って褒めているのですから、謙遜すればするほど誉め言葉を重ねることでしょう。称賛と謙遜の応酬は疲れるものです。ここは、素直に「ありがとう」と受け止めてはいかがでしょうか。自分の嬉しい気持ちを率直に出せば、相手も自分の目的が果たせたと、満足してくれます。
アサーションを身につければ、「苦手な人」がいなくなる
以上のように、とにかく自分の気持ちを素直に、率直に表現してみてください。本当のコミュニケーションは、そこから始まります。大事なのは、素直な気持ちを伝えても、相手がそれについて怒ったり、戸惑ったりすることはないという確信を得ることです。それは、「誰とコミュニケーションしても、自分は大丈夫」という安心につながるでしょう。アサーションを身につければ、自然と苦手な人がいなくなりますよ。初対面の人とも、過度に緊張することなく付き合えるようになるでしょう。
参考:『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』平木典子、金子書房