どうしてそれを選んだか、本当にわかってる? チョイスブラインドネスの罠

恋人の遊び癖に悩んでいるとき、職場がブラックで辞めたいと思っているなど、どうしようもない状況に追い込まれたと感じても、相談した友人などから「自分で選んだ道なんだから、もう少し続けてみたら?」と言われることがあります。このように、選択は自己意思のあらわれと思われていますが、本当にそうでしょうか。チョイスブラインドネスの実験が、「選択の意思」という言葉のもろさを教えてくれます。

  1. 「これにしよう」に潜む無作為
  2. チョイスブラインドネスの実験
  3. 後付けの理由に惑わされるな!

「これにしよう」に潜む無作為

ファミレスでメニューを選ぶとき、デパートでハンカチを選ぶとき、あなたは「なぜそれを選んだか」を答えることができますか。「そんなの、当然でしょう」と言う人のほうが多いかもしれません。でも、「これにしよう」と思うその瞬間は、自分が選択した理由をそれほどわかっていないかもしれませんよ。

例えば、結婚式などで「結婚を意識したのは、いつぐらいからですか」「いつから、どうして好きになったのですか」とインタビューされて、答えに困らずすぐ言えるという人はあまりいないのではないでしょうか。「失礼な!私はすぐに答えられる」という方、その理由が後付けではないと断言できますか? 本当にそのとき、ハッキリとした理由があって相手を選べたのでしょうか。

チョイスブラインドネスの実験

心理学者のヨハンセンは、「選択の理由は後からついてくる」ことを実証するため、ある実験を行いました。参加者に2人の女性の写真を提示し、どちらがより好ましいかを選んでもらい、なぜその女性を選んだのかを説明してもらうという実験です。

このとき、どちらかの写真を選んでもらった後、一度両方の写真を伏せておいてから、好ましいと答えたほうの写真を渡して選択の理由を答えてもらうようにしました。しかしこのとき、あるトリックを使い、選ばなかったほうの写真を渡して「どうしてこの女性を選びましたか?」と質問したのです。

すると、参加者のじつに60%が、写真のすり替えに気づかなかったという驚くべき結果が得られました。気づかなかった参加者は、自分が選ばなかったほうの女性の写真を前に、「自分がこの女性を選んだ理由は……」と語ったことになります。この実験は、「チョイスブラインドネス(選択盲)の実験と呼ばれ、人の判断がいかに無意識的なものかをあらわにしました。

後付けの理由に惑わされるな!

チョイスブラインドネスの実験が教えてくれるのは、選択そのものに重い責任を感じる必要はないということです。「あなたはどうしてそれを選んだの?」と尋ねられたら、「なんとなく」「フィーリングで」と煮え切らない答えを返すのが実は一番正しいのかもしれません。

自分の選択が間違いだったと悩んでいる人のなかには、「ちゃんと考えて選んだんだから、ここでやめると自分の選択眼が誤りだったと認めることになる」と思っている人もいることでしょう。しかし、チョイスブラインドネスの論理からいえば、人の選択眼はあてにならないようです。過去の選択にこだわるより、自分の今を大事にしましょう。後付けの選択理由に惑わされず、今の気持ちを大切に生きてみませんか。

参考:『実験心理学 なぜ心理学者は人の心がわかるのか?』p.162

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