批判や皮肉、悪口などを口にする批判的な人への対処法は、なかなか難しいもの。ただ放っておくと、エスカレートすることもあります。そこでネガティブ発言への対処法とセルフケアについて、心理学の研究からまとめました。
- 心理的なダメージを負ってしまうことも
- 相手の「ニーズ」を考える
- 権力から考える人への対処
- メンタルへの影響を軽減する2つの方法
心理的なダメージを負ってしまうことも
批判的発言の多い人いますよね。批判ならまだしも、皮肉や悪口を投げつけてくる人も……。職場などでは「大人の対応」で、あいまいに笑ってやり過ごすことも多いことでしょう。ただ人によっては行動をエスカレートさせてくるからやっかいです。
また、気にしないようにしていても、意外なほど心にダメージを負ってしまうケースもあります。そこで攻撃的でネガティブな発言への対処法と、ダメージを受けた自身のメンタルケア、その両方を心理学の研究から紹介していきます。
相手の「ニーズ」を考える
攻撃的な発言への対処法として、最初に紹介したいのはNVC(非暴力コミュニケーション)です。このコミュニケーション手法は、お互いに理解し合うことを目指します。
その基本には、本当に望んでいる「ニーズ」と感情の切り分けです。
例えば、「仕事が遅い」と怒った上司から言われたとしましょう。そのときの上司のニーズが何なのかを考えてみましょう。「事務仕事はパッパと済ませて、営業に行って売り上げをあげてほしい」かもしれませんし、「ほかに振りたい仕事があるから、先に頼んだ仕事をどんどん終わらせてほしい」かもしれません。
いずれにしても、上司のイラついた感情の裏には、本当に大切だと感じている「ニーズ」が隠れています。
人は自分の「ニーズ」が満たされないとき、相手の何かが悪いのだと考えがちです。それが「仕事が遅い」といった言葉になってしまいます。
もし、上司が自身のニーズを把握していたら、「あなたは営業力が高いから、もっと営業時間を増やしてほしい」と言えたかもしれません。攻撃的な言葉を使う必要などありませんでした。「営業補助を付けて、もっと働きやすくなるよう改善しよう」といった建設的な話し合いに発展した可能性すらあります。
逆に「仕事が遅い」と言われたあなたが「悔しい」と感じたら、どんなニーズが隠れているのでしょうか? それは「営業として仕事の成果を、しっかり認めてほしい」といったことかもしれません。事務仕事のスピードが必ずしも速くなかったとしても、営業として成果はあげている。そこを認められずに、頭ごなしに怒られることは、確かに腹が立つかもしれませんね。
つまりネガティブで攻撃的な言葉を発言する人も、その言葉を受ける人も湧き上がる感情とは別に、それぞれが相手に期待する「ニーズ」があり、それを互いに無視するから、互いの距離が埋まらないのです。
こうした批判の裏にある「ニーズ」を把握した上で、自分自身のニーズも表現し、相手に共感的に対応して、相手から具体的な要求を引き出すにようにしましょう。
例えば「仕事が遅い」と言われたケースなら、「たしかに事務仕事が早いわけではないのは理解しています。ただ、もっと営業で売り上げを上げたいと思っているので傷つきます。もっと効率的に終わらせて営業に出たいのですが、何かいい方法はないでしょうか?」といったような返しができればいいでしょう。
もちろん現実的にはこうした会話は難しいかもしれませんが、相手が本当に大事にしたいニーズが何なのかを意識し、それを実現できる方法を探せれば、批判する人との人間関係が変わるかもしれません。
権力から考える人への対処
会社などの組織で批判的な言葉を投げかけられたとき、パワーダイナミクス(権力の力学)に基づいているケースがあります。
パワーダイナミクスに敏感な人は、相手の立場や影響力によってコミュニケーションの方法を変えがちです。彼らは自分の地位を下げるような言動に敏感だったり、上に立つ人間だから謝罪しない方がいいと考えているケースすらあります。
また、役職が職場の権力の力学と一致しないケースもあります。肩書きのない人でも上司以上の影響力を持っている場合があるからです。そうした職場の力学を理解した上で、ネガティブな発言をする人に対応する必要があります。
重要なことは、相手の立場や目標を尊重することです。達成目標や重きを置く価値などを共有し、相手が困っていることに対処しようとする姿勢が、対立を生みにくくします。相手から学びたいという謙虚さが、必要なケースも少なくありません。
権威をカサにきた攻撃的な言動はパワハラの可能性がありますが、パワーダイナミクスに着目した「ニーズ」を聞き出し、その対応に力を入れることで、対立から協力関係に変わる可能性があります。
もちろん批判的な人から、とにかく距離を置くといった方法もあります。関係性を全く構築できそうもない人と出会った場合は効果的かもしれません。
メンタルへの影響を軽減する2つの方法
ネガティブな発言のおかげで、何となく1日中、気分が悪いといったこともありますよね? これは仕方ない面があります。というのも人はネガティブな情報ほど気になってしまう心理特性「ネガティブバイアス」を持っているからです。褒め言葉よりも侮辱的な言葉を思い出しがちなのは、この特性のせいです。
人類は進化の過程で、ネガティブな情報を覚えている者が生き残ってきました。猛獣に襲われる場所を覚えていれば危険を避けやすくなるのですから、考えてみれば当然の結果でしょう。そのため現在でもネガティブな情報が記憶に強く残ってしまうのです。
こうした状態から脱するのにお勧めしたいのが、次の2つの方法です。
①紙に書いて捨てる
米国オハイオ州立大学のリチャード・ペティ氏が研究で効果を証明したのが、ネガティブな発言を紙に書いて捨てる方法です。いっけん単純で「本当に効果あるの?」と疑いたくなりますが、紙に書いて捨てたものは、ポジティブなものだろうとネガティブなものだろうと記憶から消えやすいそうです。逆に紙に書いたものを、財布やポケットに入れた人はより強く記憶に残り、より影響を受けやすくなったそうです。
何度も相手の発言を思い出してしまうといった場合は、すぐに紙に書いて捨てましょう!
②ポジティブな時間を味わう
ネガティブな発言で、テンションが下がってしまったと感じる場合は、ポジティブな時間をしっかり味わうようにしましょう。美味しい食事をゆっくり味わって食べる。エステやマッサージなどの時間に寝ることなく、しっかりと味わう。そうした時間の使い方が効果的です。
さらに自宅に帰ってから、その楽しい思い出を書き出し、そのときの幸福感を味わうようにすると、よりポジティブな感情が生まれやすくなります。
今日は攻撃的でネガティブな発言への対処法をまとめました。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『NVC 人と人との関係に命を吹き込む法 新版』(マーシャル・B・ローゼンバーグ/日本経済新聞出版)/『コミュニケーションの教科書』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部/ダイヤモンド社)/「新しい職場のパワーダイナミクスを理解するための5つの戦略 ヒエラルキーに関係のない『影の組織図』を把握せよ」(ニハール・チャーヤ/DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)/「What Is Negativity Bias and How Can It Be Overcome?」(Catherine Moore/Positive Psychology)/「Bothered by Negative, Unwanted Thoughts? Just Throw Them Away」(Association for Psychological Science)