私たちは友人などを含めた周りの環境から、どれほどの影響を受けているのでしょうか? 近年の研究は、私たちが思っている以上に環境からの影響を受けていることを示しています。そこで、そのメカニズムと具体的な影響の範囲をまとめました。

- 友達が太ると自分も肥満に
- 太っている人の写真を見ただけで……
- 観察・疲れ・期待が影響を受けやすくする
- 不倫も伝染する
- 隣人が幸福伝染のカギ
友達が太ると自分も肥満に
「友達は選びなさい」といった親の言葉に反発した人も多いことでしょう。自分のことは自分で決める。友人がどんな人物であっても関係ない。それは一面の真実です。どんな環境であっても、影響を受けずに生きていける人は一定数いるからです。ただ周りからの影響に弱いタイプの人は、友人からどんな影響を受けているのかを知っておくべきでしょう。
友人からの影響について、かなり詳しく研究されているのが肥満でしょう。
まず、肥満がどれぐらいの確率で伝染するのか、その結果から示していきましょう。
・ある人が太ると、その友人が太る可能性は57%高くなる
・きょうだい間では、太る可能性が40%高くなる
・配偶者間では、太る可能性が37%高くなる
遺伝子が似ているきょうだいよりも、友人の影響の方が強いことに驚くかもしれません。
しかし肥満の「伝染」は、直接の関係だけにとどまらないのです。
・太った友人の友人は、太った人と直接関係がなくても20%の確率で肥満になる
・太った友人の友人の友人は、太った人と直接関係がなくても10%の確率で肥満になる
自分の友達の友達に太った人がいるかどうかなんて、一般的にはわからないでしょう。それでも10人に1人は肥満になってしまうというのです。なかなか破壊力のある研究結果です。
太っている人の写真を見ただけで……
上記のような肥満の連鎖がどのように起こるのかを、コロラド大学ボールダー校の研究が明らかにいています。
大学のロビーで無差別に声をかけて実験したところ、肥満体形の人の写真を見てからボールに入ったキャンディーを好きなだけ取ってもらうと、ランプや標準体重の人の写真を見た人より、平均30%も多くキャンディーを取ったというのです。
クッキーの試食で同じような実験をしたところ、肥満体形の人の写真を見せられた人は、樹木や金魚鉢、標準体重の人の写真を見せられた実験参加者の2倍のクッキーを食べたそうです。
しかも自分の行動についてのアンケートでは、太った友人の写真を見たら食を控えると、ほとんどの人が答えたのだそうです。また2倍のクッキーを食べた人の中には、体重を管理していた人も含まれていたそうです。
つまり、私たちは自分が思っている以上に周囲から影響を受けており、自分たちが思っているほど理想的な行動を選択しないようです。
写真を見るだけで食べ方が変わるのですから、SNSなどを通じて肥満が「伝染」することもあるでしょう。こうなるとSNSを含めた、自分が属するコミュニティーの影響をバカにできない感じるではないでしょうか。
観察・疲れ・期待が影響を受けやすくする
では、どうして人は、このような影響を受けてしまうのでしょうか?
そのポイントは、「マネ」だと言われています。
人にはモノマネをしてしまうミラーニューロンと呼ばれる脳内の細胞があり、この細胞が反応すると同じような行動を取ろうとしてしまうのです。そしてミラーニューロンの活動が活発になるのは、相手に興味を持って観察していたり、自分の意志力が弱まっているときなのだそうです。
つまり疲れていてあまり物事を深く考えられないときに食事の風景を見ると、自分もついつい食べたくなってしまうというわけです。
しかも他人の行動をマネることで、人はグループに適合しようとすることも知られています。そのマネの中には、自分で意図しないものも含まれると、アメリカ心理学会の社会的伝染の定義には書かれています。さらにグループ内の共通した行動は、それが問題行動だったとしても「みんながそうしているから許される」といった心理を生み出しやすいのです。
暴動などで起こる店舗からの商品略奪、リンチといった行動も、みんなをマネてグループに適合しようとする心理から起きていると考えられるのです。
さらに人の感情も伝染します。普段はサッカーに興味のない人でも、スタジアムの興奮が「伝染」していくように、強い感情はどんどん広がっていきます。
また、他人の意見や行動の影響を受けやすい理由の一つには、期待があると言われています。薬が効くかもしれないという期待が高ければ、効き目のある成分が何も入っていない偽薬で病気の症状が改善する「プラセボ効果」も高まるという研究もあるほどです。
このように社会的に伝染する行動を並べると問題がありそうですが、生物の進化の過程ではマイナス面ばかりではなかったのです。自分たちの仲間に馴染めない異端を排除することは、ときに馴染んでいる仲間の結束を促すことにもなるからです。
現在の企業などでは、多様性を持っている組織の方が生き残りやすいといわれています。また、その必要性を多くの人が認識しています。それでも強い同調圧力が、いきなり何かの形で噴き出すことは少なくありません。
不倫も伝染する

このように改めて友人や環境の影響について考えると、どこまでが自分の意思なのかを考えてしまうことでしょう。
最近の研究では、不倫や浮気についても「伝染」する可能性があることがわかっています。性的な倫理観が揺さぶられると、パートナーとの関係を維持する欲求が減り、誘惑にも負けやすくなるそうです。
このようなことは不倫の現場でも確認されています。というのも不倫している人は、不倫を認め合っている友人がいることがいることが多く、情報を共有しながら出会いの場を開拓していくケースが少なくないからです。誰にでも口外できることではないだけに、秘密を共有した者同士の絆も深く、罪悪感も抱きにくいといったことも起こりがちです。
「浮気探偵.com」が2018年9月、全国の20~40代の女性356人にアンケート調査した結果では、356人のうち約44.9%(160人)が、浮気・不倫経験があり、73.2%の人が不倫・浮気を後悔していないと答えています。この調査は女性だけを対象にしたものですが、米国のアトキンスD.C.は既婚女性の53%、既婚男性の44%が不倫を経験したという調査結果を論文で取り上げています。
不倫の心理を研究するグリットE.バーンバウム氏は不倫への対策として、環境による影響の大きさを知ることや、コミュニティーにいるパートナーと深い絆を持っている人との交友関係を大事にすることをあげています。
互いに不倫をしないようにしたいなら、身持ちの固い人の付き合いを大事にする方がいいでしょう。
隣人が幸福伝染のカギ
ハーバード大学医学部のニコラス・クリスタキス教授と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・フォーラー教授の研究によれば、幸福感も伝染するそうです。また幸福感は同居人よりも隣人や友人の方が伝達しやすいことがわかっており、住んでいる距離にも影響されるとのこと。一方で、会社の同僚の感情には、あまり影響を受けないことがわかったそうです。
幸福な友人が1マイル(1.6キロ)以内に住んでいれば、自分も幸福感を感じる可能性が25%増加。一方、同居人が幸せな場合は8%増加し、近くに住む兄弟姉妹が幸福な場合は14%の増加となります。一方で幸せな隣人は34%も幸せに感じる可能性が増えると指摘しています。
つまり幸福になりたいのなら、ご近所が幸せな住宅を選ぶべきなのです。
私たちの感情や行動は、私達自身が思っている以上に環境や友人からの影響を受けています。だからこそ私たちは生活するコミュニティーを、しっかりと選択すべきなのでしょう。とはいえ全ての環境を自分で選択できるわけでもないので、自分が気づかないうちに周りからの影響を受けていることは忘れないようにしたいものです。
今日は友人や環境の影響ついてまとめました。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「不倫に『感染』しないための新たな心理学的研究」(マーク・トラバース/Forbes JAPAN)/「Contagious Habits: How Obesity Spreads」(Jonah Lehrer/WIRED)