意外に思うかもしれませんが、心理学では退屈についても研究が行われてきました。というのも退屈は意外な悪影響を及ぼすだけではなく、注目すべきサインとなっているからです。退屈にまつわる心理学的知識をまとめていきましょう。
- 退屈は健康を害する
- 退屈を感じる4つの原因
- 退屈は変化サインかも
- 避けられない退屈はどうする?
退屈は健康を害する
「退屈だなー」と思った経験は誰にもでもあるでしょう。あるいは毎日が退屈だと、思い続けている人もいるかもしれません。ただ、そうした感情に注意を向けたりしないものです。
「退屈だ」と思いながらも、何となく日々を過ごしていくのは、大人だと珍しいことではないからです。
しかし、退屈を放置しておくことは、これまでの研究からもあまり勧められないことがわかっています。例えば英国で7500人の成人を対象にした研究では、仕事で退屈している人はしていない人より早く死亡する可能性が高いことが示されたと、ジョージメイソン大学のトッド・B・カシュダン博士は指摘しています。特に心臓病による死亡は、退屈している人の方がしていない人の2.5倍も高いことが明らかになっています。また退屈している人は体を動かすことが少なく、結果的に死を早めてしまっているのではという指摘もあります。
さらに退屈から目を反らすために、アルコールや薬物などを使用する可能性が高まるとも言われています。特に思春期の子どもの薬物依存の予防に、退屈を感じさせないことが有効だという考え方もあるようです。
英国バーミンガム大学のパトリシア・ロックウッド博士によれば、過去の心理実験で退屈のあまり、自ら電気ショックを受けたといった報告もあるほど、人は退屈に耐えられないのだそうです。そうした人の性質は知っておいた方がいいでしょう。
退屈を感じる4つの原因
そもそも人はどうして退屈するのでしょうか?
この疑問に完全な回答を示すことは、なかなか難しそうです。というのも退屈の識別は容易なものの、その定義は困難だと言われているからです。そう、退屈は意外にいろんな理由で起こっているようなのです。
そこで代表的なものを取り上げていきましょう。
①新規性
最もわかりやすいのが、「新規性」との関係です。目新しいことがあると退屈せず、慣れてくると退屈してしまうことは、誰もが知っているでしょう。
この傾向性についても、実験が行われているので紹介します。
ネガティブな映像を連続して見せたところ、人は次にポジティブな映像を選択したそうです。さらにポジティブな映像を連続して見せてみると、ネガティブな映像を望んだというのです。
ネガティブな映像というのもが、具体的にどのようなものかはわからないのですが、人はポジティブなものにも退屈し、ネガティブなものを選択するというのは、面白い結果です。
何不自由ない暮らしに飽きて心機一転といった話は、さまざまな体験談で耳にしますが、退屈の心理学から考えるとそれほど不思議なことではないようです。
②期待値の現実とのギャップ
退屈な場面として多くの人が考えるのは、刺激も発見もない単調な作業などでしょう。もっと挑戦的で、自分の成長に助けになるような時間がほしいといった願いは、自分の期待を下回る現実に退屈している状況です。
ところが逆のパターンでも退屈を感じることがあります。期待以上の現実についていけなくて退屈を感じるケースです。例えば難しすぎる大学の講義などは、その典型です。
つまり退屈は自分の期待値によって変わってくるものなのです。自分の期待にピッタリな現実ではないときに、表れてくるのが退屈というわけです。
実際、休日にやることがなくて寝そべっているときは退屈だと感じるのに、リゾート地などで寝そべっているときは退屈しません。これは同じように寝そべっていても、リゾート地はのんびりしたいという期待に合っているから退屈を感じないわけです。
③感情との距離
トラウマなどがある場合、退屈が感情的な痛みに対する防御反応として出てくる場合があるようです。ツライ気持ちを感じたくなくて、悲しみ、怒り、恐怖、嫌悪、喜び、興奮などの感情に距離を置くようになり、そうした感情をしっかりと感じられなくなると、退屈をより感じやすくなるそうです。いわば感情のエネルギーにアクセスしにくくなった「副産物」が退屈なのだ、と説明している専門家もいます。
④性格
退屈を感じやすい性格の人もいます。
外交的で目新しいことに興味が向き、刺激を求めるタイプの人は、その典型でしょう。また現実への期待値が異常に高い人も、そのギャップから退屈を感じてしまう人が多いようです。例えば、「転職したら毎日が楽しくてやりがいのある仕事が待っている」といった期待が膨らんでしまうようなタイプは、入社してから退屈を味わってしまうケースが多くなってしまうのです。
退屈は変化サインかも
ここまで退屈のマイナス面ばかりを書いてきましたが、プラス面もあります。それは創造的なアイデアの創出を刺激し、新しいプロジェクトを立ち上げる気力につながるなど、変化のきっかけになるということです。
これまで書いてきた通り、退屈は現実が期待通りではなく、目新しい面も見当たらないことで起こります。つまり停滞しているサインとして、退屈が現れることが多いのです。自分が本当は何を欲していて、何に向けて動き出せばいいのかを考えるサインとしての退屈があると考えることができます。
そもそも人はどうして退屈するのでしょうか? 腹が満たされ、何となく生きられたら生物としての人間は安泰で、別に新しい何かを求める必要がないようにも感じます。しかし生物学的な適応から心理を考える進化心理学の観点からは、人類は狩猟採集しながら生きてきた時間が長かったため環境の変化への対応が得意なものの、同じことの繰り返しには耐えられないといったことを、東京大学の國分功一郎教授は書いています。
確かに、いつも同じ場所で木の実を拾っていたら、必ず採れなくなる日がきます。木の実がなくなる前に、飽きたから違う場所で違う実を見つけようと思った人類が生き残ったのだと考えることはできそうです。
現在、私たちは変化の激しい時代を生きています。その意味では、イリノイ大学スプリングフィールド校のシャハラム・ヘシュマット博士が指摘するように、退屈を変化のサインとして受け取るとり、行動することは重要かもしれません。
避けられない退屈はどうする?
ただ、どうしても退屈な状態を我慢しなければならないときもあるでしょう。退屈だけど、この作業だけはサボるわけにはいかないといったケースです。
そうした場合の対策の一つが、時間の概念を加えることです。もっと時間を短縮するためには、どんな工夫をすればいいのかという問いは退屈な作業を面白く変えることができるかもしれません。
もう一つの方法は、退屈を受け入れて、その行動の意義を問い直すことです。それは日々の淡々とした作業を細かく点検していくことから始まります。野球選手が一心にバットを振り、その軌道を観察するように、より良いやり方を追求し続けていくことで、退屈を感じないと説明している専門家もいます。
こうした退屈改善の方法は、やや楽観主義的に感じるかもしれません。しかし、さまざまな領域の専門家は、一見すると退屈に見える作業に意義や意味を見いだした人たちです。そうした発見がないのかを、退屈な作業に探してみるのも解決策の一つでしょう。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「Why We Get Bored and How to Overcome It」(Patricia Lockwood, Ph.D., and Jo Cutler, Ph.D./Psychology Today)/「Boredom」(Psychology Today)/「4 Tips To Reimagine Boredom as a Positive, Because it Doesn’t Have To Be a Burden」(Mary Grace Garis/Well+Good)