「仕事に必要なのは情熱だ」と多くの人が語ります。それは間違ってはいないでしょう。しかし近年、熱すぎない情熱を持ちつつ仕事と適度に距離を置ける人が、欧米で評価されつつあるようです! その理由を解説していきましょう。
- 重視される「デタッチ・エンゲージメント」
- 仕事の成果や情熱だけで人を評価しがち
- 理想と思い込みが強すぎる
- 直近の利益を過大に評価
- 仕事を抱え込みがち
- 周囲の人が委縮する
- 仕事と距離を保つための2つのポイント
重視される「デタッチ・エンゲージメント」
仕事の評価を「情熱」で測り、熱量の低い人を評価しないタイプもいるかもしれません。実際、情熱が人や仕事を動かすことは間違ないでしょう。しかし仕事への熱量が上がり過ぎ、周りからウザイと思われているなら要注意かも! その高すぎる情熱が、仕事の質を下げてしまうかもしれないからです。
日本では成果以上に情熱が評価されるケースがあります。就業時間が多い人ほど評価されるといった文化は、その象徴でしょう。手際よく及第点を生み出す仕事ぶりを、「粘りが足りない」などとあなたが評価しているようなら「情熱のワナ」にはまっている可能性があります。
また上司がそのようなタイプの場合は、その過剰な情熱がどんな弊害を生み出すのかを知っていることは、仕事をする上でプラスになるでしょう。問題の傾向性がわかれば、対処できるケースもあるからです。
こうした仕事への姿勢は、ワーカホリックを生みやすいなど、従業員個人の問題として認識することはあっても、これまでは組織としては評価する風潮があったように感じます。そもそも仕事への高い熱量を批判する理由などなかったからです。
しかし仕事と適度に距離をおく「デタッチ・エンゲージメント」は、欧米などでは採用時に重要な資質と考えられるようになっているようです。それは仕事との距離が近すぎることで、いくつかの問題が生まれてしまいがちだからです。
どんな問題が生まれるのかを説明していきましょう。
①仕事の成果や情熱だけで人を評価しがち
当り前のことですが、私たちは職業人である前に、一人の人間です。仕事ができることと、尊敬されるべき人物であることは、必ずしも一致しません。ところが仕事との距離が近すぎると、仕事さえできれば、成果を上げさえすればその人物を評価するといった状態になりがちです。
仕事は評価しにくい周囲のサポートがあって成果を上げることが多いものです。営業成績がトップの人だけを集めても、必ずしも企業が成長しないことは、よく知られています。
また成果の上がらない人を攻撃するような社内環境もできやすくなってしまいます。結果として職場の心理的安全性が保たれないといったことにも繋がります。それが企業にとって長期的にはマイナスに働くことは、説明するまでもないでしょう。
しかも、こうした思考は同僚や上司・部下だけではなく、自身の評価にも影響を及ぼします。失敗すれば自己評価が下がってしまうため、失敗を恐れた行動を取ってしまうケースもでてしまうからです。チャレンジせず、リスクをまったく取らない仕事ぶりは、長期的には企業にマイナスの影響を与えることになるでしょう。
②理想と思い込みが強すぎる
「職人肌」のこだわりが、仕事を成功に導くことはあります。しかしビジネスのスピードが上がっている現在では、完璧なものを追求しようとする取り組みが、競合他社からの出遅れにつながるケースがままあります。
また情熱からくるこだわりが、ビジネスにとってプラスに働くのかどうかはケースバイケースでしょう。理想が高く、こだわりが強くて、修正・訂正が多いと、自分では満足できるものがつくれても、周りがヘトヘトになるといったケースも出てくるでしょう。その結果として、一緒に仕事を組んでくる関連企業もいなくなるといったことにもなりかねません。
合理的な方法で、成果を出すためには、強すぎる思い込みがマイナスに働くこともあるのです。
③直近の利益を過大に評価
仕事との距離が近くなるほど、細部に目がいきがちです。「これは絶対に落とせない案件だ」と感じているものでも、部全体、会社全体で考えれば、それほど重要な案件ではなかったといったこともあるでしょう。自分には発展性がないと感じてしまうようなルーチンワークの方が、長期視点に立てば重要だといったこともあるのです。
思い入れが強くなり過ぎ、近視眼的になっていると感じたら、大きく全体を見るようにしてみましょう。
④仕事を抱え込みがち
仕事への情熱が強すぎる人は、仕事を抱え込みがちです。自分の方が速いから、自分の方ができるからといった理由で、仕事を抱え込んでしまっているなら要注意でしょう。
仕事を一人でこなす方が、自分の満足できるものをつくりやすいかもしれません。ただ、その結果として仕事は属人的となり、合理的ではなく、生産性も低い状態になっているかもしれないのです。
自分が働いている時間がコストだと考えれば、生産性が低い状況が問題だとわかるでしょう。
⑤周囲の人が委縮する
ワーカホリックかと思うほど働いている人が職場にいると、それがプレッシャーとなって周りに伝わるケースは少なくありません。もちろん会社の利益のために、みんなでギアを上げることはプラスでしょう。ただ、その仕事量が限度を超えているなら、周りの人が疲弊してしまうことになります。
結果として、仕事が回らなくなってしまうことにもなりかねません。継続的に高い成果を上げ続けるには、ワーカホリックのような働きぶりはやめた方がいいでしょう。
仕事と距離を保つための2つのポイント
「デタッチ・エンゲージメント」ができる人は、感情や思い入れを脇に置いて、さまざまなことを判断できます。また理想通りに進まない仕事であっても、状況に合わせて最適な方法を探すようになるでしょう。
ここで難しいのは、仕事と適度な距離を取るにしても、適度な情熱が必要だということです。まったくやる気のない人だけが集っても、仕事が進まないことは言うまでもありません。
心理学に基づいたコンサルティング会社を経営するガーネック・ベインズ博士は、「デタッチ・エンゲージメント」を支える心理的な2つの柱を説明しています。
①責任感
暑苦しいほどの思い入れがなくても、責任感は大切になります。現在の仕事をより良くするために努力したり、終わらせるために集中するには、仕事への責任感が大切です。
そして責任は結果に対して感じるのではなく、日々の仕事に対して感じるようしましょう。難しい案件に挑戦して失敗したとしても、そのチャレンジに責任感を持って挑んでいたなら、自らを卑下する必要はありません。
②自分の成長にフォーカスする
大きなプロジェクトが終わるまでの期間、仕事と適度な距離でつき合うためには、日々の自分の成長に目を向ける必要があります。小さな一歩を踏み出し続けていることで、長期プロジェクトの完成も近づきます。
諦めることなく、過剰なモチベーションでワーカホリックのように働くのではなく、淡々と推し進めていくためには、日々の小さなタスクに注目する必要があるのです。
今日は「デタッチ・エンゲージメント」の重要性と、仕事に熱すぎる人が組織にどんな悪影響を与えるのかについてまとめました。
心のしくみについて興味のある方は、こちらもご覧ください。
監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:「Detached Engagement: How Obsessing Less Can Help Us Succeed」(Gurnek Bains Ph.D./Psychology Today)/「Understanding Detached Engagement in the Workplace」(Trish Cunningham/Brookwoods Group)/「働き過ぎは伝染する… 燃え尽きることなく、ワーカホリックな同僚と一緒に働くための3つのヒント」(Beatrice Nolan/BUSINESS INSIDER JAPAN)