習慣を変えたいと思っている人は多いでしょう。そうした声に応えるように、脳科学や心理学の分野で習慣についての研究が進んでいます。今日は習慣のメカニズムを解き明かしている本から、習慣を変える方法をお伝えしましょう。

- 行動変容は難しい
- 効果があるのは「引っ越し」
- チック対策を活用する
- 失敗も想定しておく
行動変容は難しい
習慣の大きな特徴の一つは、意識的な記憶から切り離されていること。
歯磨きで考えてみましょう。夕食を食べた後に歯を磨くのが習慣化していると、いつの間にか洗面所に行き、何となく磨いています。考えることなく実行しているので、後から思い出すのも難しいものです。実際「今日は歯を磨き忘れていないか」と心配になって思い出そうとしても、ハッキリしないことがほとんどでしょう。
このように自動的に体が動いてしまうからこそ、習慣化した行動は労力を感じることなく繰り返すことができます。学習や仕事で習慣化に取り組もうと思うのは、そうした習慣の特徴によるところが大きいでしょう。
ただ、無意識に体が動いてしまう習慣は、替えるのが容易ではないこともわかっています。気を付けて悪癖を修正したと思ったのに、ちょっとストレスがかかったときに昔の習慣が顔を出してしまうといったことが起こるからです。
スタンフォード大学心理学部のラッセル・A・ポルドラック教授も、
「行動変容を成功させるのはとてつもなく難しい」(『習慣と脳の科学』みすず書房)
と書いています。
だからこそ習慣を変えようと思うならば、より可能性の高い方法でチャレンジし続けることが重要になるのです。
効果があるのは「引っ越し」
習慣には行動の引き金があります。
例えば間食で体重が増えてしまうのは、帰宅の帰り道のコンビニでお菓子を買ってしまう習慣があり、それは帰り道でコンビニの看板を見てしまうからだとしましょう。こうした状況で必要なのは、コンビニの看板を見ないように帰宅のルートを変えることです。
悪癖の引き金を特定し、それを生活から取り除くことは、比較的有名な方法です。しかしトッド・ヘザートンらの研究によれば、習慣の引き金を取り除くことに成功した人は、失敗した人に比べて3倍も多く引っ越していたことがわかったのです。しかも強い意思を持っている人ほど、転居によって行動が変化したというのです。
効果があっても引っ越したくないという人は、勉強やテレワーク時の仕事場を変えるといった方法を工夫してみるのもいいでしょう。行動を妨げる引き金が多く集まる自室から出ることで、別の習慣が生まれる可能性があります。
チック対策を活用する
無意識にしてしまう素早い身体の動きや発声「チック」は、運動習慣を引き起こす脳と同じ部位の活動だとわかっています。そのためチック予防の訓練法は、習慣を直すため方法として役立つことが期待されています。
使えそうな訓練方法を紹介しましょう。
①意識訓練
自分のチックについて学び、チックが起こりそうなシグナルを把握する。
②拮抗反応訓練
チックが起こらないようにするために、新しい代替行動を身に付ける。
③セルフモニタリング
本人または支援者が、チックの発生を監視・記録する。
上記のような訓練法を、英語の勉強をしないで、Webを見てしまうという悪癖に応用してみましょう。
①
どんなときにWebを見てしまうのかを観察します。残業で帰りが遅くなったときや、仕事が忙しかったとき、あるいは帰りの電車でスマホの面白い動画を見ていたときなどなど。どんなときに英語の勉強を放り投げるのかを観察します。
②
Webを見てしまうという悪癖の代替行動を探しましょう。例えば何となくPCを付けるのではなくコーヒーを入れる、PCの無い場所に腰を掛ける、といった行動も有効でしょう。
③
①と②によって、どれぐらいサボリを防止できたのかを観察して記録します。さらに、より英語を勉強できる日が増えるように改善していきましょう。
このチックの訓練法は、チックの低減において標準治療の5倍以上の効果があるそうです。もちろん悪癖すべてが治るわけではありませんが、少なくする効果はありそうです。
失敗も想定しておく

習慣を定着させようと思ったときに、意外に問題となるのが例外的なハプニングです。先程の英語の勉強でいえば、飲み会でサボってからパッタリ勉強を止めてしまったということが起こりうるのです。
会社から真っすぐ帰ってくる自分の行動を予測して、悪癖の引き金を排除しても、飲み会というハプニングには対処できません。そこで将来起こりうる出来事を予測して、細かく計画を立てることをポルドラック教授は勧めています。
例えば「飲み会から帰ったときは、英語の勉強意義を改めて確認し、いつもより簡単なタスク、例えば単語を1つだけ覚えて寝る」というふうに決めておくのです。これまで我慢して頑張ってきたのに、「1回できなかったからダメだ」「もうどうでもいいや」と思わないように、最悪の行動でも自分をコントロールできるように備えておきましょう。
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監修:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
参考:『習慣と脳の科学』(ラッセル・A・ポルドラック/みすず書房)